SS39 夏の終わりの日のCB
北海道は朝晩は肌寒くなってきました。
もう夏は終わりだ。
CBは快調に路上を駆けていく。やがて、有名なチェーン店のカフェが左に見えてくる。前に、レイと自転車の二人乗りできた、あの喫茶店だ。シフトダウンして減速し、軽く右手を握ってブレーキをかける。喫茶店の駐車場にCBを停めた。ヘルメットはミラーにかけたままにした。あまり長い時間いたくはないから。
「いらっしゃいませ、おひとりさまですか?」
店内に入ると、いかにもアルバイトです、というウェイトレスに声をかけられる。
「いえ、待ち合せで・・・・もう来ていると思うんですが。」
そういって、入店し、フロアーをざっと見まわした。時間帯が早いせいで、人はまばらだった。すぐに彼女を見つけた。
通路をゆっくりと歩いて、4人掛けの席で一人で座っている彼女のもとへと近づいた。
オレンジジュースを放置して、彼女はスマホの画面をぼんやりと眺めていた。
「おそかったわね、女子を待たすのはいただけないわよ」
俺がテーブルの傍らに来ると、スマホを眺めたまま、彼女、坂下夕子は感情のない声でそう俺に吐いた。
「悪い・・でも、自転車より早いはずだよ・・・・・」
そういって座り、Ice珈琲を注文した。
「・・・・で、はなしって・・・何?」
ぶっきらぼうな口調から、夕子はどんな話か察しはついているようだ。
「ああ、俺さ・・・」
「部活やめるんだって?」
話しかけたところで、夕子は食い気味に言ってきた。少し腹を立てているようだ。
「・・・・早いな、カリナから聞いたんだ・・・きみら、そんなに仲良しだったんだ・・・意外だよ・・・」
「毎日一緒にランチを共にしてるんだから・・・当然よ・・・」
「そう・・・あ、でもさ・・・」
「私とカリナが仲良しでも、何でも、どうでもいいじゃない!」
突然夕子は声を荒げた。
カチャン、
と氷が揺れる音がした。ちょうどIce珈琲が運ばれているところだった。びっくりしたウエイトレスがトレーを揺らしたのだ。幸いこぼすまでには至っていない。店内にいるまばらな客と店員たちの目が俺たちに一斉に集まる。
「ゆうこ・・・・声が大きいよ・・・・」
「誰のせいよ」
スマホから顔を上げた夕子は、俺をキッと睨む。
「・・・うん、そうだった・・・俺のせいだ・・・」
「で、話しって・・・・レナの事でしょ?」
明らかに不貞腐れて、斜に構える夕子。
「ああ。会いに行くわ、俺。だってさ、レナのそばにいたいんだ・・・」
「そう。で、わたしには、あなたの本気、何を見せてくれるの?」
俺はライディングジャケットの内ポケットからスマホを取り出した。
そして、チャットアプリを立ち上げ、画面を彼女から見やすいように、テーブルに置いた。
「え、何する気?」
あやしげにテーブルの上のスマホを見る夕子。
「うん。こうすんだ・・・・」
俺は、かず、かずえ、そして、智、カリナなど、めぼしい奴らのIDを片っ端からブロックし、そして、削除してった。
そして、最後に目の前のいる、坂下夕子のIDを無言でブロック、そして、削除した。
「・・・・・」
夕子も黙ってその作業を見つめていた。
「・・・・・・じゃあ、そういうことだから・・・・・・もう、話すことはないと思うから・・・・・いま・・・・言っとく・・・・今日までありがとう。俺を仲間にしてくれて・・・じゃあ・・・・」
と立ち上がろうと、テーブルに手をついたとき、
「・・・ばかじゃない・・・・つき合ってもいない女に・・・」
夕子は吐き捨てるようにつぶやいた。
かまわず俺はたちあがり、一口も飲んでない彼女の分と自分のIce珈琲代をテーブルに置いた。
「なに?手切れ金?おごってもらわなくて、いいわよ・・・」
「手切れ金?よせよ、そんな関係じゃなかったろ?おれが呼んだんだし・・・・」
おれを睨みつける、夕子。こんな顔今まで見たことがなかった。が、すぐに沈んだ面持ちを見せる。目を伏せると
「3番目・・・・」
ぽつりと夕子はつぶやいた。
俺は首を傾げた。
「3ばん・・・・め?何が?」
「あなたの中での、あたしの順位・・・」
「は?そんなわけ・・・」
「じゃあ・・・・・どうして、カリナちゃんが、さきなの・・・・」
消え入りそうな声が耳の奥に届いた。
「え、いや・・・それは・・・・・・」
特に意味はない。
「なんとなくなら・・・・もっと・・・・ひどいわ・・・・」
夕子はうつむいた。
ピ、ピ、ピ・・・・・。
うつ向く夕子が握るスマホに通知音がなる。
退部の話が広がったのだろう、でも、俺はみんなブロックして、削除した。
だから・・・夕子に・・・・。
「なんか、大騒ぎみたいよ・・・ちゃんと、説明して差し上げたら・・・・」
両手でスマホを持って、薄ら笑いをする夕子。
「いいや・・・・もう・・・。それじゃ・・・」
俺は踵を返し、坂下夕子に背を向け、立ち去った。
すすり泣くような声がかすかに聞こえた気がしたが、気のせいだ。絶対に振り向かない。
そう、バックギアはないんだ。
CBは駐車スペースに凛としてたたずんでいた。
日の光に照らされ、しかも洗車したばかりのせいか、CBはいつもより輝いて見えた。
しかし、日の光に真夏のような力強さは感じられない。季節のうつろいが、今はっきりとわかった。
もう、残された時間はあまりない。
歩道に引っ張ろうとする奴らとの決別は済んだ。
車道どころか、歩道からもはじかれ、路地裏の迷宮へ消えてしまいそうな、いかした女を助けに行こう。
俺はCBにまたがり、キーをキーシリンダーに差し込んだ。
夕暮れが早くなり、もう、秋だな。憂鬱な冬が近づいてくるな・・・。




