SS37 サイクリストからライダーへと歩むときがきた
車を買うということは、生活を買うことだ、って書いてたのは徳大寺有恒だったかな。
バイクを買う。それはバイクのある人生を買うことだ、俺は思うよ。
日曜日。
朝からCBをガレージから出し、磨くことにした。
バイク用の洗剤をバケツに入れ、水で希釈。
希釈した洗剤をスポンジに含ませ洗う。泡を水で洗い流し、水滴をふき取る。
ワックスを塗って拭き上げたら、終了だ。
洗車が終わったCBは、一段と輝いて見えた。
「お、洗車か、感心、かんしん」
CBをなめまわすようにながめ悦に浸っていたら、不意に後ろから声がかかった。振り向くと、
いつの間にか親爺がいた。
「ま、買ったばかりだからね。中古だけどさ。」
液体ワックスとウエスを手にして、そう答えた。
「洗車は整備の第一歩さ。洗車をがんばる奴は、一人前のライダーになる。」
親爺はニヤリと笑った。
「なあ、親爺たまには母さんを後ろに乗せろよ。」
「え、なんでだ?」
俺からの不意打ちに、親爺は虚を突かれたという顔をした。
「なんでも!」
「うーん・・・タンデムはあんまり・・・」
「タンデムもきっとたまになら、いいもんだよ、たぶん。」
「うーん・・・・そーかもな・・・」
首をかしげて、考え込む親爺。
「じゃ、俺で出かけるから、よろしく!」
「お、おう・・・」
親爺をおいて、玄関へ向かう。たたきの右にある下駄箱の上。ヘルメットとグローブ、そして、ライディングウエアが置いてある。
素早くウエアを着、ライディングシューズに履き替える。
ヘルメットを小脇に抱え、CBのもとへ。
親爺は洗車したてのCBの横でしゃがみこんでいた。
俺の足音に気づくと立ち上がり振り返って、
「チェーンもちゃんと清掃したんだな・・・スプロケも・・・」
「ああ。そこが大事でしょ?」
「ふふ、いっちょ前になってきたな。気をつけろよ」
親爺は満足気な笑みを浮かべていた。
いつもは自転車で通る道をCBで走る。エンジンがついただけで、いつもの通学路ですら、なんて魅力的になるんだろう。同じ2輪でも全く違う。
そうだ、俺も、いつものサイクリングマンからライダーになるんだ。
徒歩とバイクの間にある、自転車のような中途半端なやつから、ライダーになるんだ。
もう、徒歩にはもどらない。いやもどれない。
信号が赤に変わり、停車する。
俺がどうして、カリナと夕子を断ち切れなかったのか・・・・。
怖かったんだ。
学校と言う閉鎖された空間で孤立するのが。
彼女たちを通して、クラスや部活と繋がっていたかったんだ。
(「自称ぼっち詐欺はもういいわ」)
レナの言う通りだ。
俺はぼっちとうそぶいていても、そのくせ、一人になることを怖がっていた。
左に見える歩行者信号の点滅し始める。
クラッチを握って一速へ。
目の前の信号が青へと変わる
軽くアクセルをあおってスタートする。
レナは・・・否応なく一人だ。毎日あの席で、一人で過ごすんだ。孤独しかなかった。
それに比べて、俺はどうだ。
災害報道を見て、気の毒に思いながらも、ボランティアンに駆けつける気もないやつと一緒だ。
テレビの前で戦争反対を叫んでいる偽善者だ。義勇兵になる気もないくせに。
歩道という安全地帯を抜け出せず、自転車をこぐ高校生。車やバイクを羨ましいと思いながらも、危ないからと言い訳していたやつ。それが昨日までの俺だ。
きっとレナはそんな俺を見抜いていたんだろう。だから・・・。
待ち合わせの公園が見えてきた。
スロットルを緩めて、ウインカーを点け、フロントブレーキをかけて減速していく。公園内の駐車場へとバイクを乗り入れる。
もう、後戻りはしない。そうだ、バイクにはバックギアはないのだから。
レナはもう少しで帰ってくる予定です。




