SS36 目的地に辿り着くことが目的じゃない
女々しい主人公かも。
本気とは何のことだろう。何に対する本気だろうか?彼女たちの問う「本気を見せて」の本気。それは誰に対しての本気なのだろうか・・・・。
公園でカリナと夕子と別れたあと、薄暗くなった路地をとぼとぼと歩いて帰った。さっきまでの彼女たちの言葉がしこりのように胸にのこった。
「なに、ボーっとしてんの?風呂入ってしまいなさい」
夕飯後後、母にドヤされて、あわてて入浴をすませ、早々に寝床についた。
ピッ・・・・
次の日の土曜。SNSの通知音で目が覚めた。
「今日の部活、行くのか?」
「いや、今日は休むよ」
智からのメッセージに返事をし、ベッドから這い出す。
本気の意味を考えているうちに寝てしまった。窓に目を移すと、カーテンの隙間からは光が漏れていた。カーテンを開ける気にもならず、クローゼットから着替えを引っ張りだした。
着替えを終え、リビングへと階段を下りた。
「あら、はやいのねぇ?どうしたの?」
7時過ぎにおきてきた息子がめずらしいのだろう。母は物珍しそうに見てきた。
「おはよう。親爺は?」
「朝5時にでたわよ。昔の仲間にあうんですって」
「・・・・そう・・・・」
少しがっかりした。久しぶりに親爺と走れば、今抱えている問題を解決するきっかけができたかも、と思ったのだ。
「なに?乗りたかったの?」
「ああ、まあ・・・」
「へぇ~・・・・めずらしいわね~・・・・朝は?」
「ああ、ありがとう食べる。」
ダイニングテーブルに座ると、ベーコンエッグとトーストが並んだ。
母と向かい合わせでトーストにかぶりついた。
「あんたから、乗りたいなんて、珍しいわねぇ・・・なんかあったの?」
「いや、なんか、気晴らしがしたくてさ」
「ふーん・・・ま、新しいバイクだし、乗りたくなるわよねぇ」
それは、あんまり関係ないな・・・。少しはあるかもしれないが。
「少しのってきたら?我慢するのはよくないわ。我慢すると、かえって危ないのよ。」
「そーゆーもんなの?」
母は微笑みを浮かべた。
「そうよ、ためると、爆発するのよ。そして・・・自爆!!」
「こえーは、それ・・・」
「だから、行っといで・・・」
母もライダーだっただけに、説得力がこもっている。
「母さんもたまにはどう?」
「母さんはいいわ。もう、乗らないって決めたの。」
と母は寂しそうに笑った。
「あなたが生まれたときに決めたの。もう乗らないって・・・・」
「え・・・」
「ふふ、だってお父さんはやめないだろうし・・・もし、私もやめないで、夫婦そろって事故でも起こしたら・・・わかるでしょ?」
母は軽い口調で話しているが、大人として、いや、親としての言葉に、返す言葉は見当たらなかった。
「こうくんも、いずれわかるときが来るわよ。きっと。」
ヘルメットを抱え、意を決して玄関を歩み出る。さっきガレージから出しておいたCBが玄関先でたたずんでいる。ヘルメットをかぶり、グローブをはく。(北海道では手袋類は「はく」です。)
シートにまたがり、キーをオンにし、セルボタンを押す。
シュオオー―――ン
軽快な2気筒のエンジンオンがヘルメットに響いてきた。
スタンドを払って、クラッチを握り一速へ。
カンと、軽く入ってしまう。アクセルをあおりって、クラッチを少しずつはなしていく。半クラをかませつつ、アクセルをさらに開けていくとCBは進み始め、俺の家を置き去りにした。
あてもなくCBを駆っていく。
気がつくと大きな国道へと出た。
ルート337。信号も少なく、どの車もスピードを上げて走っている。2車線の左を常識的なスピードで走るが、時折、ものすごい勢いで抜かれていく。
思わずアクセルが開きそうになるが、自重した。
母の決心を聞いた後では、無理はできなかった。
大きな橋を渡ると、札幌市は終わり、当別町へと入る。橋を下りるとすぐに信号がある。そこで左折し、右手に大きな菓子工場を横目に、しばし進む。横道に右折して、2㎞進んだところでまた左折。そのまま進むと、小高い丘にぶつかる。丘に続く道を進むと、別荘地のようなおしゃれな住宅街に入っていく。そこを通り抜け、海岸を目指す。
海岸に向かう道路は軽いワインディングとなっている。右へ左へCBをバンクさせ、コーナーをクリアしていく。このあたりでは有名なワインディングなので、時折、ものすごい勢いでリッターバイクに抜かれていく。400とはいえ、2気筒では、なすすべはない。ワインディングを抜けると、海岸伝いに伸びる、ルート231にぶつかる。いつも親爺と走るルートだ。今日は道の駅まで行かず、途中にある忘れ去られたような展望台へ行く。自販機どころか、トイレすらない展望台。10台程度停められるであろう駐車スペースには1台も止まってはいない。半円状に突き出している展望スペースの、一番近いパーキングスペースにCBを滑り込ませる。
バイクを停め、スタンドをかける。ヘルメットをミラーにかけ、展望スペースに3つ並べてある真ん中のベンチのど真ん中にすわる。展望台からは畑が広がりその向こうに海が見える。朝日に照り返され、きらきらと光をこぼしていた。
「本気かぁ・・・・」
ぽつり、独り言をはく。
俺の本気を見せるしか周りは納得しないのだろう・・・。
カリナと夕子の月明りに照らされた顔を思い出す。
俺も、母の決心のような本気の気持ちを見せるしかない。
それは・・・・・。
まあ、バイク乗りなんて馬鹿でナルシストで、女々しいんだろな。




