SS33 笑われる資格もないほどみじめなライダー
吸気系の清掃をショップがしてくれたので、
車検後のバイクの調子がすこぶるいいです。
夕子と向かい合わせに2人きり。
出入りできるところ以外、壁に囲まれているこの13番テーブル。2人きりだと流石に、緊張する。
「・・こういち・・・・話ってさ・・・・レナさんのこと・・・でしょ?」
「うん・・・」
コーヒーカップに手を伸ばし、一口飲む。口の中に苦みと酸味が入り混じった、独特の味が広がる。
「好きになった・・・いえ、そんな簡単な言葉じゃ・・・・片づけられないみたいね・・・」
手に持っていたカップをソーサーにもどすと、夕子の言葉が俺に突き刺さった。
「そうだな・・・そんな簡単な言葉で言い表せられないな・・・・でも、友だちってわけでもない・・・。なんか上手く言えないんだ・・・・でも、彼女の、レナの傍にいなきゃ、いや、いかなきゃって・・・・」
「すごいわね・・レナさん・・・出会って、3カ月くらいでしょ?・・・あなたたち・・・・」
「ああ。でも、つきあ・・・・いや、過ごした時間の長さじゃないさ。そうだろう?人と人ってさ・・・」
夕子はうつ向いたまま、俺の言葉をきいている。こんな個室みたいなテーブルにじっとしている姿はまるでドールハウスの人形のようだ。ピクリともしない。
「人と人・・・男と女ってことじゃないの?こういち・・・・」
「そうかもしれない・・・とにかく、おれは・・・・」
と言いかけると、うつ向いていた顔をさっと上げ、俺の顔を見据える。
「・・・寝たの・・・・レナと・・・」
揶揄うような言い方じゃない。小さな、でも、はっきりと意思の塊がこもった言葉。まるで、のど元に突きつけられたナイフのようだ。
「・・・・そんな・・・わけ・・・ないだろう・・・付き合ってもいないんだ・・・・」
俺の答えを聞いた瞬間、彼女、坂下夕子はかすかだが、ほんとにかすかだが、ふっ、と笑った。
「じゃあ、友だちよね。いや親友って感じかな?私たちと、同じように。」
そう言いながら夕子は顔を上げ、腕組みをしてにやりと笑った。
「え、おれたち、親友なのか?」
「ええ、そうでしょ?友だちで仲間だし。ま、レナさんほど、大事にされてないけど。」
「いや、その、レナは、友だちとか親友って感じではないんだが・・・俺の中では・・・」
「こういちとしてはでしょ?でも、レナさんがどう思ってるかはわからない。それに・・・・」
「それに?」
「特別な、事実もなかった・・・・」
あ、っう・・・。
夕子の勝ち誇った顔が、こう言っている。「チェックメイト」と。
「じゃあ、がんばって、こういち、応援してるわ・・・」
夕子は俺の左手を両手で握ってきた。
「え、あ、あ、ありがとう・・・・」
何を応援してるんだ、夕子、お前は・・・・。夕子はレナの秘密をしっているのか?いずれレナが・・・・消えることを。
全部知ってて、この場に来ているような・・・・。いや、まさか・・・・。
「ね、こういち、あのバイク、今度のせてよ、後ろにさ」
夕子が両手に力を入れる。きゅっと握られる、俺の左手。
「・・・ああ。わかったよ・・・その、こんど時間あるとき・・・」
「ありがと。じゃあ、私、帰るね。」
にこっと笑った夕子は席を立った。そして、個室を出るとき、俺にもう一度、微笑みかけてから、歩いていった。
カズとかずえに、一言、二言話しているのが、ぼんやりと耳に入る。
そして、
カラララララン・・・パタン
店のドアが開き、閉じた音。
カズとかずえが個室へと近づいてくる気配がする。
「こういち・・・話し、つけたのか?」
カズが俺の方を訝しそうに見てくる。
「・・・いや、夕子の方が・・・・役者が上だったよ・・・・」
俺の答えを聞いたかずえは、右手で額を押さえて、やれやれ、というふうに、首をふった。
「・・・ま、ゆうこもすっきりした顔してたし、とりあえず、いんじゃね?」
「あんがと、かず・・・付き合わせて、悪かった・・・」
俺は、友人にバイクを見せびらかせにきた、サイテー野郎です。
笑われる資格もないほどみじめなライダーだ。
ライダーでもない友人たちバイク見せびらかすのは、
かなり恥ずかしい。が・・・若かりし頃は・・・しました!
すいません。




