SS25 8月の子ども達
Ice珈琲が好きです。
アイスティーよりも。
夕方のCafé Happy & Sad。16時を過ぎても客はレナと俺だけだ。
マスターは洗い物を静かに進め、奥さんは奥に引っ込んでしまった。
「・・・あのさ・・・・レナ・・・・」
テーブルをはさんで黙って座っているレナ。おそるおそる俺は話しかける。
「なぁに・・・」
「・・・・話たいことって・・・」
俺の問いかけにレナは無表情を見せたままだ。黙ってストローで薄くなったice珈琲をかき混ぜている。
「・・・・バイト先見つけたの・・・偶然だったのよ・・・・お迎えの車に乗ってるとき、たまたま通りかかって・・・・見かけたの・・・この店。」
ice珈琲をかき混ぜながらぽつぽつと話だした。
「・・・消えちゃうのはしかたないと、思ってるわ・・・・でも、けじめはつけないと・・・・うううん。ちがうわ・・・レイと話して終わりていうのは・・・ずるい、いえ、悔しかったんだと思う。」
「悔しい?」
「ええ、だって・・・・・私の友だちでしょ?あなた。」
「・・・・うん・・・・・そうだね・・・たしかに」
確かめられて、納得してしまう。自嘲気味に俺は微笑んだ。
「で・・・話したいことは・・・なに?」
すると、レナはようやくふっと、笑みをこぼした。
「あの子が私を憎んでるのは解ってたわ。でもね、こうしたのも彼女じゃない。わたしのせいにされても困るし・・・・。付き合わない?って言われたんでしょ?」
「ああ・・・言われたよ。でも、冗談だろ。」
「うん、半分は・・・でも、半分は・・・・・」
「半分は?」
「私への意趣返し・・・仕返しよ。じゃないと、日記にわざわざ書かないわ・・・・」
「なるほどね・・・。パパのお別れを奪った相手の、たった一人の友だちを最後に奪ってやろうってことか・・・・」
「そういうことね・・・・。で、まさか、付き合ったりしないわよね?」
「無論」
「ま、そうでしょうね・・・彼女みたいな人、あなた苦手でしょ。じゃなかったら・・・・」
レナはCaféのドアへ目線をおくった。
「あの子か、夕子さんともう付き合ってるわ。」
「・・・・・・」
「そうなっても、私には・・・どうこう言う資格ないけど、でも、レイと付き合うのだけは勘弁してって感じよ。」
レナの表情が曇る。まぁ・・・それは・・・そうだろう。察しがつく。
「私が話したかったのはそれだけよ。じゃぁ、そろそろ帰るわ。」
「早いね」
「あら、名残惜しい?」
「・・・ああ・・・・そうだよ・・・・だって、最後だろう・・・・」
正直に。そう、素直に俺はレナともう少し話していたい。
「・・・ありがと・・・でもね・・・だめなの・・・最近、私の時間・・・・すくなくなったの・・・・」
「え・・・・・」
「人格統合が進んできたと思うの・・・・だから、早めにもどらなきゃ・・・」
「そんな・・・・」
「・・・そういうことだから・・・・・ごめん・・・・今まで・・・・・ありがとう。あなたと知りあえて・・・よかったわ・・・・・・」
「あ、待って。」
立ち上がろうする、レナを制した。
「・・俺もレナと知りあえて、よかった・・・。だって、俺は・・・・」
「言わないで!」
いつにない強い口調で言葉を遮られた。
「それ以上言わないで・・・・・・・つらくなっちゃうから・・・・」
「・・・ごめん・・・あ、じゃあ・・・」
「なに?」
「あの貸した本、餞別代りにプレゼントするよ。」
その言葉にレナは目をみはっていた。しかし、すぐにいつもの落ち着いた態度を取り戻した。
「そう・・・ありがとう・・・・。だいじに・・・・するわ・・・・」
そう言うやいやな、レナは立ち上がった。彼女の目は見たこともなく潤みをたたえていた。ドアへと向かう、彼女の後ろ姿をただ、眺めることしかできなかった。
「こういちくん」
と、マスターの声。
「はい。」
「彼女の分も、私が奢るよ。」
「・・・・ありがとうございます・・・」
彼女の残していったice珈琲を眺めた。グラスにはもう、ひとかけらの氷も残っていなかった。
夏休みもあとわずかですね・・・。




