SS18 陽光と陽炎のエリア
なぜだ。なぜ、バイクのタイヤは高いんだ!
リアだけで工賃込みで4万ちかくかかるぞ。
レイの母と話した次の日から、フードコートには行かなかった。
レナからの連絡は途絶えたままだ。しかたなく、部活に精を出す。
30m先の的に狙いをつける。
離れていこうとする弦を我慢し、じっと「はなれ」(うつ瞬間)を待つ。
だが、はなれない。どうしても。じっと的を睨んで、弓を引き絞ったまま。
離れてしまったら・・・矢はもどってこない。
「こういち・・・そろそろ・・・」
しびれをきらした智が声をかけてきた。
俺はゆっくり弦をもどして、矢を放たずに、射場を後にした。
「こういち、どうした?」
心配そうな声の智。
「え、いやなんでもない・・・・ごめん・・・・」
智は俺の顔を伺うように見てくる。
「こういち・・・・・今日は帰ったらどうだ?」
「ああ・・・そうするよ・・・」
道場の壁掛け時計を見ると、まだ17時前だ。
急げば間に合う時間だ・・・・。いやいや、なんに間に合う時間だ。もう、彼女はこないのに・・・・。
そう、自分にいい聞かせて、俺はまっすぐ帰宅した。
夕飯を済ませると、何もする気もせず、すぐにベッドに横になった。
ブー・・・・ブー―・・・ブー――。
SNSの通知で目が覚めた。自室の壁掛け時計を見ると10時を少しまわっていた。上半身だけ起き上げた。
すぅーーー。
はぁーーーー。
鼻から息をすって大きく吐きだした。
寝付けなかったせいか、少し眠たい。枕元のスマホを取り上げ、メッセージを確認する。
「・・・・・え・・・・・・」
若干の驚きに、目を見開いた。
すぐにベッドから跳ね起き、転がるように1階へ。
洗顔と歯磨きを素早く済ませ、再びに2階の自室へ駆け上がる。
「ちょっと、こうちゃん、どうしたの?」
母が少々腹立たし気な声をあげた。
「あ、いや、友だちとの約束、わすれてて。遅刻しそうなんだ・・・」
階段をかけ登りながら、そう言い訳をたれた。
「あら、じゃあ、おくってこうか?」
え、それは・・・まずい。
なにがってわけじゃないが、まずいと思う。そう考えながら、着替えをすます。
そして・・・・。
階段を再び駆け下り、
「いいよ、バイクで行くから。」
と、玄関からリビングに向かって叫ぶ。
「えっ・・・・あんた、一人で?だいじょうぶなの?」
意外な答えに、母は面くらったらしい。
「そんな遠くないしだいじょうぶだよ」
そう言って靴をつっかけてガレージへ向かった。
シャッターは開いていた。
親爺のCB1300ボルドールはなかった。早朝から出かけたらしい。
薄暗い中、VT250スパーダの赤いカラーが鈍くか輝いていた。
「ずいぶんと、ご無沙汰ただったな?」
スパーダはそう言ってる気がした。
「ああ、ごめん。いろいろあってさ・・・。でも、今日は、お前が必要だ。」
「だから、あの時もいったろう?俺にしとけって!」
「そうだな・・・」
俺はガレージから彼を引っ張り出し、そして、またがった。
ミラーにかけたヘルメットに手を伸ばした時、
「昼は?食べるの?」
リビングの窓を開けて、母が尋ねてきた。
「いや、いらんわ。」
そう答えると、赤いメタリックカラーのヘルメットをかぶり、顎ひもを閉めた。
「さって、行くよ。」
イグニッションキーを回してONにし、セルのボタンを親指で押した。
キュル、ファウーーーーーン。
一発始動。サンキュー親爺。いつも整備ありがと!
「で、どこへいくんだい?」
「ⅯⅮ森林公園だよ。」
「は、けっこうあるな。気をつけにゃ。」
「おう。じゃ、行くぜ」
スパーダとの会話が俺の気持ちを落ち着けさせた。
クラッチを握り一速にシフトを入れる。
カタンと軽くバイクは揺れる。
半クラッチで、アクセルを開け、少しずつクラッチをつないでいく。
ククっと前に進もうとする車体。
そのまま、アクセルを開け、クラッチを徐々にはなす。
シュォーンという排気音とともに、俺と彼は陽光と陽炎の揺らめく路上へ飛び込んでいった。
とりあえず、安い店探そう。代えないと車検通らん。




