SS15 別種の生命体、あるいはレナとレイ
今日は一応、両方、投稿できました。
「お待たせしました、アイスコーヒーの方・・・・」
注文してほどなく、飲み物が届いた。
やたら大きなブーツ型のカップに入ったレモンスカッシュ。レモンは自分で絞って入れる。つば広の帽子のような絞り皿に、半分に切られたレモンを押し付ける彼女・・・岡部怜奈。目の前にいるのは、姿かたちはレナだが、別人だ。
アイス珈琲を一口飲む。
ファーストフード店のアイスコーヒーと違い、率直にうまい思う。が、味どころではない。彼女の正体に気持ちはすべて持っていかれている。
「ふぅ~」
レモンを絞り終えた彼女は、嬉しそうにブーツがのコップにレモンの汁を注ぐ。
そして、ストローで一口飲む。
「あ~、おいし~。ここ来たら、やっぱこれだわ。」
こんな素直に笑う彼女を、レナを俺は見たことがない。
「じゃあ、こういちくん・・うーん・・・なんか呼びにくいわね・・・いちくん。いちくんって、よんでいい?」
突然のニックネーム決定に俺は少々、面食らった。
「・・えっと・・・・かまいません。じゃあ、俺は何って?」
「そうね・・・れいな、じゃレナとあんまかわらないし・・じゃあ、れい、うん、レイってよんで。」
それもあんまり変わらないんじゃ・・・。という言葉を飲み込んだ。
「ああ、わかった、じゃあ、レイさん、その、いろいろ教えてくれる?」
こくんと、うなずくレイ。そして、レモンスカッシュを眺めたあと、意を決したようにこちらに顔を向けた。さっきまでの笑みがうそのように、こわばった面持ちだ。
「・・・・あのね、レナはね・・・私なの。」
「え、それって・・・・」
「うん。レナはね、・・・・・・もう一人の私。私ね・・・・解離性同一性障害なの・・・」
「解離性同一性障害?」
「うーんとね、簡単に言うと、私の中にいる別人格。多重人格って、やつね」
そういって、レイは照れ隠しのように、にやっと笑った。
「多重人格・・・」
「そう・・・。だから、あなたと私、「レイ」と「いちくん」は今日が初対面」
「え・・・・。じゃあ・・・・どうして、レイは俺が「加古川浩一」・・・って・・・」
「ああ、それは、お互い困らないように、交換日記をしてるからよ。」
「交換日記?」
「うん。入れ替わってるとき、お互いの記憶に残らないから・・・。だから、周囲と齟齬がでないように大事なことは知らせあってるの。」
「ああぁ~・・・なるほど。」
「それに、私のことを「レナ」と呼ぶのは、たぶん、いちくんだけよ。・・てか・・・・・そもそも、「レナ」には、いちくんのほかに、友だちなんて、いないわ。」
呆れ顔の「レイ」。
「そうか・・・だから・・・・あんな寂しげに笑うんだね。」
「・・・・ふぅーん・・・・寂しげ、かあ・・・いいなぁ~。私、そんな風に言ってもらったことないな~・・・」
と言って、レイは、レモンスカッシュを口にした。
何か、含みのある言い方が気になった。
「ま、いいわ・・・ところで、いちくんはさ、レナが好きなの?」
「・・・え・・・・」
不意な質問に、意表を突かれた。
「いや、どうかな・・・夕方あってるだけだし・・・いい友達だとは思ってるけど・・・」
レイはじっとおれの様子をうかがっている。穏やかな微笑みを浮かべて。
「じゃあ、なに?好きでもないのに、毎日、夕方会ってるの?」
「まあ・・・・下心ないとは・・・いえないかな・・・」
「正直でよろしい。」
と、レイは、にまっと、笑った。しかし、すぐに浮かない顔を見せた。
「でもね、もし、少しでも好きと、思ってるなら、もう、レナとは会わない方がいいわ・・・」
「え・・・どうして・・・」
「えっとね・・・レナはね、最初からいたわけじゃないの。」
聞くな。俺の心がそう言っている。
後悔するぞ。そう、知らせている。でも、彼女の言葉を待ってしまう。
「・・・・レナが、現れたのは去年、高1になってからなの・・・」
彼女、レイはレモンスカッシュのストローを右手で弄ぶ。
「そう・・・なんだ・・・・」
「うん。ま、あることがきっかけでね・・・まあ、それはいいわ。で、最近ね「レナ」の出てくる時間が減ってるの。」
「・・・・・・・」
「お医者さんが言うには、人格統合が始まってるんじゃないか、って」
「え、じゃあ、統合されたら・・・・」
「うん。レナは・・・いなくなるわ・・・」
レモンスカッシュのストローをくるくる回しながら、何でもないことのように、レイは話した。
「・・・・」
何も言えずに俺はアイスコーヒーを眺める。いつもよりコーヒーの色が黒く感じる。
「だから」
俺ははっとして、レイの顔をみる。
レイは真剣な眼差しで俺を見ていた。
「少しでも好き、いえ、好きになってしまいそうなら、もう、会わない方がいいわ。レナがいなくなるのは、明日かもしれないし、一週間後かもしれない。いえ、今この瞬間かもしれないわ。だから・・・」
何も言えない、俺。彼女、レイの顔を伺うことしかできない。
「もし、好きになるなら・・・私にしておいて。レナじゃなく、レイ。主人格の「私」はいなくならないから・・・。」
「いや、それは・・・」
「ふふ、冗談よ。でも、レナと会うのは、もう、やめて。それが・・・・」
レイは頭を抱えだした。
「どうしたの?具合でも・・」
「え、なんでもないわ・・・どうやら、いなくなるのは・・・今日じゃ・・・ないようよ・・」
そい言うと、レイはポケットから手帳のような小さなノートをとりだした。
「ごめんなさい、ちょっとメモさせて・・」
テーブルにノート開き一心不乱に書き始める。俺は茫然とそれを眺めていた。
「ごめんなさい。あなたと会ったこと、今、話したことを書いておかないと・・・・」
「じゃあ、それが・・・」
「そう…交換日記よ」
おれの方には目もく、ずレイは言った。
「なぜ今日は違うって・・・」
「入れ替わる前に、頭痛のような、頭が重くなるような、そんな感覚があるの・・・」
ああ、じゃあ、さっきのが・・・。そうか。あの時も。
あの・・・・迎えを呼んだ時も・・・。
「ふふふ・・・まだ、いつもの時間じゃないのに・・・・そう・・・・・・」
ペンを走らせながら、レイはつぶやいた。
「いつもの?」
「いいえ・・・・・なんでもなーい・・・さって、書き終わったぁー」
レイはそう言うと、ぐっと手を伸ばして、伸びをした。
そして、店員を呼んだ。
「すいませーん。アイスコーヒー追加で!」
「え、俺、まだ残って・・・」
「いちくんのじゃないわ。ふふ」
俺の答えに、レイはいたずらっぽく笑った。
北海道も、もう内地と変わらんくらい暑いわ・・・。




