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ゲームは日本で作られただけあって、
12か月あって、入学式は4月。
つまり、4月から次の年の3月までが、
ゲームの舞台となる。
時は過ぎ6月。
最初の恋愛イベントを迎えようとしていた。
このゲームの特徴は、
王子ルートを攻略したい場合のみ、
他のキャラの好感度を少しだけ上げて、
そのキャラを攻略しないぐらい上げ過ぎないという、
調整が必要になってくる。
最初これを知らなくて、
差し入れとか王子に渡していて、
結局王子は落とせないというパターンに陥って、
攻略サイトを見て、改めて、王子を攻略した経験だ。
最初の恋愛イベントは護衛騎士、
6月に行われる、剣術大会に差し入れをするという
イベントだ。
先ほどのセオリー通り、
王子ルートを狙っても、アーサーに差し入れするのが、
正しいルート。
まずは、そのアーサーに差し入れする、
サンドイッチ作りである。
「こんなにシンプルでいいんですか?」
セシリアが聞いてくる。
用意したのは、パンにレタス、チーズ、ハムを挟んだ、
オーソドックスな物、
手が込んでいるとは、到底言えない。
「確かにシェフに作られている人は、
もっと凝ったのを用意していると思うけど、
いいのよ、どうせ食べられないし」
その言葉にセシリアが首を傾ける。
その姿に苦笑しながら、話を続ける。
「当日、いろんな令嬢、
他にも観客から差し入れがいっぱいされるわ、
一人では食べきれないでしょう?
なので、ほとんどの差し入れは、
貧しい人や教会に渡されるの」
「なるほど」
「それにしてもアーサー様でいいのですか?」
「なぜ?」
「ウィリアム王子にお渡ししなくても・・・」
あら、セシリアは王子に渡したいのかしら?
いい傾向ねと思いながら、話を続ける。
「王子は毒の心配があるので、
こういった物は受け取らないでしょうからね」
セシリアはそうですか。
と少し残念そうに、真剣にサンドしていく。
それを籠バックに詰めて、
明日の剣術大会に備える。
「明日が楽しみね」
「はい」
サンドイッチを作り終えると、
馬車でセシリアを寮まで送ったのだった。
次の日、剣術大会。
残念ながら、本職の剣士ではなく、
あくまで学園のイベント。
剣の腕には差があり、あっさり勝敗が決まったりと、
さして見ごたえがあるとは言えない。
しかし、その事に不満を持つ令嬢はいない、
剣術大会とは、名ばかりで、
今日は狙いの男性に堂々とアタックできる、
数少ない機会と、皆浮足立っている。
「王子とアーサー様はさすがですね」
「本当ね」
王子は剣術に優れていると聞いていたが、
実際にはどのぐらい凄いのか判断できないぐらい、
早いスピードで勝利を収めていく。
当然、決勝は王子とアーサー様で、
剣術大会として、唯一見どころのある戦となった。
とはいっても、やはり護衛騎士のアーサー様が強い、
ここにきて、王子が相当な腕である事は分かったが、
それを余裕でかわす腕がアーサー様にはある。
カンカンと剣と剣が交わる音。
それ以上の観客の声援。
それらが、場の雰囲気を最高潮に盛り上げていた。
「面白かったですね」
「ええ、そうね」
昨日作ったサンドイッチを持って、
アーサー様の元へ向かう。
サンドイッチはレタスだけは今日の朝に挟んだ。
シンプルだが、ハムもサンドイッチにあう物を、
肉屋に聞いて買った物だし、
貧しい人達には喜んでもらえるだろう。
「アーサー様」
姿を見つけ、アーサー様の元へ行く。
すでに令嬢、観客の人だかりができていて、
凄い人気だ。
順番を少し待って、サンドイッチをアーサー様に渡す。
「これ、差し入れです、優勝おめでとうございます」
「ありがとうございます、これ、私が頂いても?」
「ええ」
なぜか困惑顔のアーサー様に気にせず、
籠バックを渡す。
「手作りです、お口にあうといいのですか」
まあ、アーサー様が食べる事はないと思いますけどね、
暗にそんな思いを込めて、言ってみる。
「手作り!?」
アーサー様は心底驚いているようだった。
確かに、差し入れとはいえ、
シェフが作るのが大半だと思うけど、
そんなに驚く事かしら?
そう思っていると、ひょいと私が渡した籠が、
取り上げられた。
「アーサー、沢山もらって余っているだろう?
これは私がもらって構わないか?」
言ったのは、王子のウィリアムだ。
王子が現れ、その場にキャーという黄色い歓声が上がる。
あら、私のサンドイッチ、
王子が召し上がるの?
毒の確認は大丈夫なのかしら?
「これ、頂いても?」
完璧な王子スマイルで確認を取る王子に、
「ええ、どうぞ」
と私も笑顔で答える。
このイベントで大事なのは、
あくまでセシリアがアーサーに差し入れをする事、
私のサンドイッチなど、
正直誰が食べても構わない。
「では私はこれを頂きましょうか」
とセシリアが持ってきたサンドイッチを、
アーサー様が口に運ぶ。
やった!イベント成功!
公平を期す為、食べたのは1つだけ、
他の令嬢のも、少しづつ食べるという気遣いを見せる
アーサー様に対し、
王子は私のサンドイッチだけを、
ぱくぱくと食べている。
あの様子だと全部食べてしまいそうね。
いいのかしら?
「美味しい!手作りというのは本当?」
「本当です」
「私が保障します!」
あら、一緒に作ったセシリアが保障してくれたわ。
「君は天才だな」
「うふふ、お褒めにあずかり光栄です」
そうして、1人目のイベントは無事に終えた。
「これ、差し入れです、優勝おめでとうございます」
元々アーサーを探していたが、
キャサリン嬢の声が聞こえて、
慌ててアーサーの元へ向かう。
「ありがとうございます、これ、私が頂いても?」
「ええ」
アーサーが困惑しているのが分かる。
「手作りです、お口にあうといいのですか」
その言葉を聞いて、いてもたってもいられなくなった。
キャサリン嬢の手作りの品を食べる機会など、
今回を逃したら、永遠にないかもしれない!
「アーサー、沢山もらって余っているだろう?
これは私がもらって構わないか?」
あまり、行儀がいいとは思わないが、
横取りする感じで、キャサリン嬢のサンドイッチを手に入れる。
アーサーに渡せなくてがっかりされたらどうしようかと
思ったが、そんな事はなく、
むしろ笑顔で進めてくれて、ほっとする。
どんなに不味くても褒めちぎるのだ!
令嬢の作った物など、最初から期待していない、
それでも、ここは褒める作戦でいこうと、
決意して口にサンドイッチを運ぶ。
味が心配なのか、
じっと私を見つめるキャサリン嬢が可愛い。
自分を見つめている・・・
それだけで、彼女を独占しているような気持ちになって、
幸せな気持ちになる。
ぱくり。
一口、サンドイッチを口にはさんでびっくりする、
美味しい!
ほめ殺し作戦のはずが、
ついつい食べるのが止まらず、
どんどん食べてしまった。
これ、令嬢が作るレベルじゃないぞ?
シェフより上手いのではないか?
「美味しい!手作りというのは本当?」
疑っている訳ではないが、
思わず聞いてしまう。
セシリア嬢が必死に肯定している。
それを笑顔で満足そうに見守るキャサリン嬢。
その笑顔にどきどきする。
運命の再会は、いまいちロマンティックでは
なかったかもしれないが、
このサンドイッチを食べれただけでも価値はある。
両親から、キャサリン嬢との交際は許可をもらっている、
本当ならここで何だかのリアクションをしたい所だが、
なんにせよギャラリーが多い。
それに、今日の主役は優勝したアーサーだろう。
ここは引くべきだな・・・・
籠バックに入ったサンドイッチを全て平らげ、
満足してそう思ったのだった。