2-7(一部ウィリアム視点)
やってきたのは2人目の攻略対象。
公爵のフレデリックの好感度上げだ。
刺繍の授業の一環で、好きな男性の名前のイニシャルを刺繍して、
その男性に渡す・・・という、乙女ゲームだなぁという、
イベントである。
「本当によろしいのですか」
「ええ」
まだ、不安気なカレン様に同意する。
カレン様は侯爵令嬢、
伯爵令嬢の私は一応様付きで呼んでいる。
カレン様がフレデリック様の事を好きで、
ただ、1人で渡す勇気がないという事で、
私、セシリア、カレン様、メアリーさんと、
4人ともフレデリック様のイニシャルを刺繍して、
一緒に渡す事になったのだ。
これはイベントとして自然で、
嬉しい誤算だった所でもある。
このイベントでは、王子攻略の為、
フレデリック様に刺繍を渡さないといけないのだが、
どうゆう理由でフレデリック様に誘導しようか
迷っていたので、渡り船だった。
「私は特に好きな男性はいないので、
気にしないでちょうだい」
笑顔でいう私。
ちなみに刺繍はとっくに終わっている。
セシリアは会話に加わる事なく、
真剣にちくちくとイニシャルを縫っている。
私が自宅で指導していた事もあって、
速度はあまり早くないが、
丁寧で綺麗なので、まあポイントは高いだろう。
ハンカチにイニシャルを縫う授業が終わった放課後、
4人でフレデリック様にハンカチを渡す。
顔を赤らめるカレン様。
フレデリック様も表情は読みずらいけど、
まんざらでもない?と思われる。
希望が入っているのかもしれないが、
身分も釣り合うし、ぜひ上手くいって欲しい所だ。
「どうしてフレデリックなんだ!」
「そう言われましても~カレン様の希望もありまして~」
ふざけた調子で王子に話すのは、メアリー。
とても伯爵家の令嬢が許される態度ではないが、
王子も護衛騎士のアーサーも何も言わない。
伯爵令嬢のメアリーは仮の姿。
実際は王国の諜報機関の一員である。
「メアリー、何とか誘導できなかったのか?」
「と、言われましても、
はっきりとキャサリン様、
誰も好きな人はいないっておっしゃっていましたし」
分かりやすくショックを受ける王子を見る。
メアリーはそんな王子を微笑ましく見た。
現在の王に子供は1人、ウィリアムだけ。
なので、幼い頃から次期王として、
厳しい教育が施されてきた。
どんなに不満でも微笑みを貼り付け、
商人にははったりをかまし、
外交では黒ぎりぎりの駆け引きをする。
そんな大人びて、面白みのない人間へと成長していた。
ただ、キャサリン嬢に出会って、
キャサリン嬢に関係する時だけは、
年相応の男の子の表情を見せる、
その事にメアリーはほっとしていたし、
自然なウィリアムを取り戻してくれたキャサリン様に、
メアリーは感謝をしていた。
それとは別にしても、
キャサリン様は高い知識と、
誰分け隔てない優しい心、
幼い頃からの努力によるにじみ出る気品。
自分の主として、これ以上の人はいないと確信している。
「とりあえず、サロンにキャサリン様を招いてみます、
そこで、少しでも振り向いてもらえるよう
努力してみて下さい」
「分かった」
素直に頷くウィリアム王子に、
何としてもキャサリン様を落としてもらわないとと思うのだった。
「王子からサロンのお誘い?」
メアリーが持ってきたのは、
王子からのサロンのお誘いの葉書だった。
王子は定期的にサロンを開き、
この学園の生徒と交流している。
よし!来た!王子イベント!
そうなのだ、公爵にイニシャルのハンカチを渡すと、
王子のサロンに招かれるイベントが発生する。
「セシリア!行きますわよ!」
意気込む私に、セシリアは自信のない顔をするのだった。