1-1 転生しました
「サラもう少しこの本を読んでしまうわ」
「お嬢様、せっかくお風呂で温まれたのに、
体が冷えてしまいます」
「だって、この話の主人公、次どうなるか凄く
気になるのですもの、
それに、今度の演劇の原本なのよ?
公演までには読んでしまわないと!」
「お嬢様、その本の公演が始まるのは4か月後です」
「うん!もう!意地悪!少しぐらいいいじゃない」
「少しだけですよ・・・って無理なんでしょうけど」
「ふふふ・・・さすが私の専属メイド、
良く分かっているわね」
会話の途中でも、いそいそと本を開け、
完全に読む体制に入った私に、サラは溜息をつく。
「では、私はこれで失礼しますが、
本当に風邪などひかれないよう、お気をつけ下さいね」
「はいはい」
本から目を離さず、サラに応える。
もう、私の頭の中は本でいっぱいだ。
本は高額品、伯爵家で余裕があるといっても、
めったな事で買ってもらえない。
その本が手元にあるのだ、嬉しくてたまらなくても
仕方がないという所だろう。
本を読み始めたのは確か夜の8時ぐらいだった。
本に集中して、ふと時計を見ると、
針は10時を差している。
少し頭がくらくらする・・・
集中しすぎただろうか・・・
しかし、本を3時間読むなんてざらで、
普段はこれぐらいでしんどくなったりしない、
やはり、お風呂上りに本を読んで、
体が冷えてしまったのだろうか?
駄目ね、風邪をひくとサラが責められてしまう。
普段健康体なので、風邪ぐらいへっちゃらだが、
何の罪もないサラが怒られるのは避けたい。
続きまだ気になるけど、そろそろ寝ようかな・・・
そう思って、ベッドに行こうと立ち上がった時だった、
世界がぐにゃんと歪む感覚がする。
眩暈?
その感じはどんどんひどくなってきて、
立ち上がったものの、結局また椅子に座ってしまった。
ぐるん・・ぐるん・・・ぐるん・・・・・
世界が回るような感覚が続く。
そして、だんだんと、今までとは全く違う、
世界が融合してくる
電車・・・課長・・・スマホ・・・
飛行機・・・電子レンジ・・・
この世界にはないはずのもの、
しかし、それが何か私には理解できる。
そう、私は橘遥24歳
高校を出て、2年専門学校で勉強し、
20歳から中小企業に就職し、
経理で採用されたはずが、
中小企業あるあるで、総務、庶務、人事、
あらゆる業務をしていた。
働いている人も20人程度の小さな会社だったので、
年末は会社の人全員で飲みに行ったり、
それなりに楽しかった思い出がある。
そして、深夜コンビニにデザートを買いに行って、
信号無視をしたトラックにはねられ・・・
そうか、私転生したんだ。