第七話 からくり人形
サーカス団の興行は圧倒的でした。
背中に四枚の羽根と尻尾がある女性が火を噴きながら、宙を舞っていきます。
見上げるような大男と耳が尖った女性の見事な剣舞。
額に角のある男女が見せた怪力比べ。
私は興奮を抑えきれません。カシアも同じみたいです。
あ、いえいえ。
一番驚いたのはまるで人間のように動くからくり人形です。
見た目は畑で見かけるカカシみたいなんですが、宙返りをしたりナイフ投げをしたり。
大男と寸劇を演じたり、まるで中に人が入ってるかのようでした。
でも背丈が大人ほどもあるのに胸から腰にかけては幼子ほどの太さしかありませんから、人では不可能です。
以前魔導術式でからくり人形を動かす実験をしたことがあるというポーシェさまは『改めて見たけど、あれに魔導術式は一切使われていないよ』とおっしゃいました。本当に不思議です。
『すごいな。想像以上に滑らかに動いてる。中に人が入ってる、それかあんな形の生き物じゃないの?』
おじさまも感心してますね。
「あーっはっはっは! これはまた珍しいお客様だ! 貴族の御令嬢に大魔導士さま!」
閉演後、私達がサーカス団の宿舎を兼ねている馬車を訪ねたところ、団長さんは大笑いしながら迎えてくださいました。
「失礼。自己紹介がまだでしたね。ヒ・カーショウと申します。よしなに」
団長ヒ・カーショウさん。やたら身体と声の大きな方です。金髪に黒い眉毛、おそらく髪は染めているのでしょう。
「元々私どもは『暁傭兵団』といって、その名の通り傭兵稼業をしていたんですよ」
「あのからくり人形も戦争に出してたわけかい」
ポーシェさまの問いかけに団長さんの太い眉毛が動きます。
「大魔導士さまもお嬢様も傭兵団時代のことを聞きたいので?」
団長さんの雰囲気が少しだけ変わりました。
「いいえ! 私は人のような動きをするゴーレムを作りたいのです」
「ほう? だからあれの仕組みを知りたいと?」
「いきなり押しかけてきて、秘伝のからくり人形のことを教えろだなんて無茶もいいところだとは思います。それでも」
私は頭を下げました。
団長さんが驚いてます。
カシアは沈黙しています。貴族の礼儀作法に人一倍厳しい彼女のこと、普段なら私が貴族以外の民へ頭を下げる行為を咎めたでしょう。
ですが、今回は私が何をしようとも、何があっても沈黙を守ることをきつく言い含めておきましたので。
すると団長さんは俯いてしまいました。肩が震えています。
「くっ……くくくっ。はっはっは。こりゃとんだ物好きがいたもんだ。他国の情報を教えろ、或いは雇ってやるから他領や他国の情勢を探れと言ってきたお貴族さまはいたが、からくり人形の仕組みを知りたがる、それもゴーレムを作るために。はっはっは」
すっと真顔に戻る団長さん。
「お嬢さま、頭を上げてください。貴族のあなたにそこまでされて、ご期待に応えないわけにはいきません」
『良かったね、レイテアちゃん。本気なのが伝わったようだよ』
(……ほっとしました)
『カシアが凄い目で睨んでるけど』
(本来なら許されざる行いですから)