最終話
「おじさま。明日はダロシウ様と結婚します」
王城横にあるアテナ専用格納庫。
跪いた姿勢のアテナの前にレイテアは柔らかい笑みを浮かべそう告げる。
帝国との戦争が終結して五年。
レイテアの周囲は大きく様変わりした。
皇帝、対話する鏡を失った帝国は、王国と停戦条約を締結、様子見をしていた他国の介入もあり多くの賠償を支払うことになる。今後は“鳩派”と呼ばれる穏健路線を目指す貴族達が合議制で施政をしていくことになった。
「ここにいたか、レイテア」
「ダロシウさま……」
アテナを見上げながらダロシウはレイテアの肩にそっと手を回す。
「彼は……本当に御使だった」
「はい。おじさまは今もどこかの世界にいて、誰かを救っているのでしょう。そんな気がするんです」
「異界からの転生、そんなことがあるとは本当に驚かされたものだ」
戦争終結後、レイテアは国王とダロシウに男のことを全て話したのだ。
「私は……あの白い巨人の物語を初めて乳母に読み聞かせをされてから、ずっと夢中になっていました。今思えば、王国を救うという使命を与えられたような気がします」
「歴史を動かす人物にはそのような天啓がもたらされる……考古学者が唱えている説だったか」
「ええ。この地に昔あった国の伝説。その中で偉業を成した人物の逸話が幾つかありますでしょう?」
ラーヤミド王国が建国するはるか昔に存在した国々。
大陸を巻き込んだ厄災を退けた英雄たち。
その活躍は遺跡の中にある石碑に刻まれていて、考古学者のグループが最近になって完全に解読した。
かつて存在した『まと』『ディザ帝国』『ガイザ国』。
ディザ帝国にて起きた不老の皇族が招いた厄災。それは星をも呑み込む存在を世に解き放った。
それぞれの国の英雄達が協力して退治した、という表記が各地の遺跡で見つかっている。
「ドラゴンの皆さまにもその話は伝わっていて、詳しく教えていただき、私も詳しく知ることが出来ました」
「レイテアはしばらく考古学者達に軟禁されてたな」
「帝国には無難な路線を続けてほしいです」
「どうだろうな。時が経てばまた覇権主義に取り憑かれた者どもが台頭することもあるだろう。人は自らの欲望に従うものだから」
「おじさまの世界では武力による戦争が随分と減ったそうです。そして経済による戦争へ移行したと」
「そうだったな。まだそこまで経済は発達していない我々には想像も出来ないが、遠い未来にはそれもありうる」
「争わずにはいられないのでしょうか」
「それは難しい問題だ。だが争わずに解決していくよう努めねば、自ら滅びの道を選択することになる」
現在ダロシウは帝国以外の様々な国との外交に尽力している。
「私たちの子や孫か大人になる頃、戦争をすることの無意味さを国の首脳部が理解出来るようにしよう。レイテア」
「はい」
「ともに歩んでくれるな」
「はい!」
二人は迎えに来た侍女達に囲まれ、王城へ移動する。
格納庫を出る前、レイテアは立ち止まった。彼女はアテナの方へ振り返り、祈るような表情で見上げ独り言のように呟く。
二度とアテナに乗り込むような事態が起きないでほしい、と。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
元々は思いつきで書いた
短編『公爵令嬢レイテア・ミーオ・ルスタフと戦乙女ゴーレムルスタフ』https://ncode.syosetu.com/n5782jk/
を膨らませてみようと書き始めました。
途中、未熟な私に様々なアドバイスをくださった方々に感謝を捧げます。




