第四十五話 電撃作戦終了
タイトルを変更しました。
私達は皇帝を捕まえました。
さすがは帝国の頂点、アテナの指に掴まれても抵抗しません。
アテナが動き出した時は大層驚いた顔でしたけど。あの楔に絶大な信頼を置いて、勝利を疑っていなかったのでしょう。
アテナの腰に装備した箱に皇帝を寝かせます。ポーシェささまとガードさんの手によって、内部に振動が一切伝わらない特製です。
おじさまは『まるで棺桶』と言います。棺桶とは何かと訊いてみたら、死者が眠る棺で土葬するためのものだそうです。
ラーヤミド王国は火葬ですので、私は少し驚きました。父が教えてくれたことがあります。大昔は土葬だったけど、魔導で死者を操り、それが戦争に使われたので火葬になったとか。
皇帝居城を出たところ、周囲には大型ゴーレムが数十体、攻城兵器がアテナを囲むように配置されていました。
でも皇帝の身を案じているのでしょう、攻撃をしてくる様子はありません。
さあ! 王国へ向かってアテナで駆けていきます。
来た道をそのまま折り返しです。行きと違ってそこまで急がなくていいので、七割の速度で走らせることにします。
あちこちにたくさんの大型ゴーレムが立ってました。居城を囲んでいたゴーレム達と同じで、じっと立っているだけです。
(おじさま、爆弾は使わずに済みそうです)
『あれも高価だからね、使わないに越したことないよ』
(……そういう考え方があるのですね)
確かに大量の金属粉と時限式魔導機器を必要とする爆弾は、材料費も手間暇もかなりかかります。
『そうだよ。戦争には大金がかかるんだ。俺のいたところでも、金のかかる兵器だらけだからね』
おじさまのいた世界の話はどれも興味深いですね。
『どんなに金がかかっても戦争はなくならない。過去の積もり積もった恨みとか、領土や資源狙いだったり、あとは権力争いかな』
(どこも同じなのですね)
『うん。人がいる限り争いはなくならないと思う。だからアテナの役割が大きいんだ』
おじさまが以前教えてくれた“武力による抑止力”ですね。
『帝国は皇帝をアテナに攫われた。それで充分さ。そりゃあいずれ対抗手段を練ってくるだろうけどね』
(例えばどんなものが考えられますか?)
おじさまはしばらく沈黙した後、ゆっくりと教えてくれました。
『まずアテナちゃんを狙うのは間違いない。それとネット、大きくて丈夫な投網を使われたら身動き出来なくなる。あの楔も脅威なのは間違いないかな』
私はその光景を想像してしまいます。
『それとポーシェさんにも確認したけど、雷撃魔導もあるにはあるそうだよ。あれを使われたらまずい。ハルミヤ鋼は無事でも“考えるスライム”がやられる。生物ってのはすごく微弱な電気が体内に流れてるからね』
おじさまの話には驚かされてばかり。
(私達の体内に……)
『そうなんだ。早いうちに絶縁加工もしなきゃ』
おじさまの知見は幅広く、私はいつも教えられてばかりです。
『レイテアちゃん、俺が知ってることは昔の偉い人たちが努力して研究し、試行錯誤の末に発見したこと。それらが後世まで伝えられて、俺はそれを学んだに過ぎない。まぁ真面目な学生でもなかったけど』
(教育が身分に関係なく行き届いていた……おじさまの世界は素晴らしいと思います)
こちらでは学べるのは、貴族などごく一部の人だけ。でもこれに関して以前おじさまはこうおっしゃいました。
『そうは言ってもさ、支配階級からすれば国民に教育を与えるのはリスクあるからね。俺たちの世界でも昔はそれが普通だったさ。社会そのものが変わっていってそこで初めて必要とされる』
色々あって形や仕組みが変化した社会の産物だけを、その段階に至ってない国が取り入れても上手くいかない……でしたね。
『とりあえず出来ることは、他の国に“ラーヤミド王国を攻めるのは得策ではない”と思わせたら、おいそれと戦争を仕掛けてこないんじゃないかな。追い詰め過ぎない程度に』
以前言われてましたね。
そんな会話をしているうちに、マヤオ平原に着きました。速度を落としてマヤオ砦に近づきます。多くの兵士が出迎えてくれました。
彼らに手を振りながら行きと同じように飛び越え、王都を目指します。
私は自分の身体を動かしてたわけではないので、肉体的疲労はほとんどありませんが、精神的には疲れました。
国王陛下とダロシウ様に皇帝を引き渡し、早く湯浴みをしたい気分です。
こうしておじさま命名の電撃作戦は終わりました。
その後、帝国は予想外のことをもって、私達を大いに驚かせました。




