第四十話 作戦名は無し
ベッドに入ってからは日課となりつつあるレイテアと男の語らい。
『レイテアちゃん、俺の無茶振りな作戦に付き合ってくれて、改めて君の度胸に感謝する。ありがとう』
(そんな、おじさま)
『俺の生きてた世界の話だけどさ、大昔には何十年もダラダラと続いた戦争もあったんだよなぁ』
(そんなに?)
『俺も詳しくないけど、王位をめぐって貴族同士がドンパチした内乱だったと思う』
(貴族が……)
『話に聞く限りじゃ、ラーヤミド王国にそこまで腐った貴族はいないんだよね?』
(ええ。初代国王陛下の意志は概ね受け継がれていると思います。また王位継承権をめぐる争いが起きないよう歴代の国王陛下は手を尽くしておられました)
『そう! それだよ。この国の……そうだな人格ってのも変だけど……ラーヤミド王国は賢いんだよ。けど帝国はそうじゃない。これからもずっと仕掛けてくる。間違いなく。その度に撃退してもさ、苦しくなるのは目に見えてる。帝国は止まらないよ、世界を呑み込むまで』
(おじさまに教えていただいた、おじさまの世界にかつてあった帝国ですね)
男はレイテアに古の帝国について教えたことがある。
『あぁ。幾つもあったんだよ、その手の国が。しかもさ、ほんの何十年か前にも世界中に喧嘩を売った帝国もあってね、結局負けて滅びたけど。その戦争で犠牲になった人は、推定で何千万だ』
(何千万……想像すら出来ません)
ラーヤミド王国の人口は約四十万人。レイテアが驚くのも無理はない。
『こっちと違って、人口もずっと多いからね。それに大量に死をもたらす兵器があったから』
(恐ろしいことです……)
『俺がこうしてレイテアちゃんの中にいるのも、何か意味があるんじゃないかとずっと考えてた』
(意味ですか)
『うん。今では帝国を何とかするためなんじゃないかって思ってる。ずっと歴史を俯瞰してたら、何かの意志が関わってるとしか思えないような出来事があったりするんだ。神様とかそんなんじゃなく、こう、人類の集合無意識みたいな?』
(集合無意識……)
『そう。人類全体をひとつの生き物と見なして、その意志があるんじゃないかって考え。また別の考え方もあってね、この星を一つと生き物と捉える見方もある』
(大変難しいお話です)
『ごめんよ、そうだよね。つまりさ、大いなる意志が介在してるってこと』
(……不思議な……お話……で……す……)
レイテアは眠りに落ちる。
『ちょっとレイテアちゃんには難しすぎたね。俺もSF小説読んだり、宇宙のあれこれを知っていくにつれて、何となくそう思うってだけだ。小さな小さな存在の俺たちには本当のことなんてわからない。けど、縁とは不思議なもの。おっさんになるにつれ、そういうことを経験したり、見聞きするうちにそんなこと思っちゃうんだよなぁ』
翌朝。
アテナが単騎で帝国へ侵攻し、帝都にて皇帝を捕縛するという前代未聞の作戦は承認された。
このことを知るのは国王、ダロシウ、ルスタフ公爵、そしてレイテア、ガード、ポーシェのみ。
出撃は翌日。




