第三十八話 反撃の狼煙
ダロシウ王子、疲れた顔してるなぁ。
国王、元老院、西部の貴族諸侯がレイテアちゃんとの婚約解消を迫ってきたら、もうそうするしかないだろうって俺でも思う。
今日、アテナに出撃命令が下された。国境反攻作戦、その先陣だ。
戦況はかなり悪いらしい。マヤオ砦が陥落したら帝国軍は怒涛の如く押し寄せてくるだろう。
そうなるとラーヤミド王国は最悪滅びる。あっちは大陸中に喧嘩を売って勝ち続けてるガチガチの軍事国家。
こっちはごく普通の農業主体の国だ。勝負にならない。
大型ゴーレムの数だけ見ても明らか。
ラーヤミド王国は王家直属軍が六体所有するのみ。
一方で帝国は少なく見積もっても数十体だそうだ。
しかも遠くから移動して来た様子はなく、国境近くの森で作られてると情報部は見ている。俺もそう思う。帝国はゴーレムを工業製品みたいに作るんじゃなく、材料さえあれば魔導で生成するとのこと。
勝てねぇ。
あのずんぐりむっくりボディでよちよち歩きとはいえ、騎士や兵士じゃ止められない。
テルミット爆弾もあるにはあるが、あれを効果的にぶつけるのは難しい。アテナが投げてこそ活きる。
「レイテア嬢。君との婚約は本日を持って解消となる」
王子は前置きもなく告げた。辛いんだろうな。
「承知致しました」
「ではマヤオ砦にて反攻作戦に加わり、必ず使命を果たせ」
「行ってまいります」
(これで心おきなく戦えますね、おじさま)
レイテアちゃんは落ち着いている。まぁ熱烈な恋愛関係ってわけでもないだろうけど、それよりは本格的な戦闘前だから緊張の方が勝ってる。
『王太子は辛いだろうが、こればかりは仕方ないよ。レイテアちゃん。さあ出撃だ』
(マヤオ砦が心配です)
格納庫へ早足で向かうレイテアちゃん。
ガードのおやっさんが待っていた。
「レイテアお嬢さまぁ! いつでもいけますぜ」
「ガードさん! すぐに出立しますわ」
更衣室に飛び込むと、レイテアちゃんはドレスを脱いで操縦専用の戦衣装に着替える。
おっと俺は紳士だから視覚は閉じておくぜ。
戦衣装は特製だ。
ビニールっぽく、断熱性に優れた素材をポーシェさんに調達してもらい、俺がデザインを伝えて王城の服飾部が仕立ててくれたものだ。
搭乗デッキも作ってもらった。
レイテアちゃんは駆け上がり、アテナのコックピットへ滑り込む。
全天球の視界に切り替わる。
ガードのおやっさん、職人達、公爵領の騎士達が格納庫の扉を開けてくれ出るのが見える。
「お嬢様ぁ! 障害なし! 出撃いけますぜ!」
ゆっくり歩き始めるアテナ。
今更だが俺も緊張してきた。何せ本当の実戦だ。
『マヤオ砦まで馬車で二日の距離だったよな?』
(そうです)
『アテネなら二刻もかからない。全力疾走でいこうか』
(はい)
軽く走り始め、すぐに全力疾走へと移る。
速度計がないから体感に頼るしかないが新幹線と同じぐらい。
街道に沿って人々の誘導のために配置された騎士たち、農家、森の木々があっという間に後ろへ流れていく。
大河であるローヌ川。川幅は百メートル以上は軽くある。
『川だ。跳び越そう』
(はい)
レイテアちゃんに走り幅跳びや走り高跳びの要領を教えて、練習してもらった成果を試そう。
加速するアテナ。
よし。
そうだ。
やった!
振動も衝撃もコックピットには一切伝わらない。
それにしても……。人間で言うなら十メートル以上飛んだ計算になる。生前の記憶じゃ確か世界記録がそれには達してなかったはず。
“考えるスライム”が提供する筋力、トップアスリートより上だ。すごすぎる。
そのままアテナは森の中を駆け抜ける。
レイテアちゃんは俺の言いつけ通り、大木を避けて走ってる。いいぞ。
平原へ抜けた。
まず見えてきたのは立ち上る黒煙。砦の至る所から何本も。
マヤオ砦が誇っていた三十メートルにも及ぶ外壁が半分以上崩れて、その手前に帝国の攻城ゴーレムが三体。あれは……岩石製か。ならテルミット爆弾じゃ効果ない。
そして攻城兵器が複数。その周りに蠢く帝国の騎兵や兵士達。
王国兵や騎士の多くが遺体となって折り重なり、地面を埋め尽くしている。それを見たレイテアちゃん、心臓の鼓動が跳ね上がる。
一目でわかる。砦は陥落寸前だ。
『レイテアちゃん、気持ちはわかるがまず落ち着いて!訓練通りに。いつものように!』
(分かりました。おじさま)
冷静さを失ったら負けだ。
まずは飛び上がり、今まさに砦の外壁を壊そうとしている敵ゴーレムへドロップキックをお見舞いだ!
うまいぞ!
仰向けにひっくり返る一体目。ドラム缶体型に短い手足のゴーレム、倒れたらもう二度と起き上がれないだろうよ。
おうおう!
ヨタヨタこっちに歩いてくるゴーレムども。
アテナはすぐに背後へ回り込み、スライディングで足払いっと!
これまた簡単に転ぶ敵ゴーレム。
お?
レイテアちゃん、腕をもぎ取ったぞ。
あ、あれをやるんだな。
見れば三体目のゴーレムがゆっくり歩いてくる。
そいつの頭めがけて敵ゴーレムの腕をバットのようにフルスイング!
うひょう。頭が吹っ飛んでいったぜ。
『よっしゃ! ホームラン!』
思わず叫ぶ。
そのまま胸あたりを狙ってハイキック!
これも綺麗に決まり、三体目は既に倒れている一体目のゴーレムへ重なるように倒れ込む。
帝国兵はパニック状態。でたらめに右往左往している。
そうか。
お前らはアテナのこと、知らされてなかったんだな。
楽勝な戦争だと思ってたんだろう。
わかるよ。
強大な軍事力をバックに、大型ゴーレムで蹂躙するだけの簡単なお仕事。それがお前ら帝国兵のやってきたこと。
だけどな。
人間のように動けるアテナがお前ら全員をただの観客に変えるぜ。お前らに出来ることは何もない。
弓兵が雨あられのように矢を放ってくる。
ハルミヤ鋼の装甲は抜けないぞ?
アテナへ照準を合わせようとしている攻城兵器を次々に蹴飛ばしていき、敵の騎兵隊を飛び越え、本陣へ三歩で到達した。
無駄な殺生はしないよ。感謝しろ。
「誰でもいい! あれを止めろぉっ!」
仁王立ちで叫んでいる人物。一番目立つ派手な色の鎧を着てる男。
指揮官だな。
アテナはしゃがんでその男へ手を伸ばしたところ、
「ひいぃぃっ」
と、まるで女子みたいな悲鳴をあげたぞ、こいつ。
潰さないように人差し指と親指で慎重に摘み上げたアテナ。レイテアちゃん、繊細なコントロールも慣れてきたね。
「おのれおのれ! 化け物がっ!」
あぁそうか。
見た目はレイテアちゃんで白い鎧を着たアテナはゴーレムに見えないもんな。巨人だと思ってるんだろう。
『帝国の奴ら、散り散りに逃げてるぜ』
(彼らの剣も槍も矢もアテナには全く通用しないですものね)
追撃はしない。お前ら、生きて帰ってアテナの恐ろしさをたっぷりと伝えてくれよ。
アテナはこれまでの戦を一変させる。
これが二度目の電撃作戦。
戦争はさっさと終わらせるに限るよ。
敵の指揮官を摘んだままマヤオ砦に向かうアテナ。
砦には生き残った兵士や騎士擁壁の上に鈴なりになってアテナへ歓声を送ってる。大騒ぎだ。
こうして国境反攻作戦、その第一弾は大成功に終わった。
次の電撃作戦は考えてある。王様と相談だね。
某所にあったネタを短編にしました。
よろしければどうぞ。
女神にメガネかけさせたら創造神がブチ切れて俺を追放した
https://ncode.syosetu.com/n5444ju/




