第十話 試される王太子
「君が護衛騎士相手に公爵令嬢としてあるまじき野蛮な振る舞いをしていると聞いた。そして! 今見た」
こちらへ歩いてくるダロシウ殿下は不機嫌です。
『レイテアちゃん、何で王子様が特訓のこと知ってんの?』
(王家お抱えの護衛部隊が私についてます。彼らが報告をあげたのでしょう)
『こうやって来たということは隠す気もないってことか』
(公然の秘密ですので……)
私の前に立ち、不機嫌さを隠さないダロシウさま。全てをお話しするしかありませんね。
「レイテア嬢、何も言わないのはどういうことかな」
「殿下、どう説明したものかと頭の中でまとめておりました」
私は、暁サーカス団に出かけたところから始めて、“考えるスライム”の特異性、それはゴーレムに筋肉に最適であること、その為の訓練であると説明をしました。団長さんにも“考えるスライム”のことは隠し立て不要、『精神感応ができないと手に入れたところで意味ないから』と口止めはされていません。
「……このように私の動きを模倣させるため、教えこんでいるのです」
「理由はわかった。しかし君は将来の王太子妃、ゆくゆくは王妃だという自覚はあるのか」
「もちろんございます。だからこそ国防は重要。そのための人形ゴーレムです」
『レイテアちゃん、流石は貴族令嬢だねぇ。さらっと自分の趣味を大義名分にしちゃったよ』
(あら、おじさま。これは本当ですよ。白い巨人は王国を守ったのですから)
「それが王太子妃のすることだと?」
「そうでございます」
「国防省の仕事だと思うが?」
「はい。私は貴族学院を出た後には国防省へ入りたいと思います」
「な、なんだと?」
「国を守ってこその王族。私はそう考えます」
「な、な、な」
殿下は頭を抱えてしまいました。表情がくるくる変わって、大道芸人の百面相を連想してしまいました。
「殿下、私の作るゴーレムはこれまでの戦争を一変させます。完成の暁には陛下とともにご覧になってください」
「……帰る」
殿下は肩を落として、足を引きずるようにして馬車の方へ行かれます。
『あ〜あ。王子様ショック受けてるぜ』
(殿下のご期待に沿えないのは心苦しいのですけど……)
『……ま、国王ってのは何でも飲み込んでしまうぐらいの度量がないとな』
(あ、それは父も同じこと言ってました)
夕刻に帰宅した両親に色々と訊かれましたけど、殿下との会話を聞いたお父さまは顔色がすぐれません。
お母さまは『レイシアのすることですからね』とため息。
翌日。
早朝から先ぶれがあり、意外なお客さまがいらっしゃいました。