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第八話「究極問題・後半」


恋愛は自分を見失う気持ち悪い理解しがたい感情だ。

陶酔も心酔も出来そうにない。

あくまで自分の延長線上でちょっと良いなと思う程度。

浮かれた後に残る悲惨な結末が容易に想像できた。


そりゃワンチャンを狙いたい時もあったが。

どうしても失敗した時のリスクが無視できない。

愛する子から悪口を裏で言われた日には再起不能だ。

この子だけは違う、絶対に言わないなんて保証が無く。

ついでに言うとカッコつけたいし、悪い所があると思われたくない。

気を遣う労力と相手に対しての価値が釣り合わないと決めつけて動けなかった。

悪感情を抱かれるくらいなら関わりたくない。


ゲームみたいな特殊な力への憧れが無かったと言えば嘘になるが。

ネットゲームのキャラに惹かれたのは責任を負わない所にある。

運営によって明日消えるかもしれないから惰性で続いた。

無課金で遊ぶ程度、好き嫌いはあれど廃課金する程の熱量は無い。

決まった事しか言わない偶像に代替えを求めた。


そんな早々に人生から捨て、消したものを求められても困る。


逆好(さかずき)の求める愛が無条件に与え続ける親愛と言う名の。

無償の愛ならば無理難題をと一瞥できた。

だがこうも俗物的に噛み砕かれ、容易く仕上げられた愛は。

自分にも差し出せるんじゃないかと錯覚させる。


金と違い、見えない。

底も見えないが責任も軽い、少しならと。

思わせる程度には、期待する自分に嫌悪した。

だからこそ、この現状についていけなかったんだ。


(つづ)、この世はケーキの奪い合いよ!

努力を惜しめば一口すら頂けないわ」


「竹林くん、良いかしら?

世の中は美味しいケーキの奪い合いなのよ。

がっつかなけりゃその一口すら得られないんですもの。

愛のない人生なんて、なんて窮屈で退屈なものなのか」


左腕をチップスに捕まれた。

右腕は逆好(さかずき)に捕まれていて動けない。

お前ら、本当は仲良いだろ。


「コンコルド効果で良いじゃない。

今までに間違い何て無いわ。

絶対に後悔なんてしないで済むのよ」


「やる前から諦める酸っぱいブドウもわかるわ。

でも甘いレモンの何がいけないと言うのかしら?」


戦闘にならなくて良かったが、言い争っている内容は抽象的過ぎて。

正直いまいち意味がわからない上に明らかに雲行きが怪しい。


「「『金』か『愛』か、どっちを選ぶの!」」


「どっちも選びたくないんだが?」


それを俺に聞く必要はないだろう?


「お金がどこにあったって愛を育むことは出来るわ。

私との未来を考えて頂戴、それだけの話よ?」


「愛なんてお金の浪費だわ!」


「竹林くんは私が18万円に負けた安い女にしたいの?」


「綴はそんなことより18万円の方が大切でしょう?」


「お前ら、二人とも黙れ」


修羅場のような空気を出され。

浮気された彼氏相手の被害者状態。

早々に理解を諦めた俺は悪くない。


「もういいわ、話は無駄ね、直接動かせて貰うわ」


逆好は拘束していた俺の右腕を解いて。

がっかりと言う風に顔に手を当てた。


「無駄よ! 綴の心は変わらないわ、愛に興味ないもの」


チップスも俺の左腕を解いてトランクを構え俺の前に立つ。

興味ないって地味に失礼じゃないか?


結局戦う事になった、話が通じる分緊張感は足りてない。

逆好(さかずき)の姿が白いワンピースへとドレスアップした。

天使のような一対の羽に長弓。

金色の矢を構える、狩人同然の姿、天使は猛禽類とよくいったものだ。

髪は元々長めではあったが足元まで増毛した。

壁画の天使とはこういうのを言うのだろうか。


「メイ? メイ! すていたす☆あっぷ・インプルーブ!」


一方チップスは長ったらしい変身呪文を唱えだした。

逆好の着替えは一瞬だ、速度の違いが性能の違いなのかとも思ったが。


「キトゥリルキトゥリルデミリタリス」


妙だ、チップス以外誰も魔法少女と言っていない事が気にかかる。

幸い逆好(さかずき)は話が通じそうな相手だ、聞いてみるか。


逆好(さかずき)、お前も魔法少女なのか?」


「そんな恥ずかしいものになった覚えないわよ?」


大学生の魔法少女、なんて悪夢みたいな事が起きずに済んだが。

何の話? と言わんばかりだ。

中途半端な変身中なのも忘れてかチップスは狼狽え目線を逸らしている。

随分とわざとらしい変身シーンだったがやっぱりお前、魔法少女じゃないだろ。


「すぐに着替えられないのか?」


「魔法少女は手順が大事なのよ!

そのほうがホラあれよそれっぽいわ!」


どこまでも疑わしい奴だった。


「俺を助けたのも魔法少女だからだったよな?」


「だって魔法少女なのよ!

運命の出会いは必須だわ!」


何か嫌な予感がする。


「まかさお前、あれ、わざとか?」


玄関の前で寝転んでいたが。

睡眠中は無呼吸状態になった奴が寝言なんて言うだろうか?


「当たり前じゃない!

声をかけてくれるまで。

何回だって玄関前に陣取るわ!」


今、俺は猛烈に後悔してる。

こいつは関わってはいけない部類だ。


その間、逆好(さかずき)はスマホでチャットをしていた。

誰かと連絡をとっているようだが。

自由過ぎる、お前ら戦闘中だろ。


俺に気が付いたのか、にこりと笑ってスマホを持ったまま弓を構える。


「それなら私を選ぶべきよ、素敵な体験をしましょう?」


真っすぐな軌道で矢が放たれた。


「だめよ、綴は私と居るの!」


半端な姿ではない、一瞬で変身したチップスが守る。

出来るなら最初からしろ。

俺を狙う事がわかっているからか、軌道は読みやすく。

矢はチップスのトランクが弾いた、速度は速いが直線しかないなら安全か?


「待って綴、ここの人達何か変。

全員カリンに心酔してる!」


気が付けば周囲が大勢の人に囲まれていた。

このタイミングで不自然だ、さっきの連絡が原因だろう。

見慣れぬ男女の中には最村(もとむら)も混ざっているが。

視点は定まらず頬は紅潮しているとても話が通じそうではない。


「手段は多い方が良いもの。

素敵な暮らしも、『愛』も全て手に入れるには。

沢山の好きが必要だと思わない?」


「意見は同意だがそれは愛じゃないだろ」


「どうして?

皆、私を好きになってくれた。

好きなら自然と『愛』は芽生えるものでしょう?」


「あの矢、射貫かれると終わりだわ!

多分、人を操ってるのよ」


精神汚染系も居るって事か。

お近づきになりたくないのになんで寄って来るんだ。


「チップス、お前、何か特殊能力はないのか?」


「残高分の買い物ならできるわ!」


「そうか……」


つまり俺のポケットマネー次第。


「大丈夫、痛いのは一瞬だけよ」


「ちっぷすしーるど」


「待て、それはコスパが悪い」


使い切りの盾に3千円は御免だ。


「そんな事言ってる場合じゃないわ!」


「撃ち落とせないのか?」


「無茶言わないで、大きな磁石さん!1485円」


「残金ハ18万ト3千5百十5円デス」


妙な軌道を描きながら黄金の矢が。

磁石に向かってくっ付いていく

あの矢、金メッキなのか。


「悲しい拝金主義者の事なんて忘れるべきよ。

待ってて頂戴、『愛』があればどんな困難も乗り越えられるわ」


そう言いながら逆好は集まった人々の背中に貼り付いた。


「どうしよう、綴、操られても市民なのよ、攻撃できない」


どう動くか決めかねている間。

次々と人が倒れていく、その人数とぴったり同じ数。

逆好の手に束ねられた鉛色の矢。

その中には最村(もとむら)も含まれている。


最村(もとむら)に何をしたんだ」


「矢の材料になって貰っただけよ。

『愛』が育ったのなら後は摘み取るだけだわ」


違和感の正体がわかった。

逆好(さかずき)も根本がチップスと何も変わらない。

彼女にとって愛は消耗品だ。


「貴女のガードが堅いのは知ってるもの。

でも本数が増えたら全部いなす事は出来るのかしら?」


鉛の矢では磁石も無意味だ。

逆好はずっと持っていたスマホを胸元に差し込むと。

弓を構え直し笑みを深めた。

速度も威力も違う、さっきまでのが。

お遊びだったと痛感する程に激しい威力だ。


さらに増した速度にチップスは追いつかなかったのか。

矢はチップスの首の横をすり抜けた。

丁度俺の胸の真上を射貫くように。


「綴っ!」


溶けるように体内に消えていく。

確かに俺の胸に突き刺さったが。

思考には何も変化は無かった。


「この矢は貫いた特定の欲求を反転させるものなのよ。

何も変化がないの……?」


困惑ではない、この感情は、とても、哀れまれている。


「変動する程の感情が無い、枯れ過ぎてるわ。

チップス、もう少し関係を築いておくべきじゃ無いの?」


枯れ過ぎてるってなんだ、俺は被害者だ。


「カリン、綴はお金に実直な人なのよ!」


「竹林くん、碌に知らない相手に大金を渡すなんて。

付き合う相手はもう少し選んだ方が良いわよ」


「安心してくれ、金が無けりゃ俺はコイツを側には置かない」


盗られたのが例外であって。

友好が深くなっても金の貸し借りは絶対しない派だ。


「それは何一つ安心できないわ」


逆好(さかずき)は変身を解除すると呆れたように、ため息をついてからスマホを触る。

俺も時間を確認した、昼休みも終わる頃合いだ。


「まあいいわ、今回は退いてあげる」


俺だけを見つめながら言った。


「竹林くん、講義が始まるわ、行きましょう?」


昼飯を食べ損ねたが、移動しないと間に合わない。


「不思議そうな顔ね。

竹林くんの負担になりたくないだけで。

別に諦めた訳じゃ無いわ、これから仲良くしましょう?」


その発言に5歩、距離をとってから移動する。

仲良くで初手、矢を撃ち込んでくる奴はごめんだ。


__


あの後絡んでくる逆好(さかずき)と何も覚えていなかった最村(もとむら)を適当にやり過ごし。

遅れることなく受けたい講義に出席できたが。

講義の間中、チップスが相も変わらず。

窓に張り付いていたのは見なかったことにしたい。


家に帰ってきたが、何度も戦いが続くと気になる事も増えた。

チップスには期待できないが一応聞いてみるべきかもしれない。


「なんで銀髪……ナイは能力を使わなかったんだ?」


逆好が周囲の人間から何かを抜き取って行う異常現象。

コイツらが度々、口にする大切とやらが絡んでいるのはわかる。

チップスもそうだ、無償では無いが何か特殊な力がある。

『銀髪の天使』だけは何故か力を使ったようには見えなかった。


「命が一番大切だと思ってるのよ?

そんな時に命が代償になる能力なんて使ったら死ぬわ」


「自滅するのか」


消費対象が選べるものじゃないのか?

ナイだけなら妙な力は発動しないと考えて良いのかもしれない。

銃は弾切れを起こしていたな、追加しておくか。


「チップス補充を頼む」


「わかったわ! 550円!」


「残金ハ18万ト2千9百6十5円デス」


20発の弾丸が足元に転がった、追加で買うか悩む弾数だ。

チップスは最初俺が『金』を選んだから諦めたと言っていた。

まさか俺の命は弾丸の28円以下……この考えはやめよう。


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