第七話「究極問題・前半」
ディモとの戦いで蝶が通行人にぶつかるまでの映像が。
盛大に撮影されネットではお祭り騒ぎになっている。
怪我人が居なかった事と過剰な魔法少女の演出のおかげか。
あのパンク野郎が実は有名な作詞作曲家で、新曲の為の演出に熱くなった。
そいつの暴走だったのだろうと俺に対してはあまり問題視されていない。
予想に反して何故かほぼ平和に近い日常を送れている。
「俺は大学に行ってくるがお前はどうする」
「綴を守る為に勿論、一緒に行くわ!」
大学は電車に乗って一駅、隣の場所だ。
「そう言えばお前どうやってついて来てたんだ?」
「徒歩よ!」
「トランクで買わないのか」
「綴のお金だもの、私が勝手に使えないわ」
勝手に、使えないではなく使わないという事か。
当然のように駅前までは同行してきたが。
そこからは別行動になった。
講義室の窓際を避け、奥側の席へ座る。
1限目ぴったり5分前だ、チップスは居ない、俺だけだ。
そのまま2限目終了時、昼休みになる時、声をかけられた。
「これ竹林くんよね」
彼女はスマホ画面をこちらに向けて言った。
寄って来る彼女は学内で見たことがある。
しっかりと作られた髪と化粧、女性的な体系を強調する服装。
豊満な胸に目がいかない様に。
不自然にならないよう距離を取りたいが。
パーソナルスペースが妙に近い。
自分の顔の良さを知っている人間の動きだ。
レースの手袋で爪は見えないが恐らくマニキュアを塗っている。
完全武装された女性特有の空気に気圧されるが。
人種が違い過ぎる為に直接話したことは無く。
女子グループのメンバーなのは知ってるが。
名前がわからない。
「えっと、お前……君が、撮影したのか?」
「いいえ、これは私の友人が、ちなみに私は逆好 花梨って言うの」
見せられたスマホ画面には初日に騒いでいた俺とチップスの写真が写っていた。
情報の出回りが早すぎるが仕方ない、撮影されていたのだろう。
俺の方には目隠し線が申し訳ない程度に入っているが社会的に死んだ予感がする。
恐らく鍵付きアカウント、とはいえ内容は本人に見せるのを躊躇って欲しい程に。
口汚いコメントと人の写真を勝手にネットの海にばら撒く時点で友人の質が低い。
だがそれ以上に告げられた。
名前と顔が使われたアカウントとアイコンに目が引き寄せられる。
『逆好 花梨』と表記された実名顔出しアカウント、こいつ勇者か?
写真だけで特定、探偵の真似事とは随分と暇人な事だ。
「確かにあってるが情報が早くないか?」
「当然よ、20分ごとに確認してるんだから」
SNS中毒にも程がある。
逆好の後ろに俺の特定に加担した犯人が居た。
最村だ。
「この子、チップスよね?
私、貴方と話がしたいわ」
次に見せられた動画は駅前の奴だ。
映りは悪いが魔法少女と名乗ってるシーンだった。
逆好はチップスと知り合いのような言い回しだ。
話題に出たからか、暇を持て余したのか。
よく見ると最村の後ろで講義室の窓にチップスが張り付いている。
端的にホラーだ。
「逆好、話すのは良いが場所を変えたい」
大学の講義室で話さなくても良いだろう。
正直後ろの存在が気になって仕方ない。
「気にしなくて良いのに」
「俺は気にするんだよ」
中庭に移動するように誘導する、講義室は部外者立ち入り禁止だ。
魔法少女と名乗る存在に興味を持っただけなら良いが。
もしも戦いがあるならばチップスと合流しておいたほうが良さそうだ。
「で、なんの用なんだ」
「大した話じゃ無いのよ、ただ……。
チップスじゃなくて私を選んでみない?」
選ぶ? なんだ、何の勧誘だ、金の話か?
投資か、融資、いやこの場合はまさか援助。
「断る、誰でも良いんだろう?」
「ええ、誰でも良いわ。
でも貴方じゃなきゃだめ」
甘ったるい語尾にハートでもついていそうな程に媚びた声音。
絶対好きと言え、と透けた態度が苦手意識を刺激するが。
腕を組み胸を押し当てる、こちらの気持ちにお構いなしだ。
「この一年集団グループの観察に努めたわ。
誰とも交友を結ばない、一歩引いて過ごしている」
「チップスが選ぶ、お金が一番だなんて。
つまらない人、でもとっても素敵」
「だってそれを超える程の『愛』を。
貴方は持っているかもしれないんだもの」
――ねぇ、私を一番に優先して頂戴?
耳元で囁く彼女は蠱惑的だ。
嫌悪する程度には。
「貴方が疎んで嫌がるのは。
何も興味がないからだと思った。
でも違った、優先すべきものを決めかねてたのね」
最悪だ、興味がでた理由はソレか。
「使い道、選ぶ余地を欲するって事は。
欲がある証拠、そうでしょう?」
色を見せつける態度は、嬉しいとは素直に言い難い。
何を返すべきか、何も返さなくても問題は無いのか。
様子見を繰り返す。
「それとも獲物の横取りを恐れて居るのかしら?」
俺の後ろに逆好の目線が動く、この場に来るのは。
「獲物じゃないわ!
綴は私の大事な守るべき出資……市民よ!」
今、出資者って言いかけなかったか?
予想通りチップスも来た。
どっちみちまた戦闘なら丁度いいタイミングだ。
「綴の18万円が無くなるまで絶対私が守るわ!」