第五話「日常」
雨は降り続けている、肌寒いを通り越して指先が少し痛い。
天気予報は連日雨マーク、曇りの日もあるが晴れる事は少なそうだ。
あの後、特に誰とも遭遇せずに帰宅できたが、謎は多い。
襲ってくるのが『銀髪の天使』だけじゃないなら。
自分から動くのは得策ではないだろう。
よく見たらネットニュースには集団失踪の記事もあった。
常に戦闘が行われるのなら。
あの周辺は蟲毒と化しているのかもしれない。
バスタオルを差し出しつつもチップスに声をかけた。
「チップス、しばらく雨宿りに泊まっていけば良いんじゃないか。
どうせお前、その金額ならまだ使い切らないだろ」
殆ど打算だが安全性を高めるなら家に留まって貰うのが最善だ。
「ツヅ! いいの? ありがとう!」
「後、俺の名前は竹林 綴だ、その棒読みの機械発音をやめろ」
「わかったわ、綴!」
チップスは安心したように笑った、そういや住居が無いんだったか。
この状況まんま家出少女だな、気づかないだけで俺も毒されてんのか?
ちょっと不安になってきた、いや、金の話がなけりゃコイツはここに居ない。
置いてない、よし、大丈夫だ、多分。
「それからお前の分も作って食べろ、ドライフルーツだけ食べるのは禁止だ」
「二人分作れば良いのね、任せなさい、一人前も二人前も余裕なんだから!」
忘れないうちに釘を刺しておく、放って置くと変な食生活をし始めそうだ。
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生きてるだけで腹は減る訳で。
「残金ハ19万ト千8百8十8円デス」
「綴、今日は紫キャベツの塩焼きそばを」
「食材の時点で却下だ」
また妙な色の夕飯が出来上がるのか。
「どうして? もう作ったわ」
「それが、か」
ニンジン、タマネギ、豚肉までは普通だが。
紫キャベツから色移りしたのか青色の麺が皿の上に飾られていた。
完成した食品に罪はない、食べきるが。
「美味しいが色合いをもう少しだな……」
「嫌よ、私は青く染めたいのよ!」
「食欲減退色をやめろ」
この調子ではそのうち青色のカレーとお茶も出してきそうだ。
「お茶はバタフライピーティーよ」
手遅れだった、お茶の方は既に用意されていた。
口にずんだの味が広がる。
微妙な心境だ。
「そうそう綴!
新しい呪文を考えたのよ!
ふれっしゅ☆ちゃーみぃーまじっくりーん!」
確かに呪文っぽいが……。
「洗剤の話か?」
「もう使わないわよ!
今の忘れなさい!!」
本人は無自覚だったらしい。
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家に置くと決めて考えると妙に着古して。
穴だらけになったチップスの服が気になって仕方ない。
チップスの衣服を買いそろえる為に。
出来るだけ丈夫で安い普段着がありそうな駅前の店へ行く。
店に行くのは問題なかったが。
好奇心で欲しがる奴を連れまわすのは面倒だった。
「高い方が良い物に決まってるわ」
「詐欺の間違いだろう」
「安くても良い物はあるはずよ」
「安かろう悪かろうだろ」
「ネガキャンばかりじゃない」
「無駄金を使いたくないんだよ」
通り過ぎる店先の商品全てにこれだ。
俺に似合いそうな服、部屋に良さそうな雑貨。
建前はあるが大なり小なり俺に誘惑してくる、挙句の果て。
「安心感を買うのよ、お金の価値を下げないで頂戴!
金は天下の回りもの、溜め込んでも最終的には自分の首を絞めるの。
国という観点では消費に無駄な人なんて居ないんだから。
せっかくのご好意も無意味に踏みにじられるより。
有難がられる方が嬉しいものなのよ」
「お前は何処目線なんだ」
使う事を美徳とした態度だ。
それにお前の得は無いだろうにどういう理屈なんだか。
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「残金ハ19万ト千2百6十円デス」
「綴! 今日は深緑のハンバーグを作ったわ」
「誰が緑にしろと言った」
「すりおろした生にんにくとみじん切りの玉ねぎを混ぜると化学反応が起きるの!
焼く前は綺麗な水色だったわ」
「頼む、普通で良いんだ、普通で」
ここ数日チップスに食事を作らせてわかった。
聞いたことが無い食材は妙に単価が高い上に色合いが奇妙だ。
今後、食品だけは俺が用意したほうが良いかも知れない。