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第二話「自称魔法少女チップス・後半」


俺にウィンクをひとつ飛ばすと。

チップスは俺の手から20万円を無言で奪い取る。

赤い光に変わり、現金が一瞬で消失した。

そう、消えた、俺の20万が。


「待ってくれ! それは俺の金」


「話は後、来るわ!」


トランクを両手に抱え弾き続けるが。

さっきの光景をみると茶番にしか思えなかった。


「いや、今できるよな?

嘘だろ、お前本当は余裕だろ?」


混乱のままに募る言葉も。

聞き入れられているようには感じない。


飛び道具に効果を感じなくなったのだろう。

戦輪(チャクラム)のサイズが先程よりも明らかに大きく変わっている。

そのまま殴りつけるように『銀髪の天使』が俺に飛び込んで来た。


「『命』、大切、誰もが求める、アナタも」


思わず後ずさる、ギリギリ避けれたがチップスと距離が出来てしまう。


「皆わかっていないわ!

一番大切なモノはお『金』よ!」


追いかけるようにチップスも飛び込んでくるが。

『銀髪の天使』の方が早い。


「だめ、届かない!

トランクさん、力を貸して、ちっぷすしーるど2980円!」


「残金ハ19万ト7千2十円デス」


トランクから謎のアナウンスが流れると同時に。

俺の前にはリボンのついた桃色の盾が出現するが。

それも『銀髪の天使』の前では脆く、蹴り一回で砕け散った。


もしかしなくても俺の金が消費されたのだろうか。

その隙にチップスが回り込みまた守られる形だ。


「ネットショッピングしか出来ないのかって思ってるんでしょ!

私だってちゃんと戦えるんだからね!」


顔を真っ赤にして言っている。

正直助かるなら何でも良いが。

消耗品なら長期戦はダメだ。


「おい! 俺に武器は出せないのか」


「私は一人で戦えるわよ、市民は私が守るの!」


共闘は即答で断られた随分と子供っぽいようだ。

意固地になられたら死ぬかもしれない。


何かないだろうか?

俺はチップスに金を盗られて。

金? 魔法少女に?

アニメ番組で考えるならスポンサーの意向は絶対だ。

試してみる価値はある。


「良いから早くだせ、俺は出資者だぞ。

魔法少女はスポンサーの言う事を聞くものだろう?」


知らんけど。


「そ、そうなの?」


チップスには動揺が見える、自信が無さそうだ。

魔法少女と名乗る割に知識は薄いのかもしれない。

ここで押し切れれば何か武器が手に入る。


「そうだ」


頼む通じてくれ。

俺が生きる為に。


「そうよね! スポンサーには武器を渡すものよね!

魔法少女だもの当然知ってるわ!」


俺の掌の上に赤い光が集まる。

掴めば確かな手応えがあった。

何か固い物が形成されていく。


「可愛い拳銃さん1800円、専用弾丸20発550円!」


「残金ハ19万ト5千「残金ハ19万ト4千6百7十円デス」


手の中には妙にラインストーンで飾られた。

装飾過多な桃色のプラスチック製の拳銃。

辺りにはプラスチックとスポンジで出来た弾が転がった。


「なんだよこれ、玩具(おもちゃ)じゃないか」


「良いから撃って! 引き金を引けば撃てるから」


試しに2度、壁に撃ってみる。

軽快な音と共に壁に弾丸が埋まる。

引き金は軽かった、軽すぎた。

銃から弾が放たれる時は、水鉄砲のような手応えだ。

ゲームセンターのアーケードゲームの銃よりも簡単に。

撃鉄もセーフティも見当たらない。

リロードも不要なのか弾が勝手に装填されている。

反動も無く、素人の俺でもわかる不自然の塊のような武器だ。

何もかもツギハギの知識だけで成り立っているような。

今の状況では心強いが、なんで盾の方が価格が高いんだよ。

本当は守るのが苦手なんじゃないか?


攻撃の足しになれば良いとチップスの後ろから手足を狙って射撃する。

素人の弾だ、まともに当たらず威嚇程度の効力しか無いが。

『銀髪の天使』が無視出来ない程度の威力はあるのか攻撃の手が緩んだ。

無意味とは言わないがこの弾が命綱であると同時に。

弾丸1つで28円消費してると思うと複雑な心境だった。

転がってる残数は3つだ、これがなくなったら。

また550円を支払わなくてはならない。


そんな事を考えていると長期戦のせいか。

今まで表情ひとつ変えなかった『銀髪の天使』が困惑した様子に変わっていた。

チップスがトランクを振り上げて脇腹にスイングする。


「ワースレスあったく!」


『銀髪の天使』は大きく倒れ、腕を狙った弾は額へ直撃した。

鮮血が飛び散る、コンクリートの壁に穴を空ける威力だ。

まさか殺したかと焦るも。


倒れた『銀髪の天使』は無傷だ、一瞬で血も消えた。

この現象には見覚えがあった、チップスが変身した時の姿に似ている。


「効いてない様に見えるが武器が原因か?」


「当り前でしょ、魔法少女モノはバイオレンスアクションじゃないのよ!

大丈夫! 体力は減っているはずだわ」


非常に現実感が薄れる説明をされたが弱っていると考えて良さそうだ。

『銀髪の少女』は起き上がると俺を見ながら。


「何故、『命』より『金』?」


一言、言い残し飛び去って行った。


戦闘の興奮も冷め気づく、これ、銃刀法違反なんじゃないか?

射出できる銃を模倣した威力がある物体の所持は違反だったはずだ。

外見が玩具だから平気か? それで販売禁止になった玩具があったような。


それより今は目の前のチップスと名乗った自称魔法少女だ。


「追いかけなくて良いのか?」


「無意味よ、私が行く価値は無いわ。

ここに入ったキャッシュ以上の価値はないの、えーと、名前は?」


「タケバヤシ ツヅ様ノ残高ハ19万ト4千6百7十円デス」


チップスがトランクの高さ調整に付けられたはずの取っ手を押すと音声が響いた。


「ツヅね! 残金が尽きるまでは守ってあげる、お金の大切さを知りなさい」


守ると言うが得体の知れない相手に個人情報が握られた恐怖体験の方が勝る。

便利機能かも知れないが街中でこれは最悪だ。


「ご教授頂かなくても金の大切さは知ってる」


「知らない人間が多いのよ、例えば」


「あの場所はお金より命が大切って人が多いんだもの。

その命を守るのに必要なんだからお金の方が大切に決まってるのに」


チップスが指を差した方角は病院だ。

不謹慎だが金より命が優先される場所に違いない。


「それは状況に寄るだろう、お金だけとは限らない」


「でも、ツヅは選んだわ。

命よりお金が大切だからあの子は諦めた」


あの子とは『銀髪の天使』のことだろうか。

確かに物理的に守られ攻撃に転じたその一瞬。

減る消耗品の数十円を惜しんだのだ。

命より目先の金に意識が動いた覚えがあった。


「その言い方は俺が守銭奴みたいだからやめてくれ」


玩具の拳銃と弾を拾い背中のリュックに入れ帰宅する為に歩きだす。

街灯で薄暗いとは言え壁には穴が開いているこの現場に居たくない。

器物破損も追加だ、罪の半分は『銀髪の天使』のせいだと思うが。

撃退した時点で過剰防衛も否定できない。

こいつと関わると俺の罪状がどんどん増えていく気がする。


「とりあえず残金を返金してくれないか?」


「無理ね、一度入れたら出せないわ」


20万、安くは無い、安くは無いが付き纏われるのは困る。

消失した事に対しての返答はぶっ飛んでいた。


「安心して頂戴、返すわよ、もちろん体で」


「お前、ここ外だぞ、なんてこと言うんだ」


「何言ってるの?

労働も金銭の対価に値するでしょう?」


それが当然であると断言する、冗談では無くとも洒落にならない。


「……要らないと言える額じゃないがそれは止めろ。

一応聞いておくが推定家出少女よ、親御さんは?」


「あっちに居るわ」


そう言ってチップスは空を指さした。

広がるのは星が見えるかも怪しい曇った夜空のみだ。


「それは悪い事を聞いたな……。

お前どこかの研究所(ラボ)から逃げ出してきたとか言わないよな?」


少し発想が飛躍したかもしれないが。

不可思議な存在を大真面目に聞いた俺は悪くない。


「失礼ね! アニメやゲームじゃあるまいしそんな事ある訳無いでしょう」


非常識な存在だが意外と常識的な事を言う。

一息吸い込むと胸に手を置きはっきりと宣言した。


「私はちょっと一般的な魔法少女よ」


前言撤回、一般的に魔法少女なんて居ない。


「忍者や侍が日本に隠れ住むように。

魔法少女も古くから日曜日の朝の平和を守っているわ!」


日曜日限定の魔法少女、どうでもいいが今日は水曜日だ。


「それはアニメの放映日時だよな?」


「いいから、今夜泊めて頂戴、行くところがないの」


「他の奴に頼むのは……危険かもしれないが俺である必要はないだろう」


服装はともかく外見は整っている為に言い淀む。

この価値観なら本当に金と引き換えに道徳も倫理も気にせず行うかもしれない。


「確かに私は今、住居不定無職だけど。

お金は大切なのよ、だから私、体で払うから!」


「勘弁してくれ」


すれ違う人の視線はチップスの魔法少女の服装に釘付けだ。

言動も怪しすぎるせいで振り返る人も居る。

スマホを構える人まで居るじゃないか、勝手に撮るな、相互監視社会の極みだ。

誰でも情報共有ツールを持ち歩く現代社会に万歳。


「このお金でご飯を作ってみせるわ、添い寝でも良いわよ、どうかしら?」


「家に来て良いからとりあえず、黙ってくれ」


そう言うとチップスは両手で口を隠した。

リアクションをつけないといちいち行動できないのか。

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