第十五話「クリミナル」
学生ばかりが姿を消すと言われた場所に向かう。
自動販売機とベンチが並ぶ薄暗い路地裏から話声が聞こえる。
正解か判らないが妙な集団ができているのは間違いなさそうだ。
そっと覗くと倒れた子供達を背景に踊る様に歩く二人組が居る。
ぱっつん髪のサイドテール、化粧、髪型、顔すら瓜二つだった。
ピンクと黒のフリルワンピース、手には黒いマニキュアが塗られている。
目元の涙袋を強調するような赤い化粧、双子コーデだ。
この独特なファッションは確か地雷系だったか。
見た目が全てとは言わないが。
この服装を好んでいる時点でまともじゃない事だけはわかった。
転がる少年に何かを話しかけ続けている。
「これから心が動かなくなっちゃう」
「これから体が動かなくなっちゃう」
「「どっち、どっちが大切?」」
「代償はそうね、ナイフを見ても無感動ならどうかしら」
「代償はそうね、ナイフが持てなくなるのはどうかしら」
少年が何を答えたのかこの距離ではよくわからないが。
大切を聞いてまわる姿、確定だろう。
「そう、持てない方を選ぶの、勿論、なんでも叶えてあげるわ」
「ところで、どうして私を選んだの、それは大切じゃないの?
犠牲に出来る程軽いものだったの?」
選ばれた方が言い募る。
明確な苛立ちと悲しみが伝わってくる。
ここまで返答がデストラップな相手も珍しい。
「「次の代償は何が良い?」」
「「好きな物を選ばせてあげる」」
「どっちを選ぶの?
私達は大切を知って欲しいだけ。
何でも叶えてあげる」
「存在がわからなくなったって」
「方法がわからなくなったって」
「「私達が叶え続けてあげるから大丈夫」」
「「大変、聞こえないわ」」
白々しくも見える大袈裟な反応。
二人だけで世界が形成されている。
その空間にチップスが一人飛び出していく。
「メイ? メイ!
すていたす☆あっぷ・インプルーブ!」
変身を始めた。
不利になろうと敵の前で変身はやめられないようだ。
「キトゥリルキトゥリルデミリタリス。
プリティ、メルティ、ギャランティ!」
脳内トレーニングの成果があるのだろうか。
いつもと何も違いがわからない。
この間に俺もヘルメットを被り待つ。
「世界で最もチャームで不可思議な。
魔法少女チップスちゃん討論開始よ!」
俺に見せる為か後ろの二人には背を向けている。
変身シーンとしては意味無いだろ。
チップスの姿を見届けると二人が名乗り始める。
「私はミネル」「私はティア」
「「でも、貴方は覚えなくて良いわ」」
物陰に居た俺の姿は認識していたようで。
話しかけられているのは俺だった。
「今まで何度も、他者の意見を手折って来たのでしょう?」
「自覚が無いとは言わせない」
「「そう、他の子達の、全部、壊した、貴方が壊した」」
壊す、恐らく武器の破壊の事だろう。
戦いが起きるのは間違いなさそうだ。
「示しましょう勝利こそが『正義』であると」
「誓いましょう『知恵』こそが慈善であると」
服装が、銀色の金具がついた。
黒と深緑の軍帽と軍服ワンピースに変わる。
細部は違えど二人とも寸分違わぬデザインだ。
ミネルと名乗った少女は。
首元の宝石とネクタイが赤く。
左目に黒い包帯が巻かれている。
ティアと名乗った少女は。
首元の宝石とネクタイが青く。
右目に白い包帯が巻かれていた。
この二人赤と青の色の違いが無ければ見分けがつかない。
片手に揃いで長剣も出現したが。
壊すべき武器は恐らく別だろう。
右手にミネルが持ってるのは赤い色の装飾、傾いた天秤。
左手にティアは青い色の装飾で、鍵付きの本に見えた。
変身と共に出現したこの両方を壊せばいいはずだ。
「お金なんて低俗、『正義』は全てを救済する」
「お金なんて俗物、『知恵』は全てを解決する」
掲げる物が二人とも違うようだが。
問題は長剣を片手で振り上げている。
危険度はどっちもどっちだ。
「『正義』なくして勝利は無いの」
「『知恵』なくして発展は無いの」
「「私の方が、絶対大切」」
真っすぐ俺の方に斬りかかって来る。
守る様にチップスが近づいて来るが意図的に無視されているようだ。
他の奴らと違って二人は明確に俺に集中して攻撃してきている気がする。
気のせいか?
ティアが俺に長剣で斬りかかる間。
ミネルの固定された赤い天秤の秤が逆向きに傾いた。
「「これより、罪状を申し立てる」」
二人が口を開くとティアの青い本が開いていた。
「銃刀法違反」
「器物損壊罪」
「暴行罪」
「未成年者略取、誘拐罪」
「住居侵入罪」
「凶器携帯の罪」
ミネルとティアが交互に読み上げ続ける。
全ての出来事に覚えがあった。
確かにチップスと出会ってから法を破り続けている自覚がある。
「「汝罪あり、よって有罪とする」」
「短期にてこれほどの愚行」
「反省の色は無しとする」
「結果が全て、人は経過なんて見てくれない。
不幸自慢は他所でやって欲しい。
私達は貴方の話を聞きたくないの」
「「この罪をもって極刑となす」」
その言葉と同時に足に鎖で繋がれた錠のような重りが装着される。
俺だけを斬りつける理由はわかった。
だが殺されるほどじゃないだろ、俺は戦う為にハンマーを振り下ろす。
銃刀法違反なら向こうも同じだし正当防衛も許されるはずだ。
「『正義』の為に『倫理』を得る為の『法律』は必須」
「『知恵』の為に『論理』を得る為の『成果』は必須」
二人は厄介だ、ダメージは無いが。
剣が掠る度に嫌な音がする、防具もいつか壊れるかもしれない。
「綴の無罪を勝ち取るわよ、魔法少女として!」
動きを妨害するようにチップスがトランクを振るう。
俺にも当たりそうなギリギリの位置に冷や汗がでる。
一番のイリーガル少女が何か言っているが。
魔法少女は関係ないだろ。
そしてその言い方だと、俺が圧倒的に犯罪者だ。
いや、否定しきれない、裁判に行けば。
普通に俺は負ける。
「綴、示談? 罰金? どっちにする?」
「それどっちも認める事になるよな?」
「罰金は国にごめんなさいする事なのよ自首なら安くなるの。
お金で許される、使うなら止めないわ」
「使わない方向で頼む」
その意味の解らない力で免罪符を買うのは恐ろしすぎる。
軽い物でも30万円以下とかあるだろ。
いくら持っていかれるかもわからない。
自首なら減軽が、いや、今は認めない方向でいたい。
「チップス、深く考えるな、いつも通りで良い」
「こういう時は燃やすに限るわ火炎放射器」
「まて、放火はやめろ」
罪状が増えるのは困る。
「わかったわ、携帯消火器5960円」
「残金ハ13万ト5千6十5円デス」
チップスの出す物が最近、犯罪者染みたラインナップになっている気がする。
可愛いはやめろと言った俺の影響か?
消火器からドライアイスのような白煙が舞う。
空気が少し冷たくなり直撃した二人の体に氷がくっ付いていた。
凍り付いたダメージが大きいのか二人はふらついている。
長剣を手放した様子はないが、近寄るのは得策ではない。
銃刀法違反の事を考えながら二人に。
最近使わなくなった銃を弾切れまで撃った。
怯んだ隙に一気に距離を詰める。
予想していなかったのか弱っていた所をハンマーで打ちのめす。
オーバーキルも良い所だが俺の首が飛ぶ事を考えると安心できない。
どっちでも同じだ、一緒にハンマーで本も天秤も叩き壊すと。
錠と鎖も破壊される、元の姿に戻った二人は俺を睨みつけていた。
「法律の順守は絶対なのに」
「金の力で捻じ曲げる不届きもの」
結局よくわからなかったが。
凄まじく罵倒されていることだけはわかった。
「二人とも! 良い? この世はお『金』が大切なのよ!」
「敗者は素直に認める、お金が優勝」
「勝者以外語る資格無し、お金が優勝」
ナイの時に割り込んで止めたからかチップスの主張が激しい。
素直に認めてくれるタイプでよかった、いや、よくないな。
順調に現金第一主義が増えている気がする。
現場に倒れていた子供達の顔を見回すが。
最村は居そうにない、空振りに終わった。
「次の現場に行くわよ!」




