第十四話「変節」
やっと帰宅する、今日は散々な一日だった、もうなにもしたくない。
服を脱ぎ部屋着に着替える、チップスは魔法少女の変身を解除している。
チップスもそうだが今まで会った彼女達は全員何か軽かった。
大切だと言う割には失くした時、癇癪のひとつも無い。
得られずとも仕方ないと簡単に諦める無関心さが不気味だ。
大切、本当と言うものはそれだけではない、それだけはわかるのに。
何がなのか明確にわからないのは自分も同じだ。
俺は多分、傷つかない為に最小を選び続けていた。
浪費、消費を拒んでいる、何を選んでも納得できない自分が居る。
奇跡とか神だとか実が伴わないこじつけ。
非科学的な出来事とか無いと思ってた。
映像なら編集、文章なら嘘、全て妄言。
とても信じられるものじゃないと。
目の前の少女がただの人間に見えなくて。
このスーパーナチュラルな存在に全力で身を委ねても良いのだろうか。
いつも何かを信じてみたかった、信じる要素を探せば探す程見つからなくて。
悪魔の証明だ、無い証明は絶対にできない。
一人で答えのない考えを続けているとチップスから声が掛かった。
「もっと強くなりたい、魔法少女でいたいわ」
いつもの強気な態度と違い声が小さい、不安そうだ。
「私は、この力を使っても良いの?」
純粋な問い。
長く過ごしたがチップスが自分の事を俺に質問したのは初めてだった。
「俺は知らない、好きにしろよ」
こんな時でも他人事で居たい悪癖が顔を出して。
口から漏れた言葉は無責任なものだった。
「そうね、そうよね、そうするわ!」
自己暗示にも近そうな感情の変化が見られたが。
俺は気にしない事にした、チップスは明るい方が似合っている。
結局その日は何も考えずに眠ることにした。
__
後回しにしたのは色々失敗だ。
朝からハイテンションなチップスが。
妙にそわそわした様子で俺に喋り倒してくる。
「今日からはより本格的な魔法少女活動を実施するわ!」
「なんだそれは」
「通り魔も倒したのよ、次は世界に蔓延る巨悪に立ち向かうのよ」
世界規模にまで話が膨らんだ。
近所の通り魔からレベルアップしすぎじゃないか?
「そんな簡単に見つからないと思うが?」
「ええ、だから日々のイメージトレーニングが大事なのよ」
「そうか」
「如何に華麗に美しく。
可愛い魔法少女のポーズができるか、この練習は欠かせないわ」
「そう……か? それは必要ないだろ」
チップスの事は適当に聞き流し、着替え大学についた。
今日は何故かチップスも変装と称して帽子を深めに被り学生のフリをしている。
頼むから何も問題を起こさないでくれ。
律儀に通い過ぎな気がするが欠席だけはしたくない。
学費が無駄になるのは嫌だ。
最村が大学に来なくなり。
俺の隣には逆好が来るようになった。
逆に言えばそれ以外は何も無い。
違和感があった、平穏過ぎる。
何もしない俺が悪い奴になるような気がして。
無意識に最村を探していた。
「チップスが居るなんて珍しいわね、竹林くんは最村くんが気になるの?」
「しー、駄目よ隠れてるんだから」
チップス、返事してたら意味無いだろ。
逆好が尋ねる、正直どうでもよさそうだが。
「数少ない知人だからな」
そう、知人、別に親しくも無い。
「すっきりしないだろ、被害者は居るのに相手がわからない。
次のターゲットは俺かも知れない」
失踪自体は不自然ではあるが最村の意思の可能性もある。
俺の人生で消える事になったとしても関わる理由は無い。
ただ奇妙な力を持った少女達が背後に居て。
武器を壊せば解決するかもしれないと知ってしまったから。
知ってるのに放置するのは同罪なのではないかと。
自責の念が辛い強迫観念に変わっているだけだ。
「そうかしら? 犯人が居ると決まってないもの」
限りなく怪しいが逆好の言う通りでもあった。
正義感とは程遠い、罪悪感から逃れたい。
俺が気に入らないから。
それだけ、なら良かったが。
最近起きる不可思議な出来事が多すぎて。
俺の中の人への様々な価値観が少し変わってきたような気がする。
「逆好、俺も行方不明になったら探してくれるか?」
「そうね、居なくなったら探してあげるわ、失踪する予定が?」
「今からちょっとな」
「軽く調べてはあるわ、見て」
逆好はスマホでいくつかの記事と地図を展開して説明してくれた。
「この辺、2か所で人が消えてるわ。
最村くんに関係あるかは知らないけど。
付近で定期的な布教活動をしてる団体がいるのよね。
これ、怪しいと思わない?」
どっちも普段なら立ち寄らない場所だった。
確かに宗教と奇跡は親和性が高そうだが。
もしかしてカルト教団だったりするのか?
前の俺なら最村を探しに行く気が失せる内容だ。
確証が無いのに行くのはやめておくべきか。
逆好が耳元で内緒話をするように話し始めた。
「噂の範囲だけどアストロ星見の会の活動期間と重なるのよ」
このタイミングで言われると悩む、本当に無関係じゃなさそうだ。
「その会で夢見様って呼ばれてる少女が。
『夢』と引き換えにどんな願いも叶えてくれるらしいわ」
「魔法少女の出番ね!」
魔法少女と叫ぶな……。
「詳しいな?」
「連れ帰った昨日の人達が話してくれたわ」
「今までの会話は何だったんだ」
結論を先に言え、その内容もっと早くに言えただろ。
「竹林くんの嫌そうな顔が可愛くて」
その迷惑な考えを今すぐ捨てろ。
「でも行方不明者が出てる場所が2か所なのは本当よ。
片方は主に学生、もう片方は社会人が多いの」
「大学生はどっちだ?」
「わからないわ、窓口が違うだけで。
どっちも同じかもしれないし別かもしれない」
2か所に絞られているだけありがたい。
逆好にお礼を言って俺は最村を探すことにした。
チップスもやる気に満ちている。
「任せなさい、行方不明事件はチップスちゃんが解決よ!」




