第十三話「エクストラ発生」
逆好とのデートとは言い難い何かを済ませチップスと家に帰ると扉の前に。
チップスよりも幼い少女と軽薄そうな青年が居た。
少女の方は俺の家のチャイムを連打している、はた迷惑過ぎて関わりたくない。
笑顔で静観してる青年も問題だ、ちゃんと止めろよ。
「チップスが、居るのはわかってるんだからね。
このヴァイオレットちゃんが相手してやるううう」
また変なのが来たか、頼むから家で戦闘はやめろ。
「ミツキ、チップスいないじゃないかあああ」
少女はチャイムを連打し続けながら泣き叫びはじめた。
「えー、でも魔法少女出没サイトに載ってたのここだよ? 紫ちゃん」
「ゆかりって呼ぶなあああヴァイオレットちゃん!」
ミツキ、と呼ばれた男は宥めてるようで煽っている。
燃料を投下するな、帰れと言えれば良かったが。
今、あの二人の相手をしたくない。
サイトの確認をする為にチップスを連れて。
近所のファミリーレストランに移動する。
ファミレスで軽食を頼みつつ魔法少女出没サイトを探した。
やられた、サイトの内容を確認しなかったのが仇になった。
魔法少女出没サイトでは俺のアパート名が記載されている。
竹林の表札がかかる部屋番号103、所属魔法少女チップスってなんだコレは。
横からチップスも画面を覗いているが……。
「私も魔法少女として格が上がったのね!
このまま全国に飛び立つわよ」
「それはやめろ、一生消えないデジタルタトゥーになる」
全国はだめだ、更に拡散されてたまるか。
チップスは嬉しそうだが事態を知って喜べる神経が正直、羨ましい。
このサイト何が究極に性質が悪いかって全部事実って所だ。
今なら迷いなく引っ越しを検討したい。
「チップス、引っ越すぞ。
俺は大学近くならどこでも良い、お前は何処が良いんだ?」
「引っ越すのはお金が勿体ないわ!」
珍しくチップスが使う事に反対した。
「もっと使うべきと言ってたじゃないか」
「そうね、でも綴、不本意でしょ?」
思わず押し黙る指摘されると思う所もあった。
確かに欲しいとか価値があるからじゃない。
正直、現状よりマシだからで選んでいる。
「妥協の末なんて論外よ、撃退すれば良いの。
魔法少女チップスちゃんに任せなさい!」
「家で戦うのはやめろよ?」
「そ、そうね、家はやめるわ!」
危なかった、これ、言わなかったら家で乱闘してたな。
こういう時のチップスは基本的に違う考えが無い時の反応だ。
注文した食事が届いたので会話をここで終える。
チップスもイチゴアイスが届くと静かになった現金な奴だ。
__
トランクにしまっておいたヘルメット以外の戦闘服を着こみ。
覚悟して家に向かう、諦めて帰っている訳もなく。
先程と変わらない二人が玄関前のドアに座り込んで居た。
「ここは俺の家だがお前らは何をやってるんだ?」
わかりきった事だがあえて声をかける。
「ヴァイオレットちゃんは戦いに来たんだよ」
紫と呼ばれていた少女は元気よく答えた。
目的はチップスで間違いなさそうだ。
「俺の家の中にチップスは居ない」
「匿うなよ、ネタはあがってるんだスレで!」
凄まじく信憑性の薄い所を頼りに来るな。
「居る場所に案内してやる。
近所迷惑だからここで騒ぐのをやめろ」
「ヴァイオレットちゃん騒いでないもん」
応える返答の声が既に大きい。
適当に公園に向かって歩き始めると二人がついてくるのがわかった。
チップスも一定間隔で俺の後をついてきているが紫は気が付いてない。
ミツキの方はわかっていて放置しているようだが家の前で騒がれるよりマシだ。
家に突撃してくるタイプだ恐らく愉快犯だろう。
公園までたどり着くと、察したチップスが立っていたが。
ここで気が付いた、俺は着替えたがチップスはなんで変身してないんだ?
「やっと見つけたぞチップス。
このヴァイオレットちゃんが倒しちゃうんだからな!」
「久しぶりね、紫ちゃん」
サイトを見て一方的に知ったのかと思ったが。
チップスが知ってる相手だったのか。
「紫って言うなあああ」
発狂させているがこれは本当に大丈夫なのか?
ヴァイオレットなら本名はスミレだと思うが。
俺以外が紫と認識しているなら俺も紫と思っておくか。
チップスがいつも通り杖を構える。
同じように紫もまったく同じデザインの杖を出した。
「「メイ? メイ! すていたす☆あっぷ・インプルーブ!」」
何故か二人同時に同じ呪文を唱え始め。
「「キトゥリルキトゥリルデミリタリス。
プリティ、メルティ、ギャランティ!」」
詠唱、変身の仕方、動きまで同一でチップスと声を合わせる紫。
「「世界で最もチャームで不可思議な魔法少女」」
「ヴァイオレットちゃんの登場!」
「チップスちゃんのはじまりよ!」
片手にトランクが出現している、服装、武器、全て同じだ。
まるでコピーだ。
「絶対個性的だって教えてあげるから!
完璧ステータスだから驚けよ。
課金は最強なんだ!」
「紫ちゃんは、お小遣いの500円までね」
ミツキと呼ばれた男が紫に500円玉を差し出すと赤い光になって消える。
この光景を見たことがあった、トランクにチャージする時の動きだ。
「本物があるから比較される。
何らかの理由で破損されれば『偽物』でも惜しくなる。
このヴァイオレットちゃんが劣化コピーの模倣品だとは言わせない。
一番苦しむ方法で完コピしてあげるよ」
チップスと紫の二人がトランクで殴り合っていた。
俺も戦いに参戦しようと思いリュックをあけるが。
俺の後ろではミツキと呼ばれた男。
戦闘中にも関わらずスマホを見ながらのんびりしている。
この様子、勝敗はどっちでもいいのか?
画面をよく見ると動画撮影画面だ。
これ俺が倒そうと紫にハンマー振り下ろしたら、立件されるんじゃないか?
二人の戦いに俺は静観するしかない。
撮影を止めるように声を掛けるか。
「撮るのはやめてくれないか」
「心配しなくてもネットで公開したりしないよ?」
「本人に許可は」
「紫ちゃんの日記みたいなものだよ。
チップスちゃんには後で聞いておくよ」
話が通じそうにない。
撮影されてるのは紫とチップスだ。
俺が何か言っても反応は薄いだろう。
紫はチップスよりも幼い。
本当に手を出す奴では無いと思いたいが。
ここはあえて嫌疑をかけて止めさせてみるか。
「まさかお前、ロリコン……」
「違うよっ誤解だよ、撮影辞めるから待ってその誤解といて」
動揺の仕方が派手だ、これは。
このまま押し切れば撮影映像は消せるかもしれない。
「消して貰わないと信じられないな」
「わかった、消す、消した! だからその考え捨てて」
削除しましたの字が表示された画面が差し出された。
「次撮影したらロリコンとみなす」
「もうしないよ」
ミツキは両手を挙げ降参のポーズだ、スマホを仕舞ったのが確認できた。
よし、これなら一回だけ紫に攻撃を直接与えられそうだ。
チャンスは一度だ。
しばらくはチップスの判断で戦って貰うしかない。
「可愛いクラッカーさん! 390円」
「食らえヴァイオレットちゃん特性クラッカー! 390円」
「残金ハ14万ト2千8百5円デス」
チップスはパーティ用のクラッカーが相手に向かって発射される。
紫は何故か食べる方のクラッカーだった。
いきなり間違いが発生してるが本当にこれは、模倣なのか?
チップスのトランクはアナウンスが入るが紫のは喋らなかった。
根本的に別物の可能性があるな。
「本物が壊れた時、『偽物』の価値は。
上昇して本物を超える、だから。
ヴァイオレットちゃんが倒すんだ! スーパーボール! 110円」
大小まばらのスーパーボールが無造作に飛び跳ね。
チップスだけじゃなく俺の額にも当たるが痛くない。
これ本当にただのスーパーボールだ。
「化けてやるううう対象は愛だ、金の矢!」
そう言った瞬間紫の服が白いドレス。
一対の羽が生えた天使のような姿に変化した。
弓矢を構え撃つ、逆好と同じ姿だ。
手を抜いていた逆好よりも遅い矢がチップスと俺の後ろ。
磁石が入ってる俺のリュックへ吸い寄せられていった。
「なんでリュックに刺さるの、リュックも恋するの?」
原因を知らない紫は驚いている。
「自由はヴァイオレットちゃん楽器できないし、むぅううう」
色々化ける割にはもしかして。
すっごく不器用なんじゃないか。
何もせずとも自滅していく気がする。
「綴、紫ちゃんは今、知らないから良いけど。
既に壊された誰かの力を真似されたら手に負えなくなるわ!
絶対に教えないで、本物が喪失した偽物は威力が変わっちゃうの」
模倣先が今は逆好だ。
劣化コピーだと思ってるから。
見た目以外の再現が微妙なのか。
何も考えずに短期決戦が望ましそうだ。
「チップス、好きに使って良い、可能な限り攻撃しろ」
「わかったわ!」
「本物を超えた『偽物』を教えてあげる。
変えが効く代替品、だから良いんだよ」
撃つとリュックに吸い寄せられるとわかってからは。
紫は矢を直接手に掴みチップスに振りかぶるが。
動きが大雑把過ぎて当たる様子が無い。
「偽物より、お『金』が一番よ本物だもの!」
「『偽物』は『技術』なんだ大切に決まってる。
ヴァイオレットちゃん知ってるもん」
「紫ちゃん、虚勢張るけど弱いもんねぇ。
うーん、僕はお金の方が大事かな?」
すっかり観戦席とかした場所からミツキが紫へ声をかける。
意識がそれてくれてありがたい。
その間に俺はリュックからハンマーを。
いつでも取り出せるように確認しておく。
「バブルガンさん1780円!」
「残金ハ14万ト千2十5円デス」
大量の泡が紫を襲う、ダメージがあるのかはわからないが。
髪の毛が水気を含み液剤で悲惨な事になっている。
「ああ、もうめんどうだ愛なんてナシ! 時間でどうだ」
まずい、海石榴の刀は本物が無い。
本物を超えるという言葉が過言でないなら厄介だ。
チップスの攻撃に意識がそれていると信じて。
俺は全力でハンマーを背後から紫の頭に叩き込んだ。
前方へと倒れていく紫から。
変身される前だった弓を回収する。
体重をかけるとダンボールよりも簡単に折れ曲がる。
外見だけよく似た弓が壊れるが紫の見た目に変化はない。
「チップス、何かあるか?」
「このペンダント、カリンは付けてないわ」
紫色の石が付いたペンダントを強引に引きちぎると簡単に取れた。
ペンダントを砕くと同時に紫の姿も変わる。
夜空を模した長袖、星模様のついたスカート。
黄色いスニーカー、恐らく普段着だろう。
「うわあああん廃課金者に勝てる訳無いんだあああ」
「紫ちゃん、僕、魔法少女みて満足したし帰ろう?」
「ううっ、帰るー」
止める隙も無く帰って行った。
迷惑だったから良いんだが、こういう奴らも居るのか。




