第十二話「失踪」
今日は逆好と約束の日だ。
情報と引き換えがデートになるとは思っていなかった。
念の為にまとめサイトを確認する。
『銀髪の天使』の話はあの戦いを最後に止んだようだが。
新たに魔法少女出没サイトが出来上がっている。
このままだとネットニュースのランキングの1位を。
チップスが飾る事になっていそうだ。
中身を確認したいがリンクを踏む精神的余裕が今はない。
俺は見なかったことにして約束した場所に向かう。
逆好に会いに行く為だ。
「待ってたわ、竹林くん……デートなのよ?
他の女の子同伴はどうかと思うわ」
逆好に指摘されても何も言い返せなかった。
チップスがついて来るのが当たり前になり過ぎていた。
当然、俺の後ろに今日も居たからだ。
「綴のリュックには磁石を入れてあるわ!
カリンの矢は無意味なのよ!」
「それは言わない方が良かったんじゃないか?」
チップスが最速でネタ晴らしをする。
自衛の為に仕込んだ意味がない。
「失礼ね、竹林くんにはもう撃たないわよ、今は」
疑っておいて正解だった。
トランクにはライダースーツも入っている、最悪は何とかなるだろう。
「大丈夫とは言わないがチップスも少し離れてくれ、逆好に悪い」
「わかったわ、気を付けて、綴」
チップスは少し遠くの木の後ろから覗いている。
ばればれの尾行だが配慮したつもりらしい。
「本当にあの子はお金が大切なのかしら。
一人、先払いなのよね、変わってるわ」
実際に消費されているのだから。
異常が発生するという点では逆好も同類だろう。
金が全てだと本当に思っているのは。
清々しいような悲しいような微妙な心境だが。
「チップスの事なんて忘れて、さあ、行きましょう」
そのまま買い物に付き合わされる事になったが。
何故か逆好が俺の服を選んでいる。
「たまには黒以外も着るべきよ、竹林くんなら違う色も似合うわ」
様々な色味の服を俺に見せては棚に戻す。
店についてからずっと同じ事を繰り返していた。
「俺は黒で良いんだよ、逆好こそ自分の服を見なくて良いのか?」
「服は昨日買ったばかりだから今日はもういいわ」
服はもういい、と言うが、ここはアウトレットモール。
そして今、逆好が選んだ店は服屋だ。
「なんで来たんだ」
「だってピンクで徘徊してたじゃない、服のセンスを知りたかったのよ。
言い換えるなら、竹林くんの事がもっと知りたかったから、それだけよ」
目出し帽の時を思い出す、確かに写真が出回っていた。
「ピンクの話はやめてくれ」
「ええ、やめておくわ」
綺麗な笑顔だった、面白がっているのか。
本当に配慮する気があるのか、これはどっちだ。
「でも意外だわ、今日、来てくれるか不安だったもの」
「約束は破りたくないだけだ」
「竹林くんは良い人なのね」
良い人の隠れた言葉はどうでも良い人って聞いたことあったな。
「人が良いの間違いだろ」
気のせいか、逆好の俺を見る目が。
慈愛に満ちた暖かいものに変わった気がする。
店内が温かいから、そんな気がしただけかもしれない。
「そういえば最村君、昨日から連絡が取れないのよ。
グループチャットの返信が途切れたの」
「居なくなったのか?」
「確証がある訳じゃないけど、集団失踪事件も気になるもの」
ナイとノアはもう武器を破壊した、あの二人に最村が襲われる状況は無いはずだ。
ネットニュースで確認した集団失踪事件、『銀髪の天使』とは別件か。
そんな事を考えながら歩いて行くと。
向かい側に不自然な集団が居た、階段で立ち止まり。
無言で動かず、道を塞いでいる、少し動いても。
足元が頼りなく、まるでB級映画のゾンビの群れだ。
「完全に正気を失っているわね」
逆好がそれを視認した瞬間、金色の矢が出現する。
「あれはもう無理ね、奪われた人だわ。
空っぽで可哀そうな人達、私が生きがいになってあげる」
弓を構え、止める間もなく撃たれた矢はまっすぐ飛ばず。
誰に刺さる事もなくリュックの磁石に吸い寄せられた。
「竹林くん、悪いんだけどちょっと離れて居てくれないかしら?」
俺に向けられた矢ではない。
だが他の人なら良いと言う訳でも無い為言い淀む。
無言に咎める気配を察したのか逆好は俺と目を合わせた。
「人助けよ、こうしなければあの人達は助からないわ」
その言葉は逆好が嘘を言っているようには思えなかった。
後ろに居るチップスを確認して俺は逆好から離れる。
矢で撃ち抜かれた人は皆一様に次々と側に来ては。
名前すら知らぬ逆好を好きだと言う、狂信者のようだ。
逆好は後ろに並ばせると言う事を聞くように命令している。
全員に撃ち終わったのを確認してから。
矢が思ったよりも危険だと再認識した俺は。
内心焦りながら近くへと戻る事にした。
「どういう状況だ?」
「好きという感情しか今、存在しないのよ、通常の精神じゃないわ。
何か生きる根源を根元から取られているとしか思えないもの」
「いったい誰が?」
「私は知らない、妙な邪魔が入ったわね。
調べたい事もあるし今日はここまでかしら」
顔を左右に振りながら。
そう答えた逆好の手にはスマホが握られていた。
むしろ買い物中は出さなかっただけ奇跡だ。
「帰りましょう、今日は楽しかったわ」
逆好と共に帰る準備を始める。
本当に俺に合わせて食事も無しで服を見ただけだった。
デートと言うにはお粗末な、これで済ませる所が凄いと思うが。
「竹林くんは素質あるもの。
きっと一途で情熱的、期待してるわ」
手が触れるか触れないか微妙なラインで近寄っては離れていく。
学習したのか前ほど接近はしないが意識させる為なのがわかる。
香水の匂いが残り、作られた雰囲気に俺は少し距離を置いた。




