第十一話「119」
とりあえず今日は服装を整えて行動は明日にしたい。
家に帰りチップスに用意できる武器と服の候補を聞く。
「何か他の武器と服はないか?
今のままじゃ悪目立ちしてしょうがない」
「バブルガンさんなんてどうかしら?
シャボン玉が可愛いわ」
「色は黒で基準は値段が安く強い奴だ」
「黒なんて可愛くない、つまらないわ!」
「俺は可愛さは求めてないからな」
今までは戦闘中でチップスの選択に委ねるしかなかったが。
これならゆっくり考える事も出来る。
「残金ハ14万ト6千9百7十4円デス」
譲歩した結果、武器には銀色の大型ハンマー。
防具は黒一色でバイク用のライダースーツ、手袋と靴。
頭部にはマスクとヘルメットになった。
追加購入は財布に痛いが。
普段使いするならカラーリングに妥協はできない。
しかしチップスのラインナップが。
女児向け玩具ばかりに感じるのは気のせいか。
「お前一体何歳なんだ?」
「2歳よ」
「ああ、どうりで幼い訳だ」
「ひどいわ! 立派なレディーなのよ!」
まともな会話が成り立つと思った俺がいけなかったらしい。
確かに知識の偏りはあるが本当に2歳な訳あるか。
「どこ生まれなんだ?」
更に質問を追加する、この調子だと地球と答えそうだが。
「今見えるかしら、あの辺よ」
窓の外、星空を指さした。
「私はあの宙から堕ちて来たの」
この一瞬空気が変わった。
本当に人以外と相対してるような。
冷たい声だった何か抑え込んでいるような。
感情の読めない不気味さがあった。
「お前、本当に異星人か何かなのか?」
「私にとっては綴が異星人よ?」
返って来たのは肯定の言葉だった。
いつも通りの言い方に戻ったが。
冗談を言っている様子ではない、本気で言っている。
何かいけないホラーの扉が脳内で開き始めたが。
少し考え、俺は何もかも無かった事にしてそっと閉じる事にした。
今の話が本当なのか、俺には分からない。
正直、妄想少女の空想も否定出来なかった。
だけど、チップスが本気でそう思っているのなら、これ以上は藪蛇だ。
何処から来た何者かなんて話は今、重要じゃない。
例え神や異星人だとしても現状が変わる事は何一つ無いからだ。
__
仕方ない、今日だけはチップスに部屋で変身して貰い。
銃と大型ハンマー、ヘルメットをリュックへ入れ。
念の為チップスのトランクに着替えを入れてから。
バイク用ライダースーツの上に上着を羽織り。
購入しておいた防具で服装を整え。
チップスと共にナイとノアを公園で探す。
ベンチに二人が座っていた。
服装に変化はない、羽も元に戻っているようだ。
「お兄さん、また会えたね!」
「『命』大切、知って」
そう言いながらナイは公園のポスターを指さした、書かれている内容は。
終生飼育の義務を! 犬、猫、家族の命は大切にしましょう。
「大切なら奪おうとしないで欲しいんだがな」
「そっちも同じ、私はだめ、どうして?」
ナイはチップスに戦輪で斬りかかったがチップスは無傷だ。
俺はヘルメットを被り、リュックから大型ハンマーを取り出す。
意味が無いと悟っているのかナイは行動を変え。
公園前、自販機の横に居た通行人に斬りかかった。
チップスが通行人を守ろうとするも、間に合わず。
倒れた通行人は重症に見える傷だ。
目の前で人が傷ついた姿を見て、はじめてナイに対する恐怖が沸いた。
倒れた人間にナイが触れる、その瞬間黒い羽が広がる。
ここは住宅街、スーパー付近の公園だ。
人通りは避けられない襲われたらお終いだ。
「綴! 今までの価値観を変えないで! 戦況が不利になっちゃう」
チップスの片足が吹き飛んだ。
今までずっと無傷だったチップスが明確に負傷した。
「このままじゃ、だめ、威力がおかしい、逃げて」
「どこにも行ける訳、無いだろ、何でも良いから武器を早く出せ」
ノアが後ろから鳩で襲ってくる、俺にダメージは無いが鬱陶しい。
チップスの足が生えていた、再生力が異常だ。
「時間を稼ぐから、早く逃げて……スタンガンさん! 3358円」
「残金ハ14万ト3千6百十6円デス」
ピンク色のスタンガンを押し当てられたナイは一瞬硬直する。
俺もハンマーをナイの背中に向かって振り下ろした。
一撃だった、ナイの隙をつく事に成功したらしい。
気絶したのか動かなくなったナイの武器を壊したいが。
壊せる武器が見当たらない、とりあえず拘束しておいたほうがいいだろう。
「チップス、何か縛るものを」
「これね! 玩具の手錠、421円!」
「残金ハ14万ト3千百9十5円デス」
理屈はわからないが手錠がナイの手首と公園のベンチの足に繋げられた。
襲われていた人の様子を確認しておく、息があった、生きている!
救急車を呼ぶために俺はスマホをリュックから取り出した。
「この人、放置したら死ぬかもしれない。
俺は救急車を呼ぶ、チップス、ノアを任せた」
「もちろん、任せなさい!」
ノアは何故か俺達を素通りしてナイの下へ歩き出す。
「僕もここで負けるよりはマシかな、大切な力、借りるよ」
鳩が旋回しだす、防具のお陰で当たっても痛みは無いが。
力を借りる、何かするつもりなのか?
ノアがナイに触れると。
急激に勢いの強い、雨が降り始めた。
「『家族』以外この世に不要なんだよ、お兄さんは消えてよ」
「雷来るかも、綴、逃げて」
空に分厚い雲、雨の中で光る雷。
「電話は終わった、ここで逃げたくはない、避雷針があるならそれを出せ」
「無理よ、高いもの」
言うだけなら問題ないと試してみたが無理だったか。
妥当な時と高い時があるが価格設定はどうなってるんだ。
「ハンマーは後で回収するから綴は電線の下に逃げて。
雷が吸い寄せられるから直撃は避けられるわ、多分」
最後に不安になる言葉を付け足すな。
「いや、だめだ、雷が落ちる前に決着をつけたい」
ハンマーを捨てて俺は即走り出す。
ノアの元に向かい、杖を奪う為に羽交い絞めにした。
もし狙った位置に落雷ができるとしても自分が当たる場所で。
自滅行為をするとは考えにくい。
この状態で一番の安全地帯はコイツの側だ。
「お兄さん、離してよ、僕の杖、盗らないで」
思った通り俺の方には落ちて来ない。
チップスには雷が直撃したが平然としている。
恐らくダメージはあるのだろうが動けるなら問題は無い。
「チップス、杖を奪ってくれ」
揉み合ってる内にノアの口に手が触れてしまった。
今は誘拐犯と言われても否定しきれない姿だ。
早く杖を壊してしまいたい。
「綴、奪ったけど私じゃ壊せないわ」
「俺がやるからチップスはノアをどうにかしてくれ」
「わかったわ」
さっき購入したスタンガンを容赦なくノアの体に押し当てた。
スタンガン、使えるな、もっと早く購入しておきたかった。
俺が使うと犯罪者扱いを避けられなさそうだが。
念の為に確認するが。
何も持ってないナイより先にノアの杖を折る。
周囲を旋回していた鳩が消え雨雲も散って行く。
「ナイも何かあるはずよ! 探してみましょう」
そう言うとチップスはワンピースの内部を触り始める。
「懐にこんなものがあったわ」
読めない文字がびっしりと書かれた本だった。
試しにチップスが破ろうとするが無傷のままだ。
「頑丈過ぎるから、これだと思うの」
どういう理屈なのかわからないが。
俺が壊せという事なのか、渡された本を破り捨てていく。
全て破り終えた時、破壊と同時に目を覚ましたナイの姿に変化があった。
裸だ、ワンピースが消え、ナイは何も服をまとっていなかった。
「良い? ナイ、この世で大切なのは」
「待てチップス」
「えっ、綴、なにするの?」
後ろで慌てるチップスを放置してナイの前に行く。
「お前、その恰好、とりあえずこれ羽織れ」
動揺が隠し切れないが着ていた上着を羽織らせる。
呆然とした表情で俺を見つめるナイ。
俺の頭を掴むと身を寄せた、何か言いたいことがあるのか?
「奪う意味が無い、なら『命』、大切。
アナタと作れば何か変わる?」
危ない方向に話が転じた事だけはわかった。
「待て、誤解だ、それは何か違う」
「『命』大切、作る?」
「俺は作らない、もう少し自分を大切にしてくれ」
「なぜ?」
「いや、何故って」
これはまずい、ナイから悪意は感じないが。
知らないからこそならば、この無垢な発言は黙って貰わないとまずい。
焦っている俺の後ろから気が付いたのかノアの言葉が耳に入る。
「そうだよ、僕達と『家族』になるんだから作らないと」
お前もか。
「待て、待て、どうしてそうなった」
「だってお兄さんは僕と『家族』になりたかったんでしょ?」
「違う」
とんでもない誤解が生まれている、どうしてこうなったんだ。
「プライベートパーツに触れておいて違うだなんて酷いや」
「口に触れただけだ、その言い方をやめろ。
そもそもお前は男だろう?」
短い髪、僕と言う一人称。
古びた白い布だけと化したワンピース。
服はともかくそれ以外はどうみても少年に見える。
「僕は女の子だよ!」
「そうよ、綴、どうみてもノアは女の子じゃない」
何故かチップスから援護が入る。
言われてじっくり見てみるが。
性差を感じさせないまな板のような胸は。
男か女か俺にはわからなかった。
「僕達と共存できるんだ。
喜ばしい限りじゃないか」
「そこに俺の意思が介在しないんだが?」
思想の反転は武器の破壊が原因か。
今までと何が違うんだ。
もしかして見た目よりも幼いのか?
本当かどうかはともかくチップスは2歳だ。
ここに来て2年の間違いかもしれないが。
今まで会った奴らは人間関係には問題なく。
社会レベルに応じた一定の価値観を有していた。
ナイとノアは簡素な名前、衣服もまともに着用してるとは言い難い。
寒空の下でノアはワンピース一枚、ナイに至っては全裸だ。
まともな環境に身を置いてない可能性が高い。
だがこの二人を連れまわすのは無理だ。
せめて服をと思いトランクの中にしまっている。
予備の服をナイに着せる事にした。
これからどうしたものかと考えようとした時。
救急車のサイレンの音が聞こえた。
「逃げよう、今日は帰るね、またね、お兄さん」
「ええ、服、ありがとう」
帰る場所あるのかよ、二人はどこかへと逃げて行った。
救急車が到着する前に俺達もこの場所を離れる。
「ナイって奴、人に危害を加える時まで弱くなかったか?」
帰り道の途中、疑問をチップスに投げかけた。
「当然よ、二人ともそんなに強くないもの。
ノアは全力が出せない、全ては価値観に依存するのよ。
何を言おうと私達に本当の意味で家族なんて……。
逆に深く理解してるナイもダメ。
相手に死の恐怖を感じて貰うまで使えない。
平常時は自分の命が常に一番大切なんだもの」
ノアが何を使ったのかはっきりしないが。
ナイに後遺症のようなものは見られなかった。
雷雨を呼び寄せるノアだけでも十分災害だと思うが。
家族とは思えていない……か。
「ナイの威力が途中で急に強くなった気がしたが?」
「人から命を奪ったのよ、私達は消費する事でしか力が出ないもの」
「私だってお金があれば強いわよ!」
知ってはいたがチップスはどこまでいっても金なんだな……。




