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第十話「ラウンドトリップ・後半」


海石榴(つばき)が瓦礫を落とそうと天井を破壊し始める。

銃で援護も固い蝙蝠羽に守られて殆ど当たっていない。

チップスも追従するように防衛しにいくが。

俺から離れすぎる訳にもいかないのか。

遠くまでは移動しない。


天井に開いた穴には。

張り付けたような星空だけが広がっていた。


「なんだか、ちょっと疲れて来たわ」


チップスの動きが鈍い、怪我をしないだけで。

体力を消費し続けているんじゃないだろうか。

そうなると変身中の負傷はやせ我慢してただけの可能性もあるな。

魔法少女に妙に拘るチップスなら我慢もしそうだ。


「チップス! 何か手ごろな近接武器とバトルスーツを出してくれ」


明らかに不利なこの状況を打破するなら俺も戦力になるべきだろう。

この目出し帽では頭と首しか守られていない。

何か有用な防具があれば俺の安全も格段に上がる。

それに使い捨てじゃない所が良い。


「わかったわ綴も立派な魔法少女に」


「だめだ、それはだめだ」


予想していたが魔法少女にはなりたくない。


「戦士のほう?」


「服装は何だ?」


確認をしておかないと嫌な予感がする。


「ハイレグニーソ」


「却下だ」


何でそんな色物ばかりなんだ。


「つまり戦隊モノね! 4937円」


「チップス、それは待て」


「残金ハ17万ト5千3百7十8円デス」


静止も虚しく。

俺の体がピンク色に光りだした。

思わず確認する。

ピンク色のボディスーツにベルトが巻かれている。

アンが入ったパンを食べさせる奴か。

5人揃ってレンジャーでもしそうな服だ。

頭がおかしくなりそうだ。


人目が無くて本当に良かった客観的に正視に耐えない。

ピンク色、あんまりな状況に思わず口元は引き攣った。


「ファンシーシリーズの斧さん、1680円!」


「残金ハ17万ト3千6百9十8円デス」


リボンに飾られたピンク色の玩具の斧、不似合い過ぎる組み合わせ。

オーバーキルも良い所だ。


「あははははっはははは。

もういいや、わけわかんねぇよ、俺に何して欲しいんだよ?」


完璧に制御何て不可能だった知らなかったが。

俺は極限まで不安を感じると笑ってしまうらしい。


脚に力を込めるだけでホームのタイルが砕ける音がする。

腕力も増加していたのか重い物も軽々持ち上がった。

玩具みたいなプラスチック製の斧は鉄筋の柱すら一度で切断する威力だ。

この場には自称魔法少女とセーラー服少女と変な恰好の俺。

崩れた天上、瓦礫の上でゲームのように軽やかに動く体。


暴走電車が回る、無人のホームがどこまでも現実感を薄めていた。

もういいじゃないか、誰も見ていないなら躊躇う必要なんて。

どこにもないのだから、この場所なら何をしたってきっと誰も、わからない。


時間が来たのか電車が止まり、乗り込み口の扉が開いた。

まともに戦うには駅のホームはだめだ。

飛ばれると俺の攻撃は届かない、願わくば接近戦が好ましい。

戦意が喪失してない所を見るに。

俺達が電車に乗り込めば海石榴を車内へ誘えるだろう。


「あの機動力は厄介だ一旦、電車に乗るぞ」


「わかったわ」


隣の車両へと乗り込む海石榴が見える。

そして電車がまた走り始めた。


乗り込んで気が付いたが不自然だ。

何がかよくわからなかったが吊革を掴んで気が付いた。

この電車揺れが無い、よくできたハリボテのようだ。

あるべきものが無い事が逆に気持ち悪い。


「チップス、電車は揺れるものなんだ、なんで揺れないんだ?」


「そ、そうなの?」


俺がチップスに一声かけただけで俺が思う揺れ方で揺れ始めた。

このトランク、思考を読み取る能力でもあるのか。


「タイミングおかしいだろ」


「ちょっと揺れだすのが遅い電車なのね」


チップスは特に疑問を抱いていない。

よくわからないものをそのまま使う最早、悪癖だ。

これ相当怖い事なんじゃないか?


隣から同じ車両に入って来た海石榴は。

息苦しかったのか面を外した。

この様子、恐らく付けた意味は無いな。

海石榴は俺が持ってる斧とチップスを見比べた。


「どちらと戦えば良いのでしょうか?」


「勿論、私よ!」


チップスがトランクを当てて防御に回るが。

ダメージを与えている様子はない。

不意打ちになるがやるだけだ。


「悪いがどっちもだ」


俺はその斜め横から海石榴の体に斧を叩きこむ。

窓ガラスに写る絵面は最悪だ。


予想に反し一撃で海石榴はあっさり倒れた。


俺は海石榴の刀を奪う。

反射した刀身に映り込むピンク色。

目出し帽に全身タイツのボディースーツを着た俺と目があった。


「ピンク色の変態男にしか見えない……」


刀を両手で持って真っ二つに折る。

板チョコでも折り曲げるように大した手応えも無く簡単に折れた。

海石榴の衣服は部屋着のようなラフなものへと変わり。

その瞬間、キップの効果がなくなったのか元の場所に戻っている。

今の俺の恰好、冷静に考えなくても外を出歩けないんじゃないか?


「チップス、返品出来ないのか?」


「できないわ」


倒れ伏した部屋着にマスクを付けた少女。

その前に立つ斧の玩具を持った全身ピンクの男。

だめだ、終った、人生が完全に終わった。

俺が呆然としていると。

目の前の海石榴は起き上がり、何事も無かったかのように歩き去って行った。


「俺の元の服はどこだ?」


「それならトランクの中にあるわ」


チップスがトランクを開けると俺の普段着が入っていたが。

ここはスーパーの前だ、着替える余裕は無い。

知らない人が声をかけてきた、なんだ、何の用だ。


「何て名前で配信やってますか?」


「配信シテナイデス」


ネットで動画配信してる売れない芸人か何かだと思われている。

一刻も早く帰りたい、もしくはどこかで着替えたかった。


__


結局帰る度胸があるはずもなく、多目的トイレに入る。

服を渡す為と当然のようにチップスも入って来た。

出る時も違う意味で不安になるが今の恰好よりはマシだ。

入る時が一番の不審者だ、もうこれ以上酷い事も無いだろう。

服装を人並みに戻したい、チップスにも変身を解くように促す。

脱いだ服と武器をトランクに詰め込み帰宅する。

斧と服、使い捨てでは無いが街で使うには悲惨だ。

違うものが購入できるなら探すべきかもしれない。


家に帰ると疲れたのかチップスは床に転がった。


「大丈夫か?」


思ったよりも消耗していたのかも知れない。

不安になって声をかける。


珍しく神妙な顔で縋る様にチップスは言葉を紡いだ。


「ねぇ、綴、綴にね聞いて、欲しいの」


青い目がこちらをまっすぐに見つめてた。

何もかも見通すような意思の宿った強い目だ。

この目は苦手だ、逸らしたくなるのを我慢して。

その言葉を聞き入れた。


「私の神様の話を」


「宗教勧誘なら他所でやれ」


思わず否定した俺は悪くない。

ここで神なんて胡散臭い物を出すのは絶対に碌な事にならない。

幸福の壺かネックレスか、水道水。

もしかしたらチップスなら本当に奇跡も付随するかも知れないが。

神様なんて何を信じても金銭が発生する、俺の知る限り発生するはずだ。


「そこらの神様と一緒にしないで頂戴!」


意地になったのかチップスは声を張り上げる。

その発言はまずい、隣人は何を信仰してるのかわからないが。

日頃、夢見様がという言葉が聞こえてくれば色々と察するものがある。


「ばっ、ここ壁薄いんだ、大きな声を出すのはやめろ。

隣人さん割とガチ目の人なんだよ、神様の話はだめだ、な?」


「……わかったわ」


不貞腐れている、それもポーズではなくとてもわかりやすい。

俺にとって今までコイツの顔はまるで張り付けたアイコンだった。

無表情ではなかったが笑顔が基本で。

健気とか明るいも含まれるけど、どこかキャラクターを演じてるような。

胡散臭い不自然さがずっと垣間見えていたからだ。

チップスの顔が今この時、初めてアイコンじゃなくなっていた。


__


翌日、大学に向かう途中、電車にチップスと一緒に乗る。

昨日の話の神様が気になり移動中に、聞きたかったからだ。


「で、神様ってまた金の話か?」


「当り前じゃない、神様もお金の時代なのよ、お賽銭もお金でしょう?」


如何に金が万能なのかを語るチップスの声に俺の隣から異論があがった。


「お賽銭はお米であったと聞いておりますが」


いつの間にか隣に居た海石榴が会話に入って来た。

電車に海石榴は昨日の事を思い出させた。


「海石榴、何で居るんだ?」


「偶然近くに居りましたので」


「お米だってお金で買えるのよだからお金で良いのよ」


玩具に見えるとはいえ自棄になって人に斬りかかった。

あの感触は忘れられそうにない。


昨日はすぐ撤退してしまったから無事そうなら何よりだが。

他の奴らと違ってお金に賛同する様子が無い。

武器を壊すだけじゃダメなのか?


「あれから大丈夫だったか」


「身体に問題はありません、むしろ考えはすっきりしました」


「そうなのか」


「時間に追われ、時間に悲しむ事がなくなりましたから」


悲壮感は一切感じない、本人の言うように。

あまり気にしてはいないようだ。


俺達は隣の駅で降りたが海石榴は次の駅まで乗るらしい

深く会話せず、ここで別れる事になった。


講義室の前に辿り着く、ここでチップスとは別行動だ。


「竹林くん、おはよう、派手にやったのね、見ていて面白いわ」


嬉々とした逆好(さかずき)が近づいて来る、まさかと思い画面を見ると。

目出し帽、不審者の俺と魔法少女のチップス、スーパー前の写真だ。


心底嬉しそうだが純粋な恐怖を感じる。

ネットストーカーが増えたと真剣に考えるべきか。

待てよ、情報通の逆好なら『銀髪の天使』ナイを知ってるんじゃないか?


「逆好、お前はナイを知ってるのか?」


「ナイ、誰かしら、何人か居るわ、学内なら内藤さんね」


言葉が少なすぎた、知らない人を紹介されるのは困る。


「『銀髪の天使』って動画の少女だ」


「それなら知ってるわよ。

定期的に来るから撃退してるもの」


被害者の一人だったようだ。


「逆好が知ってる事が聞きたい、教えて貰っても良いか?」


どうせなら全て聞いてしまおう。


「そうね、私とデートしてくれるなら教えてあげても良いわよ」


「ああ、それなら、デート?」


出来なくも無いが何の得が。

いやデートプランなんて作れないな。

金だってかかる。


「その持ち合わせがあまりなくてだな」


「チップスを連れてる相手にお金なんて求めないわ。

私の買い物に付き合って頂戴」


「わかった、付き合うよ」


それならばと請け負う。

逆好のこの軽さは有難い時と。

不安になる時が両立している気がする。


「じゃあ来週、約束よ、あの二人は今はこの場所に居るわ」


二人組の子供がうろついて居れば目立つ訳で。

通り魔として人を襲う時以外は大概は居る場所があるらしい。

怪我をしたのならここで大人しくしてるだろうと逆好は指摘した。


スーパーの近くにある公園だ、珍しく遊具が無くベンチしかない為。

人が寄り付かないこの場所に身を寄せているらしい。

場所はわかった、後は探すだけだ。


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