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第九話「ラウンドトリップ・前半」


調べない訳にはいかないが日夜増えるニュースに。

精神状態は悪化している気がした。

それでもどこか慣れてしまった、麻痺した感覚もある。


チップスが出来ればアニメが見たいと俺のスマホを借りたがる事はあったが。

日曜日に恐怖を感じる日が来ると思わなかった。

恐らく逆好(さかずき)が居るからだと思うが大学が比較的、安全地帯だ。


夕方のスーパーで割引の総菜と俺の好きな生ハムを探す。

ついでに青くなりそうな組み合わせの食材を除外する。

当然のようについて来たチップスに買わせるのを阻止しなくては。

色移りするタイプも論外だ、どう見ても毒になった紫芋のシチュー。

あの悪夢を繰り返してはだめだ。


そしてスーパーの出口で声をかけてくる相手は全力で警戒したい。

今のこんな状況は御免願いたいのだ。


「お兄さん、僕の『家族』を知らないかい?」


少年にしては高い、少女にしては低い声。

正直どっちか判断がつかなかったが。

ワンピースのような緩い服をまとった恐らく少年だ。

ぴったりとしたズボンはスパッツだろうか。

背はチップスと同じくらいだ。

魔法使いのような木製の杖を持っている。


無視も出来ないが最近、俺に話しかけてくる奴は敵だ。

違った時が怖いから行動には移さないが。


「僕はノア、お兄さんのお名前は?」


「知らない人に教えてはいけないんだ」


しまった、断りたくて変な言葉を言ってしまった。

これを言うには立場が逆だ。


「僕達もう知り合いだよね?」


返答もアレだが関わりたくない、チップスも警戒している。

恐らく確定だろう。


「まあいいや、僕の『家族』は『命』が大切な子なんだ、こんな風にね!」


木彫りの鳩がトランクを構えるチップスの頭を素通りし俺の喉元へ突撃してきた。


(つづ)っ! 私シークレットブーツ履くべきかしら?」


「今、気にする、のはそこ、か?」


咳込みながらも返事を返す。

チップスを素通りは確かに思う所はあるがそれはやめろ。


チップスの後ろで屈んで頭を抱えるが。

今も木製の鳩は旋回しては的確に俺の頭を狙っていた。

トランクを横に振り回しチップスが必死に叩くが隙間から飛んで来ている。


「もう綴に直接、防具を付けた方が早いわ!」


「頼む」


「フェイスマスク! 2510円」


「残金ハ18万ト4百5十5円デス」


鏡を見てないから断言できないが着心地としては首まで届く目出し帽じゃないか。

布地の色もピンクに見える、これじゃあまるっきり不審者だ。

だが防具としては優れていた、頭部への鳩の攻撃が軽減されている。

待てよ、防具が出せるならバトルスーツを出して貰えば俺も戦えるんじゃないか?


そんな事を考えてる間に俺の背中に突撃してきた人物が居た。


『銀髪の天使』と呼称された通り魔ナイだ。

右羽は無くなり片腕からは血を流している。


「アナタ『命』、に対しての認識、軽いのね」


俺を見た瞬間悲しそうに、驚いたようにナイが呟く。

傷ついた少女が口にする感情の乗らない。

無機質で嘆くような品定めする言葉が、嫌に脳内に残った。


ナイが突撃してきた方向を見ると。

黒いポニーテール、黒いセーラー服に。

一点目立つ赤いリボンと白いマスク。

日本刀を携えた少女が居た。


「正々堂々勝負です、お久しぶりですねチップスさん」


「ツバキ!」


チップスにツバキと呼ばれた少女には真っ赤な血がべっとりとついている。

恐らくナイのものだが一見すると通り魔はこっちだ。

このまま乱戦になるかと思ったが。


「分が悪い、一旦逃げるよ」


「ノア、わかった」


ノアと名乗った少年と『銀髪の天使』ナイの二人は。

状況を確認すると戦いを止めて撤退した。

その間にツバキと呼ばれた少女が俺に近づいて来る。


「そちらのピンク色の目出し帽をつけた。

不審者さんはチップスさんのお知合いですか?」


「綴よ、私の資金源なのよ!」


どんな紹介の仕方だ。

そしてこの目出し帽、やっぱりピンクか。


「綴さん、私は冬野 海石榴(ふゆの つばき)と申します」


「綴のフルネームは竹林綴(たけばやし つづ)よ!」


チップス、俺より先にお前が名乗るな。


「さて、自己紹介も終わりましたし」


「敵の敵は味方と言いますが。

私はやっぱり敵だと思います。

いざ、尋常に勝負です」


海石榴は刀を構えた。

やっぱりコイツも新手の通り魔だったか。


「何で戦うんだ?

共闘は出来ないのか?」


チップスと知り合いなのは間違いないはずだ。

さっきまで『銀髪の天使』と戦っていたが。

誰でも良いから戦いたいという事か。

気になり聞いてみれば。

共闘という言葉に二人が反応した。


「それは無理ですね。

私達が他人の意見に賛同する事はあり得ません」


「そうね、無理よ、わかりあえる訳ないわ!」


海石榴、チップス、両者からきっぱりと断られる。

逆好の時もそうだが話はしても仲良くは無いのか?


「私達にとってそれは。

自分を否定する行為と何ら変わりません。

蔑ろにした先に待っているのは緩やかな死」


わかった、全員、最悪な程、我が強いんだな。

その価値観は喧嘩にしかならないのか。


「一時的な利害の一致はあれど。

実行する者は僅かです」


「それとは別に私用で今は消費したいです。

だからどうか『時間』の大切さを知って下さい」


海石榴の話が終ると同時にチップスが杖を持っていた。


「メイ? メイ! すていたす☆あっぷ・インプルーブ!」


変身が始まったがこの時間、本当は要らないんだよな?

命の危機にチップスは悠長過ぎる。


「チップス、それ、しなくても良いよな?」


「キトゥリルキトゥリルデミリタリス。

プリティ、メルティ、ギャランティ!」


見慣れているのか海石榴も止める様子が無い。

意地でも変身するつもりのようだ。

チップスは定位置と決めているのか。

俺の前でお決まりの言葉を言った。


「世界で最もチャームで不可思議な。

魔法少女チップスちゃんのお時間よ!」


台詞中に海石榴は黒い狐面を取り出し被っている。

全員ちょっと合わせようと空気を読むのは何なんだ。


終った事を確認してから海石榴が動く。

海石榴の足元には彼岸花が咲き乱れる。


「この停滞した世界で抗ってください、存分に」


その瞬間、海石榴の位置はチップスの真横に移動した。

変身の為だけに使う杖が切り捨てられる。


瞬間移動だ。


チップスのトランクが弾くが左右から刀での猛撃。

背後からの攻撃だけは無いが。

海石榴の気持ち次第で、出来そうだ。

斬り傷は見当たらない、痛みも訴えないが。

恐らくチップスはもう数か所は斬られている。


「気を付けて、綴、ツバキは私達との。

今、相対してる『時間』を代償にしてる。

多分、普通に歩いて接近してるはずだわ。

結果が瞬間移動に見えても。

それは過程の副産物に過ぎない。

願いは別にあるはずよ」


時間、そりゃ大切だと俺も思うが。


「つまり相対している限り瞬間移動し放題って事か?」


「そういうこと!

勿論例外はあるけど。

『時間』の価値を多く見積もっているから。

例えチョコひとつ捻出する願いと引き換えだって。

歩いた『時間』をツバキは好きに飛ばせるのよ」


「強すぎないか?」


普通にチートキャラじゃないか。

全部に金のかかるチップスと違う万能タイプ。

能力の偏りが酷い。


「『時間』の概念を買えば良いのよ」


「どうやって」


「わかんないわ!」


答えだけを簡単に言ってくれる。


「お前のとんでもトランクで。

ゲームみたいに時間停止する品とか買えないのか」


「そんなもの無いわ、現実的に考えて!」


「非現実の塊みたいな奴が何言うんだ。

瞬間移動を繰り返す相手にどうしろと……」


いや、待てよ、時間を買う。

求人広告が頭を過ぎる。

拘束時間、時給を支払うとかそういう奴、少し、違うな。


「どっかの公共施設か、何かの利用券はどうだ?

交通手段なら移動時間を短縮とか、時間を買うとか言うだろう?」


言葉遊びのようなものだがチップスなら現実にできるかもしれない。


「そんな使い方したことないから、わかんない。

でも、試す価値はあるかも。

最寄りの移動手段なら電車かしら?

キップ購入で移動時間を短縮してみるわ!

購入は、えーと、乗り継ぎ、指定席?

ああ、もう、候補が多すぎる!」


定期的に候補が多いと嘆くがどういうシステムなんだ?


「何でも良い一番安いキップにしろ。

ダメなら変えが効く」


「一番安い……わかったわ! 140円!」


「残金ハ18万ト3百十5円デス」


トランクから無機質な機械音声が金銭の消費を告げると。

チップスの手にはキップが現れる。


キップが鍵だったのか電車に乗る時間を無事に買えたと認めるには十分な。

少々非現実的な光景が目の前に広がった。


円形のレール、狂ったように連続して向かい合わせに設置された駅のホーム。

コピーペーストにしても、ここまで雑な配置は無い。

無造作に回り続ける電車。

高速で走り続け、止まる気配は無かった。


チップスの脳内はどうなっているのか問い正したいが時間が惜しい。


「『時間』を購入ですか……。

厄介ではありますが同条件になっただけです、私は止まれませんよ」


見慣れた場所が見知らぬ駅になっても。

海石榴が刀を振るう手を緩める事は無かったが。

瞬間移動を封じられたようだ。


海石榴はチップスに問いかける。


「価値観は人それぞれと言いますが。

お金が何より大切というお考えには反対致します。

人は『時間』が一番大切であり、お金は引換券に他なりません。

で、あれば、重要度は『時間』の方が上です」


「お『金』で時間は買えるのよ、ツバキ。

買う事が出来るならお『金』が大切に決まってるわ。

交換が成り立つ限りその価値は等価。

それなら柔軟性が効くお『金』の方が上よ」


「平行線のようですね」


返答を聞いて少し悲しそうに。

でもどこか安心したように海石榴は再度、宣言した。


「持ちうる全てを使って戦いましょう、時は金なり。

今は話す『時間』も惜しいのですから」


海石榴の背中に黒い蝙蝠羽が生えたと同時に飛行する。

駅であれば本来なら在り得ない程、高い天井。

その天井付近まで上昇した。


「どうにかできないのか?」


「ちょっとまって、今、考えてるの!」


「チップス!」


「大丈夫!

2分待ってれば電車が来るわ、多分」


――「次は左嵯峨山(ひだりさがやま)左嵯峨山(ひだりさがやま)甘梅線(あまうめせん)はお乗り換えです」


――「甘梅線(あまうめせん)で人身事故が大量発生した為、運行を見合わせております」


「何か地名、違くないか?

この駅のホーム、アナウンスも言葉がめちゃくちゃだ、デタラメじゃないか」


「し、仕方ないでしょ、私電車乗った事無いんだから。

このキップも、私達の『時間』を短縮って言うから。

それが影響したのよ、多分」


――「次、急行止まります、黄色い白線より下がった電車が参ります」


「そんなのあってたまるかぁ!」


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