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 僕とルカは先を行く二人に別れを告げて、儀式が行われるのとは別の川に向かった。其処は儀式が行われる川より流れが緩やかで水深も浅く、少し濁った水が緩やかに流れて、東の方で儀式が行われる川に合流する。穏やかな川で特別な伝説も出来事も無い川だったから、村の人間達には人気が無かった。

 僕とルカは川のほとりに着くと、周囲を見回して誰も居ない事を確認した。丁度昼過ぎの日差しが最も強くなる時間帯で、周囲は様々な鳥たちの声が響き、生い茂った木々の葉の間からは鋭い日差しが差し込んでいた。

「ここでするの?」

 僕はもう一度ルカに問い合わせた。ルカは無言で決意を決めるように頷いた。

「私も裸になるから、コウも裸になってよ」

 僕も覚悟を決めるように頷いた。ここまで来てしまっては後に引けない。僕はもう十二歳で、性器には若草のような毛が生え始めて人前に見せるのが恥ずかしかったが、ルカが生まれたままの姿を見せるのならば恥ずかしさは自然と消えた。

 ルカよりも早く服を脱ぎ終えると、彼女は露わになった僕の裸を見た。彼女の視線が僕の素肌と男になろうとしている性器に注がれているのが分かった。

「なんか、大人になろうとしているんだね」

 僕の肉体を眺めながらルカは小さく感想を漏らした。

「まあ、いつまでも子どもでいたいけれど、現実は違うから」

 動揺を押し殺すようにして僕が答えると、ルカも服を脱ぎ終えた。ルカの身体は服を来ていても判るように各部が丸みを帯びたふっくらした体つきで、男との僕とは事なり直線的な部分が少なかった。乳房は大きく少しだけ下垂しており、先端部は春に咲く花のような色をしている。肉付きの豊かな腹から太ももの肌は滑らかで、股の間には僕と同じように若い茂みがあった。初めて目する女の肉体を目の前にして、僕は言葉が出なかった。

「なにか変?」

 ルカは探るように僕に質問した。

「いいや、そんな事ないよ」

 僕は慌てて否定した。すると次第に自分の中にあった悪寒のような感覚が次第に和らいで、心が落ち着きを取り戻すような気分になる。僕は一旦ルカの目を見てお互いに大丈夫だよという意思疎通を取って、ルカの肉体を改めて見る。ルカの乳房は胸元の間が少し開いていて、春に咲く花の色をした先端部にはめしべのような乳頭があった。

「おっぱい、やっぱり目立つ?」

 不安そうにルカが呟く。

「いや、変じゃないよ」

「そう」

 僕の言葉にルカは小さく頷いた。

「このおっぱいで、子どもを抱きしめて育てるんじゃないか」

 僕が言うとルカは照れくさそうに微笑んで「ありがとう」と漏らした。

「触ってみる?」

「いいの?」

「いいよ。コウが優しい事を言ってくれたから」

 ルカが提案したので、僕は手を伸ばしてルカの豊かな乳房に触れた。その質感は今まで指先に触れたどんな物よりも柔らかく、清らかな感じがした。この乳房に包まれ、ルカから愛情を貰える存在はどれだけ幸せな存在なのだろうか。先端部まで指を伸ばしてその感触を確かめてみたい気分になったが、そこまでの勇気は無かった。

「コウの手、固くてあったかい」

 ルカは触れた僕の指先にそんな感想を漏らした。自分の敏感な部分に他人の手を触れらせるのは初めてないのだろう。僕は予想外の返答に少し戸惑った。

「自分の手をあったかいと言われたのは初めてだよ」

 僕は小さく答えた。それと同時に自分の男になり始めた性器が熱を帯び、ルカを求めている事に気付いた。

「きっと、働き者になる人の手だよ」

「男は働いて女は育てるのか。確かにそうだね」

 僕は照れ笑いを漏らしながら答えた。

 その後とルカは、お互いの手を取り合いながら川に入った。本番のトロワニの儀式は夜、焚火で明かりを焚いてここよりも流れが速い川で行い、身体にも動物の油と赤い土を混ぜた顔料を塗るから、厳密には同じとは言えなかったが、要領は何となく理解できた気がした。

「本番も、こんな感じなのかな」

 僕は腰よりも少し深い所で冷たい川の流れを肌で感じながら漏らした。

「判らない。でも緊張しなくて済むと思うよ」

 ルカが答えた。彼女の声は少し強張っていたが、それは緊張から来るものではなく、川の冷たさによるものらしかった。

 自分達だけのトロワニの儀式のようなものを終えると、僕たちは岸に向かった。お互いの手を握ったまま岸に上がろうとすると、ルカはバランスを崩して倒れてしまい、僕も引っ張られるようにして倒れてしまった。僕はルカに覆いかぶさるように倒れ込み、自分の腕と性器が彼女の乳房に触れた。もし僕はより強い男としての自覚を持っていたなら、ルカに口づけをして彼女と肌を重ねようとしたかもしない。でもそれは行わずに、僕とルカは横たわったままだった。

「コウの手、まだあったかい」

 ルカが漏らした。さっきから彼女の手を握っていた事を思い出して、反射的に彼女の乳房を見た。冷たい川の水に触れたせいで、先程よりも血の気が引いているような感じがした。ルカは僕の視線が自分の乳房に注がれている事に気付くと、握っていた僕の手を引き寄せて乳房に触れさせた。乳房の表面は冷たく濡れていて、掌の熱が奪われる奇妙な心地良さがあった。

「コウの掌は温かいね。優しくて働き者になる掌だよ」

 ルカの誉め言葉に僕は身体の芯が熱を持つのを感じた。

「ルカの胸だって、抱きしめて育てる為のものだよ。忘れないで」

 ルカは僕の言葉に微笑んだ。それをみると、これ以上ルカに触れたいという気持ちが沸き上がらなかった。肌を重ねてお互いの性器を結合させるよりも深く優しい部分で、彼女との関係が持てたような気がしたのだ。

この後どうしようかとお互いの目を合わせると、ルカは僕の方に身体をよせて、額を合わせてこう言った。

「この出来事は二人だけの秘密にしようね。私達だけのトロワニの儀式」

「うん。そうしよう」

 僕は同じように答えた。僕たちのトロワニの儀式はそこで終わった。

服を着て二人で村に戻ると、村の住人や友人達は僕とルカの事を訝しい目で見るような事はせず、依然と同じ様に接してくれた。僕とルカはある意味一線を越えた関係になっていたのだが、周囲が普通に接していたので、僕たちも普通に接した。トロワニの儀式の当日なれば、ルカの乳房をもう一度見る事が出来る。その時は堂々としていようという奇妙な楽しみを僕は抱きながら、儀式の当日を待った。


 そしてトロワニの儀式当日。僕たち十二歳の若者たちは村の年長者に連れられて、儀式が行われる川に向かった。川に着くと、日が沈む前にかがり火を焚いて明かりを確保した。僕たちは服を脱いで、お互いの素肌に獣の脂と赤い土を混ぜて作った顔料を身体に塗った。友人や他の人間は少し戸惑っている様子だったが、一足先に自分達の儀式を済ませた僕とルカは戸惑う事は少なかった。

 一通りの準備が整うと、僕は同じように儀式に臨むルカの事を見た。ルカの身体は顔料を身体に塗った以外、一週間前と同じ姿でそこにあった。僕の視線に気づくと、ルカは僕の事を見つけて小さく微笑んでくれた。この儀式が終れば僕とルカは一人前の男と女として社会的に認められる。そしてルカとの関係が続けば、僕は一人前の男としてルカの事を愛して、褒められた掌を使って、彼女を支え優しい働き者になれるだろうかと考えた。

そして儀式本番、僕たちは闇に染まった川に浸かった。一週間前に僕とルカが浸かった川より流れが早く、視界も悪いために中々前まで進めない。みんなで手を取り合って声を掛け合いながら一歩一歩進み、かがり火の明かりを頼りにして腰のあたりまで浸かると、掛け声で一斉に肩まで水に浸かった。

 体中に冷たい水の流れが伝わり、耐えるので精いっぱいになる。全員が浸かったのを確認すると、僕たちは先祖代々伝わる、神々に一人前になった証の掛け声を叫んだ。そして叫び終わると、すぐに立ち上がって川岸に戻った。冷たい水の流れから解放されたという喜びが羞恥心を上回って、大勢がすぐさますぐさま用意された大きな焚火の元に向かった。僕もその焚火の元に向かったが、身体が予想したより冷えてしまって、うまく歩けなかった。その焚火に向かう人間の中に、ルカの後ろ姿を見つけた。ルカは女友達と親しげに会話したあと、無言で焚火に向かおうとした。

「ルカ!」

 僕は彼女の名前を呼んだ。するとルカは僕の方に振り返った。

「終わったね。どうだった?」

「どうだったって言うか、ただ単に冷たい川の水に耐えるだけだから拍子抜けしちゃった」

 その感想については僕もルカと同意見だった。僕は安心してほっと溜息をもらして、かがり火と焚火の明るさに照らされたルカの肉体を見た。その肉体は初めて見た時よりも陰の部分が深く、輝きよりも造形が視覚的印象として強く残った。ルカもその事を意識したのか、何も身に付けずに生まれたままの姿の僕の肉体を見た。そしてお互いに視線を上げて目と目で見つめ合うと、ルカがこう漏らした。

「これで私達、一人前だね」

「うん。一人前だね」

 僕は自信と言葉の無い決意を噛み締めて答えたが、それがルカと交わした最後の言葉になった。


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