( 3 )
「よかったら、ふたりでお話しましょう?」
「 … はい 」
たくさんの人に。
心ない言葉で、傷つけられて。
幾重にもつけられた、心の傷口から何か ー
「大切だったもの」がボロボロと、零れ落ちて。
辛くて、悲しくて、苦しくて。
それでも。
誰かの助けはない、から。
ひとりで。
戦い続けるしか、なくて。
もう誰とも関わりたくない。
話したくない。 放っておいてほしい。
傷つきたく、ない。
…… そう思って。 この場所に逃げてきた。
けれど。
この人、は大丈夫。
この女の子は絶対に私を傷つけない。
不思議とそう感じたから。
私は女の子とお話してみること、を選んだ。
はじめは、初対面というのもあり、
少しぎこちなかったけれど。
女の子とお話をしている時間は、
とても楽しかった。
春の陽だまりの中にいるような…
ほのぼのとした優しい時間だった。
初対面なのに。
会ったことがないはず、なのに。
女の子の隣はなぜか居心地が良くて。
穏やかな気持ちになれた。
趣味のこと。好きなことや、もの。
たくさんのことを話した。
初対面の人にここまで心を許すのは
初めてのこと、だった。
女の子の提案で、私達はお互いのことをname.で
呼びあうことにした。
女の子は、「ルナ」。
私は少し考えて涙、という意味の「ティア」と
名乗った。
眼差し、仕草、表情 ……
そのすべてが、綺麗で。
美しい微笑みを浮かべるルナは、まるで
物語の中の姫君のようだった。
でも、話の途中。
時折みせる、寂し気な表情。
儚げで、どこかへと消えてしまいそうな……
その表情の理由が気になった。
その表情だけが、…… のようで。
しばらく話していて思った。
ルナの微笑みは美しい、けれど。
「 違う 」 と。
美しい微笑みはルナの本当の表情じゃない。
これは、自分を偽っている人の表情だ。
そして、これはルナの優しさと弱さで
作られたものだ、と。
綺麗すぎる笑顔……
心当たりがあった。
本当の表情を隠す理由、に。
ルナが美しく微笑み続ける理由、に。
気がついた。
ルナの今の本当の表情に。
失くしてしまったもの、に。
だって。
私もそう、だから。
同じだから。
踏みこんで、いいのかな…
そう思いながらも、
どうして?
と、ルナにさりげなく
name.を提案した理由を聞いてみた。
なんとなく … だけれど。
ルナには、そうしたい、そうしなければならない
「 理由 」があるような気がしたから。
そして。
それは、ルナの本当に繋がっている
と思ったから。
私はルナのこんにちはと
笑顔に救われて。
優しい気持ちになれたような気が、したから。
なにげない、ひとこと。
それだけだったのかもしれないけれど。
暗闇の中でみつけた「光」は、灰色の世界を
優しく照らしてくれたから。
だから。
ルナのそれも聞いてあげたいと思った。
今度は、私が微笑みかける番……