( 2 )
「 こんにちは 」
誰かに声、をかけられた。
綺麗な、声。
心に響く優しい声。
春の陽のように暖かい、人を幸せにする声だった。
そこには、 私と同い年くらいの女の子が立っていた。
淡雪のように白く透き通った、滑らかな肌。
ふわふわと波打つ、長い栗色の髪は陽に透けて、
煌めいていた。
長いまつげに縁取られた大きな瞳は、宝石のようで。
美しく、澄んでいた。
一瞬にして、 目を奪われた。
どうしようもなく、 心を惹きつけられた。
目の前に立っていたのは、
この世の言葉では、言い表せないほどに
美しい女の子だった。
どこか儚げで、幻想的な雰囲気を持つ、
そんな、目の離せない人だった。
目が合うと、女の子は私に向かって
にこりと微笑んだ。
美しすぎる、微笑みだった。
はっ、とした。
見えなくなったはずの「色」が。
女の子にだけは、確かについていたから。
期待するのを、やめて。
すべてが、どうでもよくなって。
灰色になった私の世界に。
ただ、ひとり。
女の子にだけは「色」があった。
それが、何故かは分からなかったけれど。
淡い色。 優しい色。 綺麗な色 ……
女の子がまとう色は、すべて美しかった。
中でも目をひくのが。
女の子を取り巻く 桜色、だった。
「 こんにちは 」
と、返した声は緊張で震え
消え入りそうなほど、小さな声になってしまった。
初対面、というのと。
たぶん、私は声を出すのが怖かったのだと思う。
「皆」に悪口をいわれるようになった理由。
そのひとつがこの声だったから。
女の子はもう一度、私へ向かってにこり、と微笑んだ。
すべてを優しくつつみこむ、
聖女のような笑顔だった。
私のために向けられた、その笑顔は。
女の子の優しさと暖かさがつまった、
美しい笑顔だった。
大丈夫、
そう言われているようで。
無意識の内に入っていた、全身の力が抜けていった。
凍てついた心が、少しとかされたような ……
そんな気がした。
誰かの優しさにふれるのは、あの時以来で。
それは、久しぶりの感覚、だった。