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桜の木の下で、貴女と。  作者: 麗菜
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2017.4.17


 暖かな春の日の、午後。 

 学校帰り。

 

 本を、読んでいた。

 ひとりで、ひっそりと。

 お気に入りの場所……

 美しいけれど

 どこか切なくて、寂しい


 ー 枝垂れ桜の木の下で。   


「 親友 」にさえも裏切られた、という

 どこまでも残酷な現実から目を背けるために。

 

 物語の世界に逃げ込んで、

 今だけは、全てを忘れるために。



 「 泣かないお人形 」ー

 そう呼ばれる私、だけれど。

 

  心、が無いわけじゃない。

 


 親友、だと思っていた幼なじみ……

 大切だった人が私の悪い噂を捏造して、

 流しているところ。

 そんな裏切り現場、ともいえる場面に

 居合わせてしまって。

 

 それでもまだ現実を見続けられるほど

 強くは、ない。

 


 …… ()()大切だったものを忘れてしまう前に。

   大切なものを誰かに壊されてしまう前に。

 



 帰宅後、すぐに図書館へと走った。

 

 現実逃避の本を求めて。

 

 そうしないと…

 

 自分の中の、「何か」が。

 ガラス細工のように、脆くて、弱い部分が

 壊れてしまいそうな……

 そんな気が、したから。

 

 でも、大好きな本なのに全く集中ができなかった。


 今日の出来事、が。 

 「皆」の悪意にまみれた声が。 

 言葉が。 酷い扱いが。

 

 しみついて、こびりついて、心を蝕んで。

 どうしても、離れてくれない。

  

  ー 消えてくれなかった。


 目を背けて、逃げ込むどころか。

 先程から、頭の中はそのことばかりで ……

 

一ページも、読むことができていなかった。

 

 足元にそっと本を置き、

 ただなんとなく空を見上げる。

 

 今日は晴れ。 

 澄み渡った、綺麗な青空のはずだったけれど。

 私の瞳にはどこまでも灰色、に映った。


 「色」が、ない。

 あの場面に居合わせる前までは

 それなりに青かった、はずなのに。



 

 疲れた ……

そう、すべてに疲れてしまった。

 

 まわりの空気をよんで。

 にこにこ、ふわふわ。

 「皆」が求める自分を演じ続けることに。

 


 私を大切にしてくれた「皆」は、

 もうとっくの前にいなくなっていた。

 

 いない。 いない。 いない…… 

 そう。 誰も、いないの。

 

 わかっていたはず、だった。

 あの時から、ずっと。


 それでも、

 まだ、私はどこかで期待していた

 のかもしれない。


 もう一度、と。


 だから。

 何も言わないで、何も聞かないで。

 ただ、待っていたのだと思う。


  ー 誰かの、声を。

 

 

 気がついたら、我慢するのが当たり前になっていて

 

 気づいたら、いろいろと麻痺していた。

 

 気がついたら、泣き方を忘れていて

 

 気づいたら、人に頼れなくなっていた。

 

 気づいたら、気づいたら、気づいたら、、、、、、

 そんなことが重なって。

 

 取り繕って、隠して。 自分さえをも、騙して。

 

 自分の 「 本当 」 が、わからなくなっていた。

 

 最後の「 本当 」だったものも。

 今日、失くしてしまって。

 全てがもう、どうでもよくなってしまった。

 



 それでも、何かを求めることを

 私は諦めらきれないらしくて。

 

 本の世界にそれ、を求めた。

 


 でも、見つからなくて。

 何を求めていたのかさえ、わからなくなって。


 

 ひどく色褪せた世界に、ひとり。

 

 先程までは、文字を追いかけていた瞳は

 何かを映すことなく、宙を彷徨った。


 

  ただ、時間だけが …… 。


      


 


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