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新発見ダンジョン調査

作者: まい

 登場する(なま)りを持つ人物のそれは、なんちゃって(テキトー)訛りです。 実在していないと思いますので、ご注意を。


 このギルド員は、冒険者より冒険させられてね?

「ここか」


 冴えない見た目でひとり静かに(つぶや)く彼は現在、人里(ひとざと)離れたとある森の中に来ていた。



 彼は少し前まで、一流の冒険者チームで一流の斥候(せっこう)として活躍していた。

 それがチームの解散を機に、冒険者ギルドの職員となった。


 そして現在ではその経歴から、不確(ふたし)かな情報を確かな情報にする役割を(にな)っている。


 ……なんだか現役の時代より大変な仕事をやらされているかも知れないが、仕事は仕事だ。

 ギルドの仕事として、やるしかない。


 と言う訳で、出発前に聞いていた地点にたどり着いた。



 ダンジョンと思われる場所へ向かって一歩踏み出したその瞬間、人類が吸うと体内で魔力(まりょく)へ変わる魔素(まそ)濃密(のうみつ)に存在している事を感じとる。


「この魔素の濃さは間違いなく、ダンジョンだな」


 彼が言われているのは、本当にダンジョンかどうかの確認。


 この世界のダンジョンとは、魔素があふれ、内部で魔素をエサとする危険な魔物が(ひし)めき、内部からこの世界ではまず作れない金品が(まれ)に見つかる。

 一攫千金(いっかくせんきん)を狙う冒険者が(いど)む、命がけの戦場だ。


「できたてなら()ぐ攻略出来るが、果たしてどうだろうな?」


 そしてダンジョンだったなら、その難易度の判定。


 調査を兼ねた挑戦は、ひとまず1日。


 それで攻略できるなら攻略してしまうし、出来なくても難易度判定に必要な材料は(そろ)うだろう。


 止めていた彼の足が、再び動き出す。



~~~~~~



「なんだ、ここは…………」


 溢れている濃い魔素はそのままに、ダンジョンへ踏み入れた特有の不思議な感覚を通り過ぎた彼だが、その内部に驚いている。


 ダンジョン内部は別の世界だと通説がある通り、内部なのに青空が広がっていたりするのは別に良い。 そんなのダンジョンでは良くある事だ。

 平原になっている。 それもまた良くある事だ。

 無限に広がっている様に見える平原には見えない(かべ)があり、そこから先へ行けそうにない領域(りょういき)が有ると感覚が告げてくれるのも、良くある事だ。

 遠くを見ると森が広がっていたり、さらに遠い所に山があるのも、良くある事だ。



 では何に彼が驚いているのか?


「ダンジョン内部に、大きな村だと……?」


 踏み固められた道の先に、何十軒もの家が乱雑(らんざつ)に建ち並ぶ、村があったのだ。


 ダンジョンの外に街が出来上がるのは、よくある。

 ダンジョンへ挑む前の最後の買い物や休憩(きゅうけい)、ダンジョンから出る金品を冒険者から買い取るべく、商人達が集まってそこから発展する街が。


 だがここは外ではなく、内部だ。


 内部はいつダンジョンの魔物に(おそ)われるか分からないので、大変に危険なのだ。


 建物があるとしても廃墟(はいきょ)遺跡(いせき)(かたど)ったダンジョンならたまに有るが、遠目からみるだけで住めると判断できる家が建ち並ぶダンジョンは、まず聞かない。


「このダンジョンは、どうなっている」


 いきなり食らったダンジョンからの非常識パンチにより、思考停止してしまう。





「…………いや、とにかく行動をしよう」


 思考停止からなんとか立ち直った彼は、村の探索を始めた。



~~~~~~



 村は静まり返っていた。


 家の中に気配があり、ヒトが居るのは分かる。 分かるのだが、誰も出てこないので接触できない。


 どの家でも戸を叩いて(おとな)いの声をあげても、対応してくれる様子がない。


「………………仕方がない。 奥へ行こう」


 村の謎に答えてくれる者がいないと察し、それについて知りたい未練をなんとか切り捨て、歩みを進める。


 本来なら村の住民に許可をもらってから歩き回りたかったのだが、そもそも話してくれさえしないのだ。


 罪悪感はあるが、無断で行動するしかない。


「村の奥の畑で一人だけ、仕事をしているヒトを見かけたからな。 話を聞ければいいが」


 まずはそのヒトに村へ勝手に入った事から謝るべきか……そう話しかける言葉に悩みながら、畑へ向かう。


 畑で育つ野菜はダンジョン特有の種類だろうか? 見ないものばかりで興味深く観察しながら。




「すみません。 お話、良いですか?」


 畑へたどり着いた彼は、そこにいた(かま)を手に持つ如何(いか)にも農民(ぜん)とした老人(おじいちゃん)と接触を(こころ)みた。


()? あなた(おめ)何者(なん)ですか(だべ)?」


 言葉が通じて返事をしてくれたのは良いが、その声は(ひど)(なま)っていた。


 その訛りっぷりに驚くも、なんとか平静を取り戻し、村の中を勝手に歩き回った事を謝ってから用を話す。


(わたし)はリバウスと言います。 ここがダンジョンではないかと街から来ました」


 一拍(いっぱく)。 おじいちゃんが不審者(ふしんしゃ)を見るようにリバウスを(にら)みつけるが、直後にパッとヒト(なつ)っこい笑顔に変わる。


「おお! それは大変だ(エラか)ったですね(べな)。 (オラ)はソーマと言う(っちゅー)者です(モンだべ)

 それと(そいで)ここ()ダンジョンで間違(まぁぢが)ない(ねー)ですよ(べよ)!」


 ソーマ。 その名はここ30年で多く使われる様になった男の名前である。


 理由は不明だが失踪(しっそう)した、大英雄(えいゆう)の大剣聖の名前だ。


 それを50や60歳に行っていそうなおじいちゃんがしている事に疑問を持ったが、別にその頃に無かった名前ではないので、リバウスは疑問を投げ捨てる。


「ソーマさんですか。 それで危険なダンジョンに、どうやれば住めるんですか?」


「あー……それはね(なぁ)


 ソーマが少し言いにくそうにしたが、リバウスが少し強く求めたら、渋々(しぶしぶ)ながら答えてくれた。



 それを簡単にまとめると、


 ダンジョン最初の住民は、失意と絶望で一杯になった男。

 死に場所を探していたら、このダンジョンへ30年ほど前にたどり着いたらしい。

 ダンジョンなら簡単に死ねるだろう。 そう思って身を投げ出して寝転がったが、魔物は男をまったく殺そうとしない。


 それを怪しく思っていたら、魔物を通して正体不明の声が聞こえた。


《ダンジョンは命をかける場であって、命を捨てに来るところではない。 居場所がないなら、その場所“だけ”を安全地帯にするから、暮らしても構わない》


 それからその言葉通りに漫然(まんぜん)と暮らしていたら、似た境遇のヒトが少しずつ増えて気が付けば100人の村に。


 そいつらと一緒にいたら、自然と失意や絶望は薄くなっていた。



「似()連中がこ()からも来()子供(ガキ)()作っ(こさえ)()、そ()子供(ガキ)が村()イヤって言って(ちゅーて)出ていく()。 こ()(オラ)()村さ」


 語りきったソーマの顔は、さっぱりしていた。


「ソーマさん、有難うございます。 それで……向こうの森や山がどうなっているか、分かりますか?」


 ダンジョン村の成り立ちは分かった。


 しかもここが謎の声通りに、安全地帯になっているのはソーマを見れば分かる。 なにせ、このおじいちゃんが油断しきっているから。

 完全に安全な場所だと、その様子が雄弁(ゆうべん)に語っているのだ。


 ならば後知りたいのは、畑より向こう……ダンジョンの奥の状況だ。


 それについてはソーマが、ゆるゆると横に首を振る。


「ある()(オラ)(たぢ)が生()()必要な(いる)薬草(くさ)()()採れる森と山(トコ)と、(にぐ)の狩場だけです(だべ)


「……そうですか」


 リバウス、ちょっとガッカリである。


 リバウスとて少し前までダンジョンに夢を見て潜り続けた、冒険者だったのだ。


 なのに、その夢が無いダンジョンなんて、ダンジョンとしての価値が無くなったも同然なのだ。


 ここに長く住んでいそうな地元民(ヒト)からそう言われたら、信憑性(しんぴょうせい)は高いだろう。


 そりゃあガッカリするのも当然。




 そして知りたい情報を得て、ダンジョンを攻略してしまう事は村の迷惑になってしまうだろうから、攻略も無し。


 村の家の中の気配は、まだ動き出しそうにない。


 ならば、ここにいる理由はもう無い。



「……分かりました。 お話有難うございました。 私はこれで帰りますね」


 ソーマへ頭を下げた。


 すると、

「これ、持っていけ(ぎぃ)。 村()野菜と(にぐ)です(だべ)


 どこから出したのか分からないが受け取って背負(せお)えば、腰から首の付け根位までの大きさの背負(しょ)(かご)一杯に詰め込まれた肉と野菜を、リバウスへ差し出していた。



~~~~~~



 ギルドへ帰ってお土産を1ヶ月(かげつ)かけて調べると、幻の農作物や幻の肉ばかり。


 農作物や肉に関係する逸話で見つけた資料通りならば“放浪の修練村”と呼ばれる、各地で発見されては姿を消す伝説の土地の物だった。


 さらに調べれば、あのソーマは行方不明の大剣聖だし、村が嫌で飛び出した若者は、各地で華々しい偉業を残している。

 その偉業持ちの若者の何割かが「世界に夢を見て故郷の村から出てきたが、弱いのばかりしか居なくてつまらない」と同じ証言をするので、そいつらの出身地であると見られている。



 後日また、あのダンジョンが本当に“放浪の修練村”かどうかを確かめにリバウスは出掛けるが、あったはずの入り口が無くなっていた。

蛇足


リバウス


 リバ(ーマ)ウス。 (リバー)(マウス)。 探検t……げふんごふん。



ソーマ


 ソー(ズ)()マ(ン)()。 過去の大剣聖。

 武力は凄いが、謀略と政治に巻き込まれた不運の人。

 ダンジョン村最初の住民。

 今は自分の居場所として、ダンジョン村の生活に満足している。


 外から知らぬ気配を持つ者が来た(さい)には、第一村人として村に害を持ってくるヤツかどうかを見極める役を、いつの間にか流れで任されている。


 見極めが終わるまで他の村人は、それぞれの家に隠れ潜んでいる。


 ひどい訛りは、来訪者を油断させる為にわざと使っていて、うまく訛らせる為に必死に練習したとかしないとか。



謎の声


 ダンジョンマスター。

 クッソ強い大剣聖がダンジョン内に滞在し続けているだけで、ダンジョン運営に必要なエネルギーがガンガンたまってウッハウハ。


 貯まったエネルギーでダンジョンの入り口を、気まぐれにランダムで転移させる。

 転移先の条件指定で人里離れた地表としているので、海の中とか石の中とか空中とか、そんなヤベー所には転移しないので安心。



ダンジョン村


 住民の多くが悲しい過去持ちで、みんな優しい。

 そして物理的な物でも魔法的なモノでも、能力は超一流ぞろい。


 何かの拍子に立ち寄った奴が、ここで生活している内に恐ろしく強くなり、出ていくと英雄(たん)がひとつ始まるのに等しい。



ダンジョン村の奥の狩場


 狩場とは言っているが、その獲物(えもの)は恐ろしく強い。 冒険者ギルドの最上級ランクの冒険者でなんとか戦える位。

 大剣聖達から得たエネルギーで産み出したヤベー魔物なので。

 それらを狩れて初めて、この村では一人前として扱われる。



村の薬草や鉄


 もちろんこれらも伝説とか幻とか言われる逸品ぞろい。

 それを普通の物(自然の恵み)として見ている住民達よ(遠い目)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一村人発見、からの強烈な訛りでまずひと笑い。 今はそこまで訛りがひどい地域も少なくなったようですが、昔は受話器越しだとまったく聞き取れないなんてこともザラでした(面と向かえばそこそこ分か…
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