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Savage  作者: 藤原
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Lorel's Island2

Lorel's Island



エルフ(2)



 生まれて初めて見るエルフは言葉では形容できない程、美しかった。船から降りて来るエルフの周りの空気だけ別の世界の様に感じた。その早くも遅くもない歩き方は優雅だった。エルフは、そこら辺の男より背が高いのにもかかわらず、その高い身長がまったく気にならないくらい、バランスの良い体だった。細くて長い足を目立たせる様なタイトな茶色の革のズボンに茶色のブーツ、風が吹くと細い腰がちらっと見える、白い綿の様な生地の薄いシャツを見事に着こなしていた。左の肩から反対側の腰に下げている、大きくも小さくもない鞄と、左の太ももの外側にズボンと同じ革でできている止め具の中の、細くて小さい剣も、全てが彼女に馴染んでいて、体の一部に見えた。

何より、眩しいほど白い肌は、見てる者全員から言葉を奪った。


 

 エルフはこんなに多くの人間に注目されるのは期待していなかったらしく、少し戸惑った様に見えたが、すぐに口を開けた。


 

「旅館はどこですか?」


 

 春の風の様に暖かく、よく磨かれた水晶の様に透明な声を聞いて、船着場は嘆声のともに、またざわめき出した。

 


「へー、アウロン語が話せるんだ?」


 

 僕は小さい声でクルックに言った。


 

「ああ、ちょっと訛りはあるけどな。つうか、旅館を探してるけど、お前黙ってていいのか?」


 

 クルックの言葉で気が付き、僕は焦ったあげく、手まで上げて言った。

 


「はい!うちが旅館兼、酒場です!」


 

 エルフは僕たちの方へ近づき、その黒くで真っすぐな長い髪の毛をかき上げながら言った。


 

「案内して下さいますか?」

 


 エルフのその髪の毛の様に黒く、吸い込まれてしまいそうな、果てしなく深い瞳に目を合わせて話すのは、17歳の少年には無理だった。あまりにもどきどきしていて、心臓を喉から吐き出しそうな気分だった。

自然とに顔が真赤になって、もぞもぞしていたら、いきなり後頭部に激痛が走って、僕は前に激しくふらついた。


 

「あのさ、男のくせに、ちょっとかわいい子が来たからって、あほな面してるんじゃないよ!情けない!」


 

 女の声にしては低めの、聞きなれた声だった。このこれっぽちの欠陥もない美人、いや、人間の美しさをはるかに超えている生き物の前で、人間の一番下等な意思の表し方を披露してくれた勇敢な女性は、マドックス船長の一人娘、イズメルだった。



 色黒い肌に、長くて茶色い髪の毛を胸元までたらしている。上半身には胸だけを隠すために、黒い三角形の布二枚を紐で繋げて、首の裏と背中で結んで、腰から太ももまでしか隠していない短い黒のズボンは細い体を惜しみなく露出している。露出した格好は、お腹に彫ってある入れ墨を目立たせていた。イースト海最強の男の娘に似合う、男勝りな性格で、クルックと同様、物心がつかない頃から一緒に遊んで育ってきた、僕の幼馴染である。僕より1歳年下のくせにしっかり者で、僕をいじめるのが趣味の子だ。


 

 イズメルは急な事態にぼーっとしてしまった僕とクルックに呆れた顔をして、エルフに言った。


 

「こんな頼りない奴らといても時間の無駄ですわ。私が道案内しましょ!」


 

「い、いや、待て、ぼ、僕も今案内しようと・・・。」


 

「お、俺も!」


 

 イズメルがエルフを連れてさっさと行ってしまった後を、僕とクルックも必死に追いかけた。


 

 逆にイズメルがいてくれたお陰で、緊張感がなくなった。非現実が現実とやっと繋がった感じだった。緊張が和らいだ僕は、いつもの通り、ひたすら喋った。

 


「僕はジェイ・デックスンです。この大柄の筋肉馬鹿は、クルック・レディング、間抜けな面をしてますけど、ああ見えて、うちのマドックス海賊団第一船隊の隊長になれたくらい強いんですよ。マドックス海賊団って聞いたことあります?このイースト海では他の海賊はもちろん、海軍も手が出ない程、有名ですけど。んで、その海賊団の親分の愛娘が、この、お腹に変な入れ墨がはいってる、イズメル・マドックスです。そうです、うちのローレル島の男の大半は、このマドックス海賊団の船員なんですよ。海賊と言ったら、人聞き悪いですけど、うちのメル・マドックス親分のお陰で、ご飯食べてると言っても過言じゃないんです。土地のほとんどが砂でできてるせいで、作物を育てることもできない人たちに、略奪してきた財物を、自分には何も残らないくらい、配って下さるので、僕らにとってはアウロンの王様より恩人なんです。」

 


「余計なことまで話すなよ。」


 

 イズメルが照れくさそうにいった。


 

「まあ、とにかく、ローレル島へようこそ!」


 

 僕が笑顔で言ったら、エルフも少しほほ笑んだような表情で答えた。


 

「はい、ありがとうございます。ですが、その入れ墨はエルフのものですね?」


 

「そうなの?」


 

 僕は驚いてイズメルに聞いた。


 

 イズメルのお腹の左側から左の腰までに亘って、像の横顔が古代模様で大きく描かれてあって、その像の鼻がへそを巻くように彫ってあった。


 

「うん、趣味よ。この入れ墨は子供の頃に亡くなったお母さんが彫ってくれた物だけどね。」


 

 イズメルは僕に向かって答えてから、エルフに話し続けた。

 


「入れ墨だけじゃなくて、エルフの飾り物も好きなんです。あと、砂漠の国ロックシオンの飾り物や、彼らの寺院でたいてるという、お香も結構集めてるんですよ。まあ、父親の仕事柄、色んな物が手に入りやすいという利点もあってですけど。」


 

 エルフは少し考える様に時間をおいてから、イズメルに言った。


 

「その入れ墨はあなたにとって大きな力になる時があるでしょう。」


 

「そうですね、エルフの入れ墨は魔力を持つとも言いますもんね。」


 

 イズメルが答えた。

 


 あれこれ話していたら、いつの間にか、少し前にクルックと激論していたお店の前に着いた。


 

「おーい、お客さん連れてき・・・!」


 

 ドアを開けて店の中に叫んだ瞬間、僕の頭には、イズメルのそれとは比べ物にならない程の激痛と共に目の前が真っ暗になった。

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