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拳闘士とレアなモンスター

評価が着々と増えてる

マジ感謝

 目どころか全身も充血してるのではと印象づくホーンブラッド。


「おーよしよし良い子だな、頼むからこっちに気づくなよ」


 周囲には邪魔になり得るプレイヤーはいない。

 遠距離攻撃の手段を持っていないコウリンは忍び足を維持して接近してゆく。

 戦闘する際には先手を取った者が有利なのだと死にながら覚えたからである。


 しかし、コウリンの職業にはそんな隠密行動に優れた能力など持ち合わせていないため、距離を詰めきる前にこちらを察知されてしまう。

 ネームドモンスターの燃えるように血走った眼が一層大きく見開いていたからだ。


「あちゃ、不意討ち失敗だったか、アハハ……」


 自嘲気味に笑い、どんな速度で突進されても対応できるようすぐさま身構える。


 現在のコウリンのHPは満タン、一撃なら食らえる覚悟はあったが、赤いホーンラビットは狙われていると分かってましたかのように、挑発的に尻を振りながら背を向け明後日の方向へと走り出したのだ。


「ちょ、こいつ強そうな割に一手目から逃げるのか。いやいや逃がすか待てこら」


 想定外の行動に面食らったが、狩ろうと決めた時に煽るように逃げられては無性に腹が立つもの、コウリンは怒りやストレスをエネルギーにして追いかける。


 ネームドモンスターとは通常以上のステータスの他、大方の種は逃走行為が行動選択に組み込まれている。

 怯えからくる防衛本能などではなく戦略的な撤退に近く、しかもプレイヤーから離れ過ぎるとシンボルは消滅してしまうと交戦すら容易にさせてくれない知能犯なのだ。


「くそ、あのウサギ速いぞ……」


 ところが、コウリンは必死さでこそ勝っているが、速さの面では相手がいくらか上であり、赤い体毛に覆われた背中がだんだんと小さくなってゆく。


「速すぎだ、そこらのウサギの三倍は速いぞこりゃ。でもなぁ、ここまで追い回しておいて今さら諦めたくないしなぁ」


 引き離されてゆく距離から、淡々と走るだけではもう追い付けないと悟り、コウリンは足を置き打開策がないか思考する。


 ほどほどにプレイするつもりであったがしっかり悩める要素があったんだと痛感しながら、今までで覚えた点を懸命に振り返り、そして現在最も必要である速さを上昇させる方法を思い付いたのだ。


「これしかないな。うまいこと機能してくれればいいが、もっかい走るか」


 ボソリと呟き、不安がりながらも追跡を再開する。

 深くは考えてはいないし、これで駄目だったらいっそ諦めが付くと割り切ってもいた。


「おおおお、おお? 重力が軽くなってるような感じがするぞ? へへぇ~面白いな」


 すると作戦は見事に当たり、コウリンの動きが目に見えて俊敏になっているではないか。


 コウリンが頭をこねくり回して考え付いた方法は、もはや作戦とはとても呼べないが、持っていたステータスポイントの15ポイント全てをAGIへと割り振る短絡的な方法であった。


 なおステータスポイントの振り直しは不可能と本来初心者が陥りやすいミスをしており、この先素手によって慢性的に不足するであろう攻撃力問題についてはお察しになってしまったが、このような時を筆頭に速さに任せるのも時に戦略の内。


「グッド。やっぱ頭使った後は体使わんとな」


 おかげでコウリンの速さは単純に倍以上になり、風を切る感覚と見違えた世界を楽しんでいる内に、追跡対象の後ろ姿も届きそうなほどに近づいてきていた。


「それじゃくたばれ赤面ウサギめ、食らえっ!」


 VR世界だからこそ可能な飛びつく動きで背中をぶん殴り、ようやく僅かにダメージが与えられた。


 それでもコウリンにとって下限である10ダメージ。

 称号補正で底上げされた下限であるが、これ一発では軽傷にしかなっておらず、相手も赤い体をますます赤くさせ、その場でじたばたと暴れ回る。


 攻撃されて怒りに駆られた以上もう逃げはしないようだが、通常の種族よりもパワーが上回っていたために、力押しで振り払われてしまう。


「おっとっと、なかなかタフで狂暴な奴なんだな。俺もいよいよ真面目にやんなきゃボコボコにされそうだなこれ」


 体勢を調えながらひょいっと起き上がる。


 無論相手も黙ってはいない、二度と背後を取られないため、ウサギでありながら闘牛を彷彿とさせる果敢さで突進して対抗姿勢を見せる。


「どこまで吹っ飛ばされるか分からん猪突猛進っぷりだが、いっちょやってみよっと」


 この状況の中、コウリンは一度屈伸をしつま先を軽く地面について体をほぐしていた。

 危機感があるのか無いのか、答えがあるならば何度か倒されているために最早無きに近いだろうが、そうこうしている内に相手が目前へと迫る。


「よし。リアルじゃ無理でも、この現実離れした世界ならばいけるはず」


 離れすぎず肉迫しすぎないタイミングを狙い、激昂した表情が目に見えて分かるまでに迫った時に、相手の真上ギリギリまで跳躍する。

 動物にありがちなブレーキの効かない特徴を巧く利用していた。


 伊達にAGIに多く割り振っているだけあって跳躍力は十分にあったようである。


「いけた……いやこっからが勝負時だったか、この位置からならば一方的に殴りやすいはず」


 そして思い描いた通り、直角に立っていたウサギの耳を左手でガッチリと掴んでいた。

 コウリンの真の狙いは回避ではなく、次の攻撃への準備であったのだ。


「卑怯だがここらで終わらせとくか、そんじゃがら空きのとこから……食らぁえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ!」


 拳闘士の代名詞である徒手空拳での我武者羅な連打、それを空いている右手で存分に振るいまくる。


 相手も悶えながらコウリンを落とそうと狂ったように暴走するが、自分を掴んで離さないでいるのだから効果はまるで無く、10ずつのダメージの蓄積によってピタリと動かなくなり、横になって倒れ果てた。


 耳しか攻撃されてなかったが、部位ごとのHPはこのモンスターには無いため、偶然ゲームの仕様を付いたコウリンの勝利と言えよう。


 尤も、他の職業ならば追い付きさえすれば正面からのぶつかり合いでも勝利は可能な範囲なのだが。


「ふぃーっ。しぶとい奴だったが、今のとこ殴ってるだけでも勝てるし良い具合にストレス発散になるな……おや、またまたメッセージが来たが……アイテムドロップだと?」


 聞こえやすい鈴の音に呼応し、すぐさまアイテム一覧から確認する。


━━━━━━━━━━━━━━━━


 アイテム名:妖精の片手剣

 部位:右手

 レアリティ:☆☆☆

 効果:STR+80(装備不可)


━━━━━━━━━━━━━━━━


「おや、毛皮じゃないな、あのウサギってああ見えて妖精の類だったのか」


 ドロップしたアイテムは、主に剣士のプレイヤーが扱う片手剣であったが、ウサギ型のモンスターからの落とし物ではミスマッチ感を禁じ得ないように思える。


 だがネームドモンスターからの特殊な仕様として、倒せば装備品がランダムでドロップするので別段不可解な現象では無い。


 そしてホーンブラッドからはレアリティ『☆』から『☆☆☆』のランダムでドロップするため、この妖精の剣は傍から見れば喉から手が出る程の大当たりである。


 装備不可能でも他のプレイヤーから装備可能な武器をトレードすればよし、分解システムを使って素材に変えて高値で売却してもよし、前者はコウリンにとって不必要だが、今後有利に進めること間違いなしであるだろう。


「ええとなになに、優秀そうなのに装備不可ってことは売るしか用途が見当たらなさそうだが……これ売ってもたった100モンにしかならねえのかよ。じゃあ金は増えてきてるし放ったらかしておこ」


 しかしそれを全く知らないコウリンは、妖精の剣自体の売値で価値を判断してしまった。

 コウリンの金銭感覚感覚については、もう大目に見ず早く矯正すべきかもしれない。


「全力で走ったから疲れた……とにかく街に戻るか」

AGIは最高速度的な意味合いが強いんで普通に歩く分には変化無し

分かりやすく言えば上限は上がるが下限はそのままって感じかと

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