拳闘士と新たな旅路
本当にありがとう
「やったあ! ついにギルド本実装だ! えへへ、この時をどんなに待ちわびていたかもう覚えてないよ〜」
某うっかり拳闘士により壊滅的被害を受け、その惨状からまだまだ完全復旧の目通しが立っていない王都セカンピニオンで、水の供給が止まった形だけの噴水広場で悪目立ちしている者が一人。
「ついにこのスーパースマイル120%のねいろんちゃんが、アイドルギルドのセンターとして輝く日が来るよ〜。みなさん、ぜひ温かな応援と課金衣装のためのおひねりをよろしくしていってね♪」
いつも絶好調なネイロは、無言で復興作業に勤しむNPC達に無茶な要望を喧伝していた。
どこの体の部品からそこまでハイになるテンションが沸くのかはKLO七不思議に数えられる。
しかしネイロは、ギルドシステムが本実装される前のサービス終了を危惧していた者だったため、その喜びはひとしおなのだろう。
ギルドマスターになりたい者は100万モンを支払いギルドを設立、もし仮ギルドに自身と同じ所属のメンバーがいればそのまま新ギルドへ自動的に移行する。
所属できるメンバーはおよそ百人にまで増え、そこから条件をクリアするごとに最大数を際限なく増やせるので、その気になれば大勢のプレイヤーを召し抱えることができるのだ。
「ギルド名は『アーティスワン・ディラブリー』にするとして、手始めにどうしようかな〜。みんなに私と同じ衣装着させちゃうってのもいいよね〜」
誰に話しかけるでもないのにまるで同意を求める口調だ。
好意的解釈をするなら衣装の統一は自ギルドのアピールにはなりそうだが、誰もがネイロみたいに羞恥心が自尊心に勝るわけが無いだろう。
「イメージカラーは私のオレンジは譲れないとして、リリーちゃんはパープルでミルキーちゃんはレモン色! ……駄目だ、コウリンが謎になる」
描いてる夢が口から漏れ出すが、場の空気をリセットさせる鎮静剤の擬人化コウリンの姿を想像するだけで急激に萎え出す。
ネイロが一年前に無謀にもアイドル系配信者を志していた頃はともかく、今では少なくとも仲間が嫌がることは強要しない程度の常識は心得ている。
今語ったアイドルユニット計画は、大方コウリンが嫌がるだろうから没案になるだろう。ふくれっ面になってごねそうだが。
「おい。ずっと一人でベラベラ喋っているが俺を無視するなよ」
前触れ無くひょっこりと顔を出すコウリン。現実的に考えるとおかしな話をするが、他の王国が管轄する地域へと逃げ込み悪名を善名になるまでじっくり晴らしたおかげで、セカンピニオンに顔パスで入れていた。
「ごめん。居たことに気づかなかった」
そんなコウリンに一声かけられるだけでテンションが平静になるネイロ。しかし間もなくしない内に陽気で愛嬌たっぷりな晴れやかな表情に戻る。
「ま、そういうことだから、これからギルド本部で本登録してくるね。手続きはすぐ終わると思うから適当にぶらぶらしてていいよ〜」
噴水の上からひらりんと降り、荒れ果てた影響で景観を遮る住宅が少なく遠くまで見渡せるようになった王都の奥にポツンと見える精悍な建物へとスキップで向かおうとするが。
「すまんネイロ。俺がギルドマスターになりたいからダメだ」
「ほへ? ……ふえええええぇ!? あの稀代の面倒くさがりなコウリンがギルドマスターになるの!? いったいどういう風の吹き回しなのさ!」
「そこまで言うか」
叶う直前だった夢がバラバラのピースだけになるのを構わず、犬が卵を産みブラックホールが嘔吐するよりもあり得ない心変わりを見せたコウリンに訪ねていた。
珍しく真剣そうな表情からは、認めたくないが冗談だとは思えない。
「実はミルキーからはオッケー貰ってる。リリーの方はネイロの返事次第って言ってたから後はお前だけだ。金はあのあいつから貰ってた分がちょうど100万モンだ」
「手が早いね。本気でギルドマスターになるんだ」
「ああ。忙しい期間が多いしいつでもログインできるかの保証は無いが、何とか時間作ってやれるようにはするから、お前も協力してくれ」
「むむむう〜」
頬を膨らませ決断に悩む素振りをするネイロ。
まさかギルドマスターの座を渡すとは思わなかったが、コウリンが本気になったら交代する約束を忘れていなかったため、即座に頷く。
「もちろんだってばー! だって初心者さんの成長を見届けるのが私の好きなことだもん。まだまだ面倒みてあげなくちゃ不安で仕方ないもん」
「やったあい。やったあい。やったあい」
万歳三唱。
新たなギルドマスターとしてコウリンの就任が可決し、ネイロの方は副リーダーとしてコウリンの補佐役や他ギルドとの交流の窓口を請負うと前とあまり変わらない働きをするつもりだ。
リリーとミルキーも祝詞のためにここへ駆けつけている最中である。
とは言ったものの、ここからが本当の始まりだ。決めるべき事柄は多い。
「じゃあさ、まずはギルド名を決めなきゃスタートラインにも立てないよ。命名する権利はギルマスのコウリンにあるけど、なにか良さそうな名前考えてあるの?」
「残念美人軍団」
「え゛?」
ゲテモノのように異様な名前が聞こえたので問い返す。
「残念美人軍団」
「二回言わなくても分かるから……え゛?」
ネイロの受難は続く。
終わらすタイミングはここしか無いと思った(小並)
これにて完結です。ここまで52話もの長い間ご愛読ありがとうございました。
次回作はもう書きました(4/26)、VRMMOのジャンルで作風はガラリと変えるつもりです。なお一人称視点となります。
以上、何か質問等がございましたら感想欄でも活動報告でもTwitterからでもどうぞ。




