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拳闘士とエキシビションバトル

誤字という忌み子は心臓に悪い

「しつこいね。いくらデストロさんでも野暮用なら断らさせてもらうけれども?」


「テメェまで気安く呼びやがって……まずは噴水広場まで来い。話はそれからだ」


「くっ。やむを得ないのか」


 高圧的に恫喝されたために、それよりもコウリンを厄介事に引き込ませたくないがために、グリードリヒは黙って従い外へと歩く。


 肝心のコウリンはなんとなくグリードリヒの後に並んで歩いている。


「ちょ、コウリンさん! 君まで着いて行く必要は無いよ」


「いやぁ行くしかないだろこれ。お別れ会するなら一人でも多い方がいいじゃん」


「どうすればお別れ会の雰囲気になるんだい!? はぁ、いっそ好きにしてくれ」


 憎めない顔を向けられると強く断れない。諦観しつつ闘技場を後にして、王都の噴水広場まで連れて行かれた。


「さて悪鬼グリード、おめぇへの用事は他でもない。俺のベストフレンド達からのお悩み相談にちょいとばかり付き合ってくれりゃいいだけだ。おめぇにしかできないほんの人助けってやつだぜ」


 デストロイヤルが意気揚々と指をパッチンと鳴らすと、建物の中から、影から、屋根からも、プレイヤー何十人かがゾロゾロと現れ、暫くしない内に二人は包囲される状態となる。


「よぉクズ、楽しい楽しい引退セレモニーの時間だぜぇ」


「軍師デストロ様は凄いぜ。こんなならず者でしかないオレ達全員に団結ってのを教えてくれたからな」


「あっちの変な帯の奴は舎弟のつもりか?」


 穏やかではない口ぶり。

 同時に彼ら全員の敵意を察し、これがデストロイヤルの仕掛けた罠だとも気づく。


「ふうん。悩みの割には随分と物騒な武装をしているね」


「あり、お別れ会じゃなかったのか」


「まだ言うかい!? もうコウリンさんは部外者じゃ無くなっている。対話は僕に任せて身を守る準備だけしてて欲しい」


「はいよ」


 きかん坊に言い聞かせる口調でコウリンを宥めたグリードリヒは堂々と一歩前に進み、敵意で返す。

 サービス開始時点から犬猿の仲である二人だ。並々ならぬ根深い因縁は簡単に千切れない。


「綺麗な顔して度胸座ってるじゃねエかよ。そうとも、こいつら野郎共の悩みは今から怨みになる、おめぇは十八番の耐久戦法で死ぬまで一身に受け止めてりゃ万事解決ってわけよ」


 デストロイヤルの目的は私怨からくる復讐であった。

 彼の恐ろしい点は蛇のように執念深く周到なやり口、第二にこの大所帯を意思統一させて纏めあげるカリスマ性と、数に物を言わせ詭弁を名分へと変える手腕である。


「ふざけるな。君らの生贄になった覚えは無い。早々にお引き取り願おう」


「いやだな。断われない状況なのはてめぇらの方なんだぜ。それにどうせ引退するんだ。いたいけなプレイヤー共の願いくらい叶えてやっても良いだろ?」


「もう二度と会わない者相手だとしても、下衆た快感のために踏みにじって良い理由にはならない」


「ああ言えばこう言う。だからオレと違って嫌われるんだぜ」


「馴れ馴れしい、至極不愉快だ」


 言葉は通じてるのに話が通じない。

 この場全員の意見は一歩も譲らず、ついに各々が獲物を構え始める。


 言葉無き血みどろの殺し合いは避けられない。そう誰もが確信した時だった。


「ちょいちょいちょい待てやデストロさん! 聞いてた話と違うで!」


 グリードリヒとコウリンの耳に聞き覚えのある声が伝わる。


「あんだよツキカゲ、こっからが盛り上がりどころなのによ」


「ワイはグリードリヒの始末に合意してあんさんのギルドに入った。だがコウリンを始末するところまでは合意書に書いとらんかったで!」


「夏冬がいるじゃん、おーい。反応してねえな」


 高校時代の旧友である夏冬が、どうやら反グリードリヒ連盟の一員に加わっていたのだ。


 しかし、よりによって敵の一人にコウリンがいたのが不服だったために揉め出している。


「呼んでもねぇのに勝手にほいほい着いてきたんだからしょうがねえだろ。オレのギルドの幹部やってんなら腹くくって戦え」


「ゲーム内でダチを斬れるかアホ! デストロさんも倫理観飛んでる輩だったんかい!」


「てめ! ギルマスのオレに向かって文句言ったな!」


「アーアー、言ったし取り消さないやで。つまらん復讐に生きてるデストロさんと違ってワイはリアルの方の人生勝ち組やしなぁ!」


 怒りと怒りがぶつかり合い、中学生のように優位なマウント取っては対立を続け、他の者達はデストロイヤルの指示を今か今かと待っている場面を尻目に、グリードリヒはコウリンに尋ねる。


「ねえコウリンさん、どうやら向こう側には君の友人がいるらしい。このままだと望まぬ戦いになってしまいそうだけど、君の意思を聞こう」


「別にいいぞ。あいつといつかバトルしてみたかったしな。新しく増えた実力をここで自慢できるって思うとワクワクして堪らねえ」


「グッド。だったら言い争いっている間に先手を奪いたいが、その前に」


 手の平から緑色に発行する糸のような魔法が放出され、コウリンの胸に食い込む。

 痛みや感触は感じないが、状態欄に『HPリンク』の文字が浮かび上がっていた。


「僕のHPが尽きない限り君も倒れないようにした。消耗を気にせず遮二無二突撃して欲しいのが、僕の提案だ」


「へぇー、便利な技だなぁ。分かった。じゃあお前は後ろ担当でいいか?」


「了解。さあ宴もたけなわ、彼らに門出を祝わせてあげようか!」


「やっぱお別れ会開くんじゃん。ヘヘヘ。大暴れしてやんぜい!」


 一心同体となった二人は、ニヤリと信頼の笑みを零した後、それぞれ一目散に敵の集団へと駆け出して行ったのだ。


 不本意な覚悟ではなく、こちらからの反撃を正当化するわけでもなく、心の底から楽しみたいことを楽しむという確固たる信念に基づいた馬のような突撃だった。


「おおおい野郎共! さっさとこいつらを迎え撃て!」


「待ってくれコウリン誤解や! ワイはお前さんとは戦いたくないで! あっあっアアアッーー!!」


 腕を大きく引いたコウリンは、切実な懇願が聞き届けて貰えなかったツキカゲからあっけなく撃破し、そこから敵中ど真ん中にて喜劇でも観ているかのように次々とインファイトを放ちまくって無双する。


 グリードリヒもカウンターブラストを交えて相手プレイヤーを嵐の渦に巻き込ませる。自分の目は潰さず、ひたすら相手の首と胴を泣き別れにしてゆく。


「ゴゴゴゴゴ……フシュウウウウウ」


「上からの眺め、改めて見ると壮観だね」


「だろ? 尻が痛くなる座り心地だけどな」


 終いには今日三回目のカンノウンを召喚したコウリンは、グリードリヒもついでに乗せて高みから一方的な掃討を見物する。


 破壊の光線が王都中を焦土にしてしまったがそれも二人には笑い事。まあ悪名度や被害総額を見たくないのもあるだろう。


「クソ……必死こいて努力したってのに……何がいけねェんだ……」


 あっさり倒され消滅しつつあるデストロイヤル。自業自得でも彼の心中察するにあまりである。


「なら教えるよ。努力が必ず報われるほど世の中甘くはないってね。頭の中がお花畑なデストロさんには理解し難い話だけどね」


「ぶっ殺してやる……グリード……」


 グリードリヒは性悪なほどの嫌味を込めて言いきった。

 わざと悪役を演じヘイトを自分だけに向けさせ、未来あるコウリンを少しでも快適なプレイへと運ばせる意図があった。


「さてコウリンさん。最後に一つ、このゲームはクソゲーじゃない。まあ運営は頼りに出来ないほど力不足で、掲示場は名指しでの批判が起こるほど民度が最悪だが」


「ネイロみたいな面白い奴もいるけどな」


「フフッ、あれは愉快な人だよね。KLOはこの通りまだまだ問題だらけだが世界構築の完成度はVRMMO歴代最高だ。それだけは自信を持って言えるよ」


「そりゃそうだ。俺も最後に一つ、また遊びに来てもいいんだぞ」


「優しいね。それじゃ元気で」


 グリードリヒは自分の築いた地位や世界を手放すことを惜しまず、コウリンからバイバイと手を振られながら永久のログアウトの儀を終えた。


 頂点を手にした者の退陣。空席となった最強の称号を継ぐ者は誰となるかは分からないが、それに最も近い人物は暫く見届けながら呟く。


「そんじゃあ……明日早いけどもうちょっとだけ冒険するか」


 この日からコウリンは、毎日ログインするようになった。

次回は掲示場回 予定に変更無し

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