拳闘士とラスボス戦その3
「気合だ! 兄キの仇を討ったれ!」
行動不能のカンノウンを勝手に兄認定したコウリンは、新たに出現したカンノウンに戦闘を任せて相手の射程距離外へ身を隠す。
「フ、フハハハハ! 面白い! まさか僕を敗北に追いやるほどの敵がこんな奴だったなんてね。この理不尽さこそVRMMOの醍醐味!」
カンノウンの馬力は大したものだが以前としてグリードリヒの攻撃力が勝る。トドメを防いだ巨腕を瞬時に斬り刻みすぐさま虫の息のコウリンを追おうとするが、主のダメージを肩代わりせんと何十もの腕が密集し行く手を遮る。
「……ゴゴゴゴゴ!」
「このタイミングで回帰したってのかい!? 忙しくなった時に限って!」
逆境はそれだけではない。足場として利用している麻痺状態のカンノウンが突然再起動する。
時間が経過しすぎて、徐々に麻痺状態が解け始めてしまったのだ。
「ゴゴゴ……観音菩薩」
「ゴゴゴゴゴ……双極鳴動波」
二体のカンノウンは協力しそれぞれの掌から集約されたエネルギー砲を放出する。
栓の開いた風船のように四方八方に荒ぶる軌道を描き、地面、壁に、空に向かって五月雨に飛び回る。観客席に人がいれば大惨事だろう災害級の光線は、その内一本がグリードリヒの剣に命中した。
「粘りに粘ったんだ。今更負けられる理由がないだろう! ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぎぎぎぎぎぎぎがあっ!」
土壇場の執念から来る踏ん張りを見せたが、二本三本と光線がどんどん集まってくために無念にも押し負け、上空の遥か彼方へと吹き飛ばされる。
「がっはあッ!」
何も視えていないのに地面に足がついていない状況。しかも激しい攻勢により腕の力が緩んだ直後、頼みの綱である剣を弾き飛ばされる致命的なミスを犯してしまう。
「ああああああっ!」
平衡感覚が消え前や後ろどちらを向いているのか不明なまま。爆音だけが響き渡る中、落下位置を確認できず、口から心臓が飛び出そうな感覚だけが襲う。
これ以上と無いほどに気が狂いそうな恐怖体験だ。
もう防御どころではない、次の攻撃は確実に防げない。
自身の耐久力だけを信じるしか道が無くなったこの状況で、次なる狙い撃ちを仕掛けてきたのは、光輝く神の化身と比べ小さく貧弱で薄汚れた者であった。
「よっしゃあ! ラストは俺が取おおおる!」
コウリンがカンノウンの伸ばした腕の上を、称号『覚悟を乗り越えし者』で補正されたスピードで走り、指先から大ジャンプでグリードリヒへと飛びかかってきたのだ。
思えばカンノウンからの追撃が来ない。二体は闇雲に攻撃するだけしか出来ないので出しゃばっては思わぬ仕返しをされるより、巨体を足場にして主への道しるべとして徹する選択をしたのだ。
「連続クアドラプルパンチ」
「う、うぐっ!」
どこにいるのか、どこから攻めてくるのか、把握出来ないまま防ぎ止められるはずの神速のラッシュを直に食らう。
この連打ならダメージも多少入ったようである。
「連続クアドラプルキック」
「ぬううううっ!」
足蹴りを受けてもなおパニックは解けず、一切の抵抗もできないままだ。
締めの一蹴りで吹っ飛ばされる。すると背中から別の衝撃が伝わった。
「つっ! はあっ……はあっ……よし剣を回収できた。カンノウンの攻撃でクレーターになっているみたいだが、どうにか辛うじて地面に着地できたみたいだ」
危機一髪。失っていた武器を拾い上げ、落ち着きを取り戻して立ち上がる。
大地に立てたのならまだ巻き返せる。敵が何体に増えても本体さえ倒せば終わりということに変わりない。
「逃がさねぇ」
「逃げも隠れもしない! 君の矜持とやらをここで示してくれ!」
すぐさま迎撃姿勢をとる。ごちゃごちゃになった頭を整理し、目を除く五感の情報からコウリンの落下地点を計算し、近づいた所でかすり傷さえ与えられればHP残量の無いコウリンは瞬で倒せる。
勝利への方程式は成ったはずだった。
「あ、メッセージだ」
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スキル【三刀流?】を獲得しました
効果:拳闘士限定。頭無装備、全ての攻撃時に二度追撃が発生される(常時発動)
獲得条件:頭無装備状態で攻撃を総計2000回当てる
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刹那、天運はコウリンに味方した。
真正面からぶつかれば敗北は必至だったが、ここまでの激戦がやっと報われ、最強と肩を並べるほど飛躍してみせたのだ。
「君の行動パターン一つ一つは完璧に覚えたというのに……そんなことって……」
完全には動揺が覚めてなかったのか、グリードリヒは驚きのあまりよろめき無防備となっていた。
足掻いても足掻いても総合的な戦況は好転せず、知らず知らずの内に足を掬われる。これでは戦意も喪失するというもの。
「すぅぅ……」
コウリンは落下しながら大きく息を吸う。
思考は必要ない。もう手を抜かない。
今こそ全力の拳を叩き込めるまたとない機会であったからだ。
「食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ食らえ! いっけえええええええええええええええっ!」
腕がもげようが明日筋肉痛に苦しめられようがどうでもいい。もし一瞬でも攻撃の手を休めれば反撃を許してしまう。
コウリンは今までで一番、いやこの世界で一番の連打速度を仮想世界で繋がる一人の男へ我武者羅に放ってみせたのだ。
一発一発の威力は雀の涙であるが、それでも間隔を置かずラッシュを放ち続ければ実質即死級の威力にまで昇華する。
上昇したスピードにスピードを重ね、そこからAGIを掛け合わせ、速度を極みまで追求したその凄まじさは、まるで"一秒間に100発のパンチを繰り出している"としか喩えようがなかった。
そしてグリードリヒの底なしに高いHPが底をつく寸前。
「かくなる上は……必殺技・カウンターブラスト」
ここで彼の手札に眠る温存していたジョーカーが不意に発動される。
必殺技を出し惜しみしないコウリンとは対照的な使い方だった。
「やべ、ヒットアンドアウェイで離れねぇと……あばっ!」
「ふ。僕の熱意を侮……馬鹿な!」
この闘いで受けたあらゆるダメージが集約され、自身を中心に万物を消滅せんとする威力の衝撃波を全方位に放つが、間に合わず一撃もらってしまう。
対してコウリンは瞬時に危機を察知し、スキルで攻撃しつつ距離を取ろうと判断したが、触れて攻撃する都合上カウンターブラスト発動直後の時点で衝撃波に巻き込まれてしまっていた。
『戦闘終了。結果は引き分けとなります』
二人のHPがゼロになったのは同時だ。機械の目を以てしてもそう判断せざるを得ないほどの全く同時と判定される。
「引き分けだって!?」
「あー。釈然としねぇ結果だぁ」
勝利の女神がどちらに微笑むかが読めない闘いの行方は、肩透かしにも公平な結果で終わったのだ。
そして休む暇もなく、二人は元の場所へ転移される。
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すまんまだ続きます




