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拳闘士とこのゲームにおけるラスボス

エタりかけた自分でも日間ランキング載れるなんて有り難ぇ

 グリードリヒの姉に案内された所は、無料で利用できる上にペナルティの無い模擬戦の行える施設、闘技場であった。


 コロッセオを模した堅固な外観からは、歓声が聞こえなくともここまで熱気が伝わるほどだ。

 この世界の中心地、王都セカンピニオンにはここ以外にも一通りの便利な施設が整っており、今後も新施設が続々実装予定だ。


「弟は中で待ってるみたいだぜ。チャットで連絡してきたから間違いねぇ」


 チャット欄を閉じながら合流場所を確認する。


「結構『弟』で通すんだな」


「まあな。ウチみたいな雑魚じゃそれでしかプライド高い腑抜けの弟にマウント取れねぇからなぁ」


「なるほど。ゲーム内じゃ立場が弱いのか。かわいそうにな」


 建物の中に入りつつやれやれと肩を竦める彼女に、コウリンは哀れむ口調で共感した。かつてグリードリヒと会遇した時の言い争いを思い出したからである。


 自分と異なる価値観が衝突を招く。しこりは既に溶解していたのでコウリンはもう気にしていなかったが。


「やあ久しぶりだねコウリンさん。姉さんもご苦労だった」


 受付へと向かうと、案の定グリードリヒ本人が待ちくたびれた様子で佇んでいるのが見えた。


 容姿端麗でありながら、ゲーム内では殆ど(コウリン以外)のプレイヤーからはモンスター以上の倒すべき巨悪として刃を向けられるプレイヤー。まるでこのゲームにおけるラスボスである。


「チッ、くたばれやボンクラが。ウチぁ帰ってるぜ」


 姉自身も最終目標は同じなのか罵るように言い捨てると、グリードリヒの姉はログアウトしてこの場から消える。


「ついつい流れで来たんだが、このいかにもな場所的に用事って闘う用事か?」


 石造りの無骨な内装をキョロキョロ眺めながら言う。


「話が早くて助かる。結論から言えば君と一戦交えたくてここに呼びよせたのさ」


「え。やだ」


「あの、ちょっとコウリンさん?」


 コウリンは即答で断ると、これ以上付き合ってられないとばかりにそそくさと退散しようとした。

 デスペナルティが無くともメリットが見いだせない。根本的にグリードリヒ相手に闘いでもしたら一秒も持たない可能性が高く、徒労に終わりそうだからだ。


 大部分を占める理由は「面倒くさい」だろうが、こればかりはコウリンでなくても同意見の者は多いだろう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 グリードリヒから100万モンが譲渡されます。

 受け取りますか?


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「おっ、変なメッセージがきてる」


 当然、向こうも断られる想定は織り込み済みである。

 力を振りかざすことはなく穏便な方法で誘う。


「もちろんタダとは言わない。承諾してくれるなら感謝の印として今提示した金額を出すよ。これでいいかい?」


「いいぞ」


 手のひら返して一つ返事で承諾し、100万モンもの大金を手に入れる。

 この額のお金さえあれば、密かに考えていたある権利を買うことが出来るのもあるが、装備品のためだけに先程までのように散財していたのでとりあえず金が欲しかったのもあったからである。


「君も知っての通り、僕はプレイヤーからは排斥されるべき存在だ。それでも姉を信用してここまで足を運んで僕の身勝手な用事を受け入れて感謝する。まずはありがとう」


「それで。さっさと本題を言ってくれ」


「ああすまない。僕は『決闘』を通じて君がどんなプレイヤーなのかを知りたい……って言っても分かりづらいかな。とりあえずコウリンさんは何の気負いなく自由に闘ってくれればそれでいい」


「それだったら楽そうだな。イベント大会で戦えなかった分これから思う存分拳で語り合えるのもいいかもな」


「ま、まあそういうことさ」


 グリードリヒにはあまり口には出せない事情がある。ただしコウリンに解決を押し付けるほどの事情ではない。闘いながら自力で答えを導き出したいというどこか戦闘者じみた用事なのだ。


 戦い云々よりも、あまりゲームをしないコウリンには理解が及ばないかもしれなかったが。


「既に登録はしておいた。ルールについてはフィールドに着いた時に説明するよ」


「おう。じゃあ向こうになったらうおおっ!?」


 二人の体が青白い光に包まれ、有無を言わさず強制転移される。


 闘技場では戦闘開始前にも準備時間が設けられ、両プレイヤーの任意でスタートできる。

 もしも直ぐに戦闘開始ならば転移酔いでもしてしまった者が即座に叩きのめされるだろうし、この配慮は有って当然だろう。


「ほへー。なんか雰囲気出る場所だなぁ」


 かくして、古代コロッセウムで戦士達が闘い散っていったような場所に到着したコウリンは、グリードリヒへ説明を仰ぐ。


「気に入って貰えたようで何よりだよ。ここには観客はいないし決して配信はされない。君も誰か見物させたい人がいたら今のうちに連絡して欲しい」


「すまん。ネイロ達は遠くにいるぽいから呼べねぇ」


「そうかい。なら次にルール説明だ。普通はHPをゼロにさせた者が勝者だが、今回はハンデとしてコウリンさんが10分間生き残っても僕の負けにしよう。以上、何か不満点があるなら何でも聞くよ」


 二人はPVP大会でワンツーフィニッシュを決めた者だが、実際はレベル差が開き過ぎており、まともに戦えば勝負にならない。故にグリードリヒはより公平な勝負に近づくためにあえてハンデを設けたのだが、コウリンのことだ。10分じゃ長すぎると反対してくるかもしれない。


「あんじゃあ質問質問」


 コウリンはゆらゆらと手をあげる。

 高校では何もかも分かったことにして質問を面倒くさがっていたのにだ。


「なんだい? できる範囲でならこちらで善処するけれども」


「なんか逃げきれば勝ちとかいってるけどさ、俺がお前にトドメさしてもちゃんと勝ちなんだよな」


 ここからは真剣勝負であるため、念には念を入れ再三の確認をする。


「ほう。僕に勝つ……か」


「あ、何か言っちゃったか?」


 常に余裕と自信に満ち営業的な微笑みを浮かべていたグリードリヒだったが、この時ばかりは表情が違って見えた。


「いいやそれでも君の勝利だ。それにそうこなくちゃ面白くないしね」


「ん、逃げ回るだけじゃつまらないからな。じゃあ用意はできてるか」


「こちらもだ。これは想像以上に楽しめそうだね」


 グリードリヒは細剣を垂直に構え、コウリンも両拳を前にし迎撃の姿勢をとる。


『戦闘……開始!』


 両者の戦意が確認され、無人の観客席にまで試合開始のコングが鳴り響いた。


「……ってこねぇのかよ」


「いいや、これはお先にどうぞのサインさ」


 二人のにらみ合いは続く。

魔王やドラゴンじゃなくて人間がラスボスってのどうなんだろ

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