拳闘士と副業
小生も日間ランキング百鬼月に返り咲きたい
一週間ぶりにログインしたコウリンは防具職人の副業を行ってみることにした。
拳闘士に武器は必要ない。つまり防具さえ整えるだけで良いとコウリンにしてはまともな結論に至ったからだ。
副業を得るには、クエスト方式で下働きやバイトとして働き、そこの親方からお許しを貰うのがセオリーなのだが。
「店員さんでよろしいですか? 私、剣士なんですけどこの金額以内でオススメのものはありますか?」
「え、全然わからん」
「この人バイトする気ないんじゃ……」
コウリンは感覚で覚えるのは早いが、頭はすぐ忘れるように出来てる生粋の脳筋であった。いや、そもそもSTRが低いので脳筋ですらない。
それにより、頭を捻らずともクリアできるはずのチュートリアルですらクリア失敗となっていたのだ。
「やっぱり副業とかは俺には向いてないや。やめよ」
自分の不得手さに匙を投げ、コウリンは観念して強力な防具を探し求め始めた。
☆☆☆
「ひえー。みんなバイトとかできんのかよ……」
まずコウリンが向かったのは、副業を持ったプレイヤー達がこぞって営業する商業地であった。
ここでは資格があっても店が無い露天商のプレイヤーが集う場所であり、例外的にKILLされてもアイテムだけは失わない。
経験値は以前として失う辺り、商売に精を出しすぎて鍛錬を怠るなと言われていそうだ。
「ぼちぼち見て回るしかないかぁ。ん?」
「なあなあ、アンタ拳闘士のコウリンだろ。少しだけでいいからウチの店みてってくれねェか」
急に肩に手を置かれたコウリンが振り向いた先には、胸に簡易的な布だけを巻きポニーテールに結いた無法な格好をしているサバサバした女性だった。
この女性の格好同様、ここでは客引きや押し売りは自由な無法地帯であるので、運営公認のNPCの店を選ぶプレイヤーもいる。
「へえ、なんか良さげなモノでもあるのか」
「ああ、あるとも! きっとアンタでも気にいると思うぜ。こっちだこっち」
「分かった」
コウリンは客引きを信じて着いて行く。
仮に彼女が悪徳商人だとしてだまし討ちやぼったくりの被害にあっても、あくまでゲーム内で不利に働くだけだ。
「いらっしゃい! ウチぁ防具中心に商売してるモンさ。店によっちゃアポ無し入店がダメなとこもあるが、ウチは人でも鼠でも大歓迎だぜ」
「おお防具屋さんなのか。ラッキー」
厳つい鎧や清楚な服といった様々な装備品が並べてある店へと到着する。
掴みどころがない人との印象だったが、案外気さくそうな人だったので一安心だ。
「そこでアンタにオススメしたいのがこれだぜ。この道着。現状最レア素材で編んだ至高の逸品さ」
取り出したのは、コウリンが装備している道着とは一見瓜二つの品。
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アイテム名:虹帯の柔道着上
部位:体
レアリティ:☆☆☆
効果:DEF+50
STR+30
全状態異常耐性+10%
僅かに当たり判定拡大
アイテム名:虹帯の柔道着下
部位:脚
レアリティ:☆☆☆
効果:DEF+40
AGI+30
LUK+20
僅かにクリティカル率UP
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しかし、帯の方を見てみれば何と虹色に光っており、しかも見る角度によって輝きが変わる彩色と何だか目に良くなさそうな代物だった。
「うぇ……まあ着る気にはならないな」
「だが性能はウチが保証するぜ。こんな奇抜な帯だが、着てみれば今までとは違う世界が見えるはずだ。ちなみに拳闘士用のはこれしかねぇ。人口が少ねぇしな」
「贅沢言ってられないか。値札がないがいくらなんだ?」
そう尋ねると、女性は人差し指〜薬指を立てて、残りの指で○の形を作る。
「そうだな。セットでしか売れねぇのは悪いが、まけにまけて30ってとこだな」
「マジで? 30モンで買えるのかこれ」
「30万モンだ! 都合の良い勘違いすんな! とまあウチが吹っかけてるみてぇだがぶっちゃけこれ編むのにものすげぇコストと労力かかってんだ。この値段になるのも自明の理ってやつよ」
へへっと笑うと、力をかけて柔道着をコウリンの体に押し付ける。圧力で買わせるつもりのようだ。
「へいへい。金が丁度あるし買った」
「ありがとやぁす! 誰もが避けそうなモノでもとりあえず生産しといて良かったぜ」
「じゃあ恥ずかしいけど試しに着てみるか」
全財産はたいて購入したこの道着が帯以外にどんな違いがあるのかは数値だけでは判別しかねる。なので装備欄を開いてその場で変更する。
「……なんか着心地だけは良い気がする。気がするだけで実際どうなのかは分からん。うーん微妙だな」
やはりと言うべきか、見た目では分からないが茶帯の柔道着とは別な素材で出来ているようで体が羽のように軽くなったが、ギラギラ発光してそうなほど目立つ帯が減点要素となっている模様だ。
ただし腹部を手で覆っていれば、前面だけなら隠せそうだ。背面は派手な変人だが。
「おっと! ちょっと待ちな。アンタに大事な用があんのをうっから忘れてたぜ」
「うわっ! これには深い訳が……ってなんださっき店員さんか」
後ろから声をかけられて、弱腰になりながら振り向いたコウリン。
先程の店員だったことでひとまず落ち着き、特に予定もないため、その大事な用を聞いてみた。
「ウチの弟、じゃねえな。グリードリヒがアンタのことを探していた。見つけたら呼んでくれって言われていてな。折り入って頼みがあるんだとかよ」
どうも彼女は、あの最強にして問題児であるプレイヤーの姉だったようだ。
巷では極悪人クラスの名声であり、見かけ次第通報されるグリードリヒがどうして装備品を新調できているかの声があったが、身内という絶対に裏切らない味方がいるのが答えである。だとしてもコウリンに率先して装備の横流しをしている辺り、実態は死の商人である。
武器も武器で、また別の実姉から購入しているのだ。
「へえ。しばらくゲームしてない間に俺が探されてたのか。そんで一つ質問いいか?」
「あん? 今ので質問要素あんのか」
「グリルドチキンって誰なんだ? 美味しいのか?」
「グリードリヒだっつってんだろ! 聞いてた以上に支離滅裂な奴だなアンタ……」
コウリンにとってのグリードリヒ像は矮小なものである。
明日も投稿するしかない




