拳闘士の副業
「簡単に言えばモンスターと戦わなくてもいい副業よ。ワタシは薬剤の生産を選んだの。これ、コウリンちゃんにあげるわ」
リリーはつい先程作り上げたポーションを手渡すと、受け取ったアイテムの詳細を告げるメッセージが届く。
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リリーから中回復のポーション×10を受け取りました
名称:中回復のポーション
出来栄え:☆☆☆
効果:HPを70%回復
生産者:リリー
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「へぇ、これお前の手作りか。効果が高いなんて流石だ」
コウリンにとって、このポーションは消耗品の専門店で見かけたことがあるが、通常50%回復のところを大幅に回復量が上回っていた類は見たことはなかった。
これこそ、プレイヤー自らがより強力なアイテムを製造する生産のシステムである。
一般的なMMOでは戦闘職と生産職に分かれるこのシステムだが、戦闘と生産どちらも満遍なく行いたいユーザーのために、思い切って副業へと統合した産物である。
生産にも種類があり、鍛冶や採掘等から一つしか志せない制約あれど、挑戦は各店舗から誰でも可能と敷居の低い設計だ。
「このお薬、女のコへの愛情を込めて作った逸品なの。あ、でも髪の毛が混ざってるとかは心配しないで? ワタシ、こんな人だけどそんな変態な趣味は無いのよ?」
「確かに、見知らぬ人間の髪の毛が入ってたら品物にならんからな」
「そういう意味じゃないわ……天然さん……」
奇特な恋愛関連には疎いコウリンを見て、なんだかからかい甲斐の無い物足りなさを感じたリリー。
コウリンもコウリンで、ポーションをインベントリに仕舞わないまま眉をしかめていた。
「だがよ、いくら見知った仲とはいえ無料で貰うってのは悪い気がするな」
妙な所で律儀さを発揮するコウリン。
これを常日頃から発揮できればどれだけ得であっただろうか。
「ううんいいのよ。むしろ無料であげないと今ワタシがやってるクエストが達成できないの」
「クエスト。ああそうか、お前もクエスト中だったのか。おおかた慈悲営業しろってパターンか」
「大体はその通り。悪名度を祓う懺悔のクエストの最中なの。出来栄えの良い自作のアイテムを無料で渡す内容なのよ」
「だからこの教会に居たんだな。なるほどなるほど」
リリーがさらりと言ったが、実は悪名度を無くす方法は所持金以外にもいくつか存在する。
司教からクエストを受注し、それを完遂させるのも方法の一つなのだ。
ただしプレイヤーの利益になるクエストは全く無いため、お金ではなく労力と引き換えに悪名度を晴らすと言うべきだろう。
「つまりタダで貰うのはお前を手助けできるってわけか。それならありがとよ」
「ウフフフ、こちらこそどういたしまして。このポーションを使う時、少しでもワタシの顔を思い出してくれればそれで満足よ」
「ああ考えとく。あれ、お前も悪名度あるってことは……何しでかしたか?」
リリーの後半の言葉を話半分で聞き流したコウリンはふと気づく。
「ウフフ……何だと思うかしら……?」
「うん。もういいや」
女性に手を出した男性を始末したのだろうと、リリーのイメージからコウリンは容易に想像してしまい、早々に話を切り上げた。
「でもやっぱりお互い厚かましい感じになっちまいそうだからな……そうだ。金以外なら何渡しても良かったりするか」
「え? クエスト失敗の条件にはお金のことしか書いてなかったから多分良いはずだけど……」
「そうか。じゃあ支払いはこれにしてくれ。これらは俺が持ってても投げるだけになるからな」
コウリンは物々交換の形で取り引きを果たすため、数々のアイテムを取り出す。
「ねえコウリンちゃん、一体なにこれ……」
「そうだな、あの観音ぞ……あれこれあってパンパンに溜まってたブツだ。これで貸し借り無し、俺らの友情に亀裂無しだな。ハハ」
そこに現れたのはうず高く積まれた装備品。
カン・ノウンがプレイヤー達を屍にさせた末に不本意ながら得た物であり、剣や弓の武器から長々愛用された痕跡がある古着まで勢揃いしている。
これらにはコウリンには使いこなせそうな種類は無かったため、丁度良い貰い手を探していたのだ。
強奪品を自ら売り払うなど足がつきそうな考えは頭になかったようだ。
「あ、ありがと……女のコの匂いはしないけど、コウリンちゃんのプレゼントならどんなものでも大歓迎よ……。コウリンちゃんは女のコ、コウリンちゃんは女のコ」
「ほんとよく分かるよな。その謎技術俺も欲しいわ」
引きつった笑みを浮かべながら持ち主を分析したリリーに、自分なりに感嘆を表すコウリン。
ゲームとしての側面ではあまりどうでもいい事ばかり気にするのはお互い様なようだ。
「ワタシはもっといっぱいポーションを調合してるわね。もしお店の売り場にあったら、かわいい女のコの手元に行き渡るように是非とも愛情を送ってね」
「買ってくれじゃないんだな。リリーは職人の鑑なんだな」
そうリリーの秘めきれてない欲求をポジティブに自己解釈し、コウリンは副業のシステムを記憶の隅に収納して教会を後にした。
「副業。ネイロ辺りにどの副業選ぶか尋ねてみようと思ったが……そろそろ自分で調べる癖つけないとな」
☆☆☆
「へぇー副業って思った以上に沢山あるんだなぁ。料理人にまでなれるとか今後の食事に困らなさそうだぞ」
ログアウトしたコウリンは、忘れない内に情報の塊である攻略Wikiから副業一覧を調べていた。
副業の長所や需要まで様々な説明が載っており、分からない単語があればそのページに飛べる親切な仕組みに、スマートフォンを動かす手が盛んに進んでいた。
「便利な世の中になったんだな。まあ何十年も前から便利だったんだけど」
自分のいい加減な性格を損に思いながら調べていく内に、自然とその他の要素についてのページに移り変わってゆく。
「うわやっちまった! 装備品って分解した方が高く売れるのか。俺ってどんだけ考え無しにゴミのように装備投げちまったんだ……過ぎた事だしまあいいか」
普段は検索機能を活用しないコウリンにとって、新たな発見の連続であった。
見過ごしていた要素がごまんとあり、そのまま検索に没頭してく内にジャンプした新規のプレイヤー向けのページにはオススメ職業がピックアップされていた。
「お! 拳闘士が勧められてる! どこが強いのかまるっきり不明だが、キルイベては執念で二位をもぎ取った今後に期待が持てる職業……二位っての俺のことじゃないよな」
自分の選んだ職業が注目されている事実や、他プレイヤーからの目線での職業評価を知る。
まだ評価が低いとはいえ長所はしっかり記載されており、長らく拳闘士を行っていたコウリンでさえ知らない隠し補正まで書きこまれてあるほど博識な攻略サイトである。
それでも膨大な職業のある中で元々人口の少なかった拳闘士は未だ情報不足の面があり、どのビルド構成が最良かの意見はいくつかに分断されていた。
「……コメントがかなり言い争いしてるな。なんでやんわり言っただけで人格まで否定されなきゃなんないんだろ。人間って不思議だ」
負の側面を見てしまったコウリンだが、それを不思議で済ます図太さで回避。
こうして、コウリンはVRMMOの楽しみ方をまた一つ覚えたようだ。
ここまで生産職のこと全く頭になかった事に気づき、今更統合性考えるのも面倒なので副業としてまとめることに




