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拳闘士と懺悔

PKが正義で容認されてるゲームなんてやりたくないよね

 帰還時点で身も凍る思いをされたコウリンだったが、恐怖はまだ終わらない。


「違う。やったのはアホの観音像であって俺は何もしてな……許してくれてもいいだろぉ」


 王都内で巡回中である衛兵のNPCが、見かける度に武器を構えて襲いかかってくるのだ。

 初めから敵である存在とは幾度となく巡り会ったが、これまで敵でなかった者が敵意むき出しにしている光景は恐怖映像さながらであった。


「こいつら罪人捕まえる動きじゃねえ。殺る気マンマンな動きだ……」


 町民からは怯えた目つきで避けられ、プレイヤー達からは風物詩の様相で囃したてられ、息もつかせぬまま追われている内に自然と出口から遠のいてしまったコウリン。

 敵対されているなら抵抗も可能だし、それを見越したように必殺技ゲージも満タンまで溜まっていたが、いくら何でも規律正しく日常を謳歌しているだろう町民に手をあげたくないのが心情。


「ネイロの気持ちがようやく分かった気がするぞ。やったらやり返されるってのがな」


 仮想世界でも法はある。

 助かる道もない現状で槍からのダメージを受けつつ痛感したコウリンだったが、その瞬間。


「こっちよ。ウフフ」


 手招きするような声色が耳に入る。

 尤も疑心暗鬼に苛まれているコウリンは従わない。


「こっちって言われてもどのみち俺に逃げ場はないから無理だ」


「大丈夫よコウリンちゃん。この建物に入ってる間は安全よ」


「まさかその声にその呼び方!」


 敵なのかすら判明しないままうっかり答えたコウリンだったが、透き通った女性の声が眼前にそびえ立つ教会から引き続き聞こえてくる。

 この建物内に裏の逃げ道でもあるのか、しかしコウリンには王都の建物への知識はさして無かったので判断に苦しんでいる。


「まあいいや、お前んとこに行くぞ」


 そう思いきや、よほど焦っていたのか判断は即決。

 聞き覚えがあった声を頼みに教会へと走ってあがりこんだ。



○○○



 中は閑散としており、広々とした空間で長椅子やステンドグラスが神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 NPCはいたが、悪名度の高いコウリンがお邪魔しても無反応を貫いている。


「さてどうするか……言われるがまま入ったが逆に逃げ場無くしてないかここ」


 今のコウリンには雰囲気を体感する余裕が無いほど不安感でいっぱいであった。

 とりあえずは重い扉を固く閉じて必死に押さえる。


「妙な真似してなんの企みがあるのか……いるんだろリリー」


 キョロキョロと見回し、声の主の名を呼ぶ。


「はぁい、女のコの味方リリーよ。いらっしゃいコウリンちゃん」


「ここにいれば無事だとか言ってたが本当なのか?」


 しゃがみつつ振り向く素振りをみせないリリーの背中を見つめながら肝心な点を訊く。そのためにここへ入ってきたのだからだ。


「そう。ここは王都の聖域である教会。罪を犯した人達が懺悔する場所なの。だから神のお膝元で赦しを乞う者は邪魔されないのよ。そう施設説明に書いてあったわ」


「言われてみればドアをこじ開けて突入してくる気配は無いな。ふぃぃ、助かった」


 その場に座り込み、緊迫した表情が一息つくとともに解ける。

 この大聖堂はPK不可領域の一つにして、悪名度の働かない唯一の場所であったのだ。


「いきなりだが、俺は懺悔が終わるまでずっとここで籠城しなければならんのか」


「懺悔……まではしなくても赦されるわよ。一番手っ取り早い方法なら、奪い取っちゃったお金を全部司教さんに捧げれば足を洗える良心的な設計なの。だから心配ないわ」


「それだけでいいのか! この金持ってるだけで罪悪感溜まるからさっさと手放したかったからよ。いや参ったな」


 そう言い、大金の詰まった袋を持って、最も位の高い者のいそうな奥の祭壇を目指す。

 そこでリリーを横切ったが、コウリンはどうしてリリーが素っ気なくこちらを向かないまま話していたのかを知る。


「リリーのやつ、なんか怪しい実験してるんだがどうした……」


 リリーの前には数々のフラスコが並べてあり、沸騰した濃い色の液体を本人がかき混ぜたり注いだりと弄っていたからだ。


「これが気になるのかしら? でもものすごく集中力が必要だから後でにしてね」


「お、おう」


 女性関連には無節操なリリーでさえ一切動じない姿を横目に、コウリンは一刻も早く悪名を晴らすため早急に進んだ。


「むむ、貴方は善良な血で穢れた十字架を背負われておりますね。しかし何も恐れることはありません。懺悔の印として12万モンを捧げればそれで……」


 悪名度を取り除く役割を持つNPCの司教が、コウリンの顔をまじまじ眺めつつ語った。


「いや待てったら待て。よくよく考えたら何故に奪った金を持ち主じゃなくそっちに返さなけりゃならないんだ」


 コウリンは素朴な疑問を呈する。


「いいえ、我々はお金を欲しているのではありません。お金という普遍的に価値ある物を捧げても惜しくない清廉な心こそが、善の証明なのです」


「こいつもよく分かんないこと言ってはぐらかしたな」


 ヨーゼフ同様、融通の効かない返答に眉間に皺を寄せた。

 AIによる台詞は、与えられた役割以上の範囲への返答は不自然になってしまうようだ。


 大まかなストーリーの無いキルラオンライン世界の整合性に関しての質問は野暮である。どうしても気になるならば、いっそ公式掲示板に投げかけてみるしかない。


「んじゃ、とにかく必要分は献金するぞ。これでいいのか」


 袋に詰まった12万モンを祭壇に置く。

 インベントリからアイテムを容易に引き出せるのと同様、取り出したい金額は一モンの誤差なく手に出せるのだ。


「承知しました。我が名にかけて祓いましょう。光あれ!」


 司教が掌を突き出して唱えると、周囲に光の柱がいくつか発現し、回りながらコウリンを包み込む。


「うおまぶしっ! 洗われるってより悪霊を浄化する系のやつだぞおい」


 あまりの眩さに反射的に腕で目を塞いだコウリン。

 よほど悪名轟くほどの所業を起こしてしまったので、その分聖なる光が太陽光のように強いと当てはめれば納得ゆくかもしれない。


 光の渦が消えたと同時に、悪名度は0にまで綺麗さっぱり無くなった。


「一時はどうなるかと思った……あのクソ観音像の扱いは十分注意しないといけないな」


 必殺技とは、周囲の人間をどれだけ巻き込んでも良いと心に決めた時に行える文字通りの切り札なのだと自戒する。


 その後、何かの実験をしていたリリーの所へ戻ったが、彼女の目の前に並べられていた色々な機材は既にインベントリに収納していた。


「やったわ。ポーションの調合に大成功しちゃった。ウフ」


 薄緑色の液体が詰まった小瓶をいくつか持ちながら、リリーは笑みを浮かべていた。


「お前がマッドサイエンティストみたいに作ってたのはポーションだったのか。というかポーションが作れるの初めて聞いたぞ」


 コウリンにはポーション等の消耗品は店にて販売しているのが常識であったため、斬新な方法での入手に驚いていた。


 そして、リリーから謎の実験についての真相が告げられる。


「そう。ワタシがさっきまで頑張っていたのはポーションの生産なの。実はね、ワタシ副業として薬剤師やってるのよ」


「ふ、ふくぎょう……?」


 コウリンには未知の領域なので、おうむ返しで聞き返していた。

ようやく総合評価1000……って果たして良いのか遅いのか……

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