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拳闘士とモンスター

誰でも最初はレベリング

「おい見てみろよ! あのだせぇ面したにいちゃんまだ素手でウサギと戦ってるぜ!」


「冗談だろ!? だとしてももしかしてなんかの縛りプレイとか?」


「んなわけねぇだろ。まだ二日目だってのにそんなことする奴はいねぇよ」


「だからよく見てみろって!」


 はじまりの草原を通りかかった三人のプレイヤーは、あまりにも珍妙な光景を目にし、思わず遠巻きから見物していた。


「どうしてもダメージ1しか通らないなぁ」


 そこには武器も持たず防具も初期装備のままであるプレイヤーが。プレイヤーネームはコウリン。

 相対している者はウサギの相貌でありながら大型犬並みのサイズはあるモンスターホーンラビットが物怖じせずに獲物であるコウリンを捉えていた。


「さっきたまたま出たクリティカルってのに賭けるか、それとも根気を見せるしかないか」


 ダメージの下限値は1であり、相手のHPも同じく100あるため、コウリンは文字通りダメージがあまり通っておらず、既に戦闘開始から三分が経過しているのにも関わらず敵のHPバーもたった1割しか減っていない。


 ホーンラビットは、攻撃の手が休んでいる瞬間をついて突進攻撃を繰り出した。


「うっ、てか向こうは5ダメージとかあのウサギ反則だ。もう俺のHPが30しか残ってないぞ、やっべえ」


 攻撃を躱せずあっけなく吹っ飛ばされ、コウリンのHPバーは黄色になる。

 このゲームのデフォルトでは痛覚こそ無いものの、吹きとばされて尻もちを付いた衝撃までは防ぎようがない。


 劣勢となった戦況に困り顔になってしまったコウリンであったが、本来このホーンラビットは強さでは最弱であり、初陣でも全力で立ち向かえば倒せる腕試し向けのモンスターのはずである。


 それなのにコウリンは既に三度も倒されスタータウンへ強制送還されてしまっている上、学習してるのかしてないのか無謀にもひたすら攻撃を繰り返して勝利しようと考えているのだ。


 一応、レベルが5になるまでデスペナルティが無いのが唯一の救いであるが。


「おーいおーい、そこのおめぇさん! なんにも身につけないでウサギとガチるとかアホじゃねえか!」


「古代人でも流石に武器は使ってるぜぇー!」


「持っている武器は装備しないと意味ないぞ。バイ店主のおっさん」


 拳闘士の職業は素手で戦うしかないと知ってか否か、プレイヤー達はそれぞれひとしきり囃し立てながらその場を後にする。

 このように赤の他人にもずけずけ物を言えてしまうとはあんまりだが、煽り行為はMMO業界では日常茶飯事であるため罰しようがない。


「……ふっふっふ。おいウサギ、今回は金に物を言わせて手に入れたとっておきの秘策があるからな」


 それでも、他人からの罵倒ごときに一喜一憂しないコウリンはちっとも耳を傾けず、ホーンラビットへ喋りながらインベントリにあるアイテムを取り出していた。


「リジェネポーションとかいうのを買っていたんだ。このアイテムの力でお前にリベンジしてやんぞ」


 コウリンが掲げた物は、町の道具屋から全財産をはたいて購入した『リジェネポーション(小)』であった。

 これは30秒の間だけ徐々にHPが回復する効果を持つ有用な消費アイテム。

 たかが最序盤のモンスターであるホーンラビット相手には勿体無いアイテムであったが、本人は一切躊躇せず上機嫌で使用していた。


「よし。四連敗を刻むと思ったかウサギ野郎?」


 とはいえ、そのおかげでコウリンのHPは40、50と少しずつ回復している。


「今度こそはっ倒せる。あたたたたーっ!」


 ダメージを恐れる必要がなくなり、一思いに右ストレートで連打し、1ダメージへの積み重ねにより、ついにホーンラビットはカラフルなポリゴンとなって消滅した。

 VRMMO初挑戦者のコウリンには思い出に残りそうな勝利である。


「ようやく勝てたぞ。序盤からいきなり強敵だったけど、この勝利で一歩でも強くなりゃなんとかなりそうだ」


 コウリンなりに道具を駆使して乗り越えた死闘、報酬も結構あるだろうと期待していた。


「……で、まだ何も起こってないが、処理でも遅れてるのか」


 ところがホーンラビットから得られたのは経験値5と3モンだけ、アイテムドロップやレベルアップは無し、序盤では貴重な1000モンの出費があったため、控えめに言って赤字である。


「おかしいぞ、やっぱり俺強くなってなくね? それに金も全部使っちゃったぞ」


 震える声色で何度もステータス画面を確認する。

 しかし無論レベルは1のまま。所持金は早くも底をつき、リジェネポーションを消費する戦法はもう使えないと判明した瞬間からどんどん顔が青ざめてゆく。


「えっ、さてはこれ詰んだパターンか?」


 己が初心者との自覚はあれど、思い返せば軽率だった買い物。

 もう終わりだと思い込んだ。


 しかし、鈴のような音と共に届いたシステムメッセージだけは見捨ててはいなかった。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 称号≪拳闘士見習い≫を獲得しました

 効果:STR+20

 獲得条件:拳闘士の初期装備でモンスターを倒す


 称号≪裸一貫≫を獲得しました

 効果:両手無装備時 与ダメージ+100%

 獲得条件:両手装備無しでモンスターを倒す


 称号≪根性の特訓≫を獲得しました

 効果:与ダメージ+1

 獲得条件:一回の戦闘で百回通常攻撃をする


 称号≪1の一撃≫を獲得しました

 効果:与ダメージ+1

 獲得条件:1ダメージでとどめを刺す


 称号≪塵も積もれば≫を獲得しました

 効果:与ダメージ+2

 獲得条件:1ダメージのみでモンスターを倒す


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「おわわわ!? 俺何か変なことやっちゃったか!?」


 怒濤の勢いでいくつも届く称号獲得のメッセージ。

 別段狙っていたわけでもなく、ただ単に偶然、数々の条件を満たしていたのであり、おかげでこの一戦でかなりのパワーアップを果たしていたのだ。


 それにパーティを組んでいる間は称号の条件が達成出来なくなるため、この称号は分の悪い戦闘に単騎で打ち勝った証にもなるだろう。


「なあんだ。称号? とやらを沢山ゲットしてるじゃんか。い、いやー計画通りだったわー」


 白々しい口ぶりで喋るコウリン。

 しかし心中では思わぬ収穫で少し喜んでいたりする。

 ごちゃごちゃしてる上に単語の意味はよく分からなくとも、何かを得られれば嬉しくなるもの。今後が楽になるんなら何でも良いと拳を握りしめていた。


「というかもうこんだけ色んなプラスの効果があればウサギとか恐くないかもな。むしろこっちから狩りまくれないかこれ? やったじゃん」


 先程徐々に青ざめていったのと同様、強化されたと気づき徐々に高鳴っているコウリン。

 事実正解であり、これだけ多くの補正がかかればアイテムなど使わずともホーンラビット程度なら簡単に蹴散らせられるのだ。


「どうりでVRMMO系のRPGが流行るわけだ、こりゃ面白いわ。なんか他にも称号がゲットできるかあれこれやってみよ」


 気分をリセットし、改めてウサギ狩りに乗り出したコウリンであった。

1%でも1割でもない1上昇

これだけなら上昇量が低いものの…

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