拳闘士とギルド
休みたい
ミルキーは暫し呆然としていた。
コウリンは苦戦していたのではなく、ただ相手のMP切れが起こるまで耐え忍んでいたと理解したのであるからだ。
なお本人にはそんな意図はなく偶然だったが、コウリンの憧れで盲目的になっているがため、心中を読む気などなかったのである。
「コウリン氏……わたくしが愚かでした」
「急にどうした」
同時に自分の考えの浅はかさを恥じ、崇拝するコウリンの強さを信じられなかった行動を戒める。
そして、自分がコウリンの領域に踏み込むには到底先だと教訓を得て、これからの志向を言い出した。
「わたくしは、これからコウリン氏に頼らず精進していこうと思うノデス! 自分の道は自分で切り開きます! でもちょぴっとアドバイスはくれないでしょうか。テヘヘ」
「げぇ。一人で盛り上がってるが、こいつの思考回路がとにかく読めねぇ……」
ミルキーの創る世界に理解が追いつかず、与える言葉をなくす。
「アドバイスとか言われても剣のアドバイスなんてねぇよ……あ、帯が解けそうになってる」
戦火の激しさが己の衣服に表れていたため、コウリンは固く締め直す。
そうした何気ない一連の流れを黙って眺めていたミルキー。
「帯……? なるほど! まずは形から入れってことナノデスね! 早速それっぽいお洋服を調べてきますので、しばらく待ってて下さい!」
何を思ってか、コウリンの帯を結ぶ動きをアドバイスとして解釈していたのだ。
「おーい、どこへ行くー。なんか元気な動物飼ってるみたいだ」
コウリンはミルキーの心中が最後まで分からず仕舞いだった。
ミルキーの思考としては、コウリンの拳が優れているのは不格好な柔道着をあえて纏い、拳の達人になったかのように自分を騙して身につけたと解釈したのだが、いくら何でも発想が飛躍し過ぎている。
そして、ミルキーのログインした通知が届いたかと思えば、すぐにこの場所までダッシュで帰還していた。
「ジャジャーン! お小遣いは減りましたが、やみやみな剣に合致したエレガントなお洋服が見つかりましたノデス! これから着替えてみます!」
意気揚々と購入してきた防具一式を取り出したが、コウリンは拒否反応から反射的に目を背ける。
「いやなんだそのこっ恥ずかしい服!? マジで着るつもりか!」
「呪いを受け入れるためには……形から呪いと一体になる。わたくしちゃんと覚えてますよ!」
「知らん! あぁ……若者の人生狂わせちゃったよ俺。ミルキーの親に償っても償いきれねぇ……」
予想の斜め上へ突っ走る過激な装備品だったため、それを着てはしゃぐミルキーを想像してしまい、コウリンは頭を抱えるはめになった。
最早コウリンはどうしようもなくなってしまったため、振り回す側が振り回される側となる逆転現象がここに起こっていた。
☆★☆
ある理由からメンテナンスを経て翌日。
王都の噴水広場には派手と地味を形容できそうな二人組がいた。
「よぉーし。コウリンのお誘いに成功! これで更に幅広い共同プレイができちゃうぞー!」
「上機嫌ね、ねいろちゃん。コウリンちゃんもこれからワタシといっぱいくっついて冒険できるなんて、幸せ者だワ……」
「うんうん。しかももう一人コウリンの知り合いさん連れて来るみたいだしラッキー! 棚ぼただね!」
光り出しそうなほど浮かれているネイロと、幽霊じみた暗さを醸し出すリリーである。
ネイロはフレンド全員、つまりコウリンとリリーの二人に『アプデで追加された超重要な要素を話すから噴水広場前に来てね。フリーな知り合いのプレイヤーも呼んでいいよ』とメッセージを送ったのだ。
「ね、ネイロ、こんにちはだな……こいつがどうしても着いてくって言ってたからつい……」
すると早速、強張った表情のコウリンと、もう一人プレイヤーがこちらへ向かってやってくる。
約束の時間通り、だがコウリンからは精神的な消耗をしているような雰囲気を漂わせていた。
「あらあら! これは女のコ特有の香りだわ!」
リリーの理屈不明なレーダーが、コウリンの連れてきたプレイヤーを真っ先に女性だと識別する。
なお既に目の前まで来ているので、見れば分かると言ってしまえばそれまでだが。
「……フッフッフ。運命に弄ばれし短命なる人間達よ、よく聞くと良いナノデス」
その女性プレイヤーは手を開けて顔に添えるポーズをし、おもむろに自己紹介を始める。
「この光穿つ暗黒のカラーに染まったわたくしの事は、破滅を招く剣に魅入られし邪眼の堕天使、ミルキー・オブ・シャドウと呼ぶがいい、ナノデス」
「オブシャドウは余計だろ。あとこの珍妙なキャラは俺が考えたんじゃないからな、な!」
ミルキーのまともじゃない言動をざっくり訳し、コウリンは切実な気持ちを加えていた。
まともじゃないのは言動だけでなく、パンクやゴスロリを彷彿とさせるドレスに、骸骨を型どった物々しい髪飾り、眼帯や片足だけのニーソックスと、目を覆いたくなるほど痛々しい外見であった。
これを人様の前へ紹介でもすれば絶句モノであろう。コウリンだって度肝を抜かれていたのだ。
「はぁぁん、ミルキーちゃん素敵ぃ……」
ところが、感性が大いに異なる者がこの場にいた。
「背は小さくて過激な衣装で、漫画ぎんいろコザイクの女のコにいそうな髪の柔らかさ……やぁん、滾ってきたわぁ」
「アナタ、その漫画読んでいるのですか!? わたくしも全巻読んでるほど大好きナノデス!」
「きゃっ。思わぬジャンルでミルキーちゃんと意気投合しちゃったわ」
「日常系漫画の良さが分かる方がいたとは! おお同士よ〜!」
恍惚の表情となったリリーと、口調が元通りになり人懐っこさを発揮するミルキーが両手でハイタッチを決める。
女のコ博愛主義者の自称は伊達じゃなく、リリーからは好評でごく普通に受け入れられていた。
「やっぱ変人同士惹かれ合うものがあるんだろうなあネイロ。おいネイロ?」
何故か動きが固まってるネイロの肩をポンポンと叩く。
やはりこの格好では気まずくなって当然だったか。そうコウリンが同情していると、微動だにしていなかったネイロは唇を震わせる。
「かっ、かわいい……尊い! なんなのこのキュートな子、もしかして私とお付き合いやちゅっちゅするためにやって来たの!?」
「あ、ネイロのハート陥落してるな」
ミルキーの一挙一動にネイロは感動と恋心をウズウズさせられたあげく、涙が筋となって止めどなく流れていたため、コウリンは平淡な声色で返していた。
「ダメ……私、ミルキーちゃんを見てたら脳みそおかしくなっちゃ……でもこの大天使ねいろんちゃんの方がもっともっとかわいいんだけどね!」
「おお、ネイロのナルシスト精神が正気をとりとめた」
鼻血を垂らして見惚れてしまっていたネイロを面白おかしく感じながら深く記憶に刻むコウリンであった。
□□□
「アナタは……炎上系アイドルのネイロ氏! 生でみられるなんて光栄ナノデス!」
「えへへ〜照れちゃうよ〜」
「仲良くなれて俺としても嬉しいぞ。こんな色々面倒な奴を似た者同士のネイロに押し付けられるし」
紆余曲折あったが、全員と打ち解けたので本題へと移る。
「えー、コウリンとリリーちゃんとミルキーちゃんの三人だけだけど、私のわがままでしかない召集に応じてくれてどうもありがとうございます」
「スピーチかい。お前は堅苦しい感じじゃないだろ」
やけに緊張を示しているネイロに、他人行儀にしなくても良いよう促す。
ちなみにコウリンはツキカゲも誘おうとしたが、どうやら用事があるために断わられていた。
コウリンからの励ましの一言を受け取ったネイロは、いつも通りの明るさを復活させて話し始める。
「じゃあ単刀直入で言うね、これから私が建ち上げるギルドに加入して欲しいのが今回の話の肝なんだ〜。はい拍手!」
「きゃあー! いいわよねいろちゃん!」
「ネイロ氏ブラボーナノデス!」
「いや冷静になれお前ら。単刀直入すぎてちんぷんかんぷんなんだが」
ファンのように盛り上がる二人をよそに、常識的な言葉で返すコウリン。
ギルドというワードの不明点よりも、女子特有の謎な勢いこそ教えて欲しかったようだ。
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