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拳闘士と克服

思えばこの章コウリンがツッコミ役に回ってるな

「ううっぐっ……目眩が……って俺ただ病院からワープさせられていただけか。だけどワープ酔いで吐き気が……うぷ」


 ステータス減少が治ったと同時に、有無を言わさず空間が歪んだような光景を味あわされていたコウリンは、王都の一角で病院と思われる建物の前に立っていた。


 一瞥するとプレイヤーやNPC様々な人間が行き交う大通りであったが、肝心のミルキーはいない。


「金髪の剣士さんはまだ療養中かな。ムードメーカーになりそうだし、フレンドになるのも悪くないとおもったんだがなぁ……一期一会ってやつか」


 そう名残惜しそうに独り言を呟き、その場から立ち去ろうと歩みを進めた時、真下で丸まっている大きな石のようなものを誤って足で小突いてしまう。


「あ、すまん」


「ホワッツ!? コウリン氏! 驚かそうとしゃがんでいただけなのに未遂の時点で仕返しするとは、武士の風上にも置けないノデス!」


 ミルキーが頬を膨らませて、ただの冗談だと思われるが意味不明な言いがかりをつけていた。


「お前かよ! 驚かした後で別れの挨拶でもしに来たのか」


「はい、そうナノデス。短い間でしたがお世話になったナノデス。最後にコウリン氏のお望み通り、フレンドになって差し上げませう〜」


「流石は令和の若者。ノリで態度でかくなる奴みたいだが……ともかく助かる」


 口元を緩くし、ちゃちゃっと登録を済ませる。


 コウリンがどこか嬉しげなのは、ネイロを始めとした曲者だらけの生活に華を添えたかったのだろう。

 彼女も別ベクトルで曲者の範囲内だが、誰もが羨む見れ麗しきイギリス系の少女であり、そんな人が自分を心から慕ってくれているのは悪い気がしなかったのである。


「グッド! あざっすナノデス! それではコウリン氏、邪魔にならない範囲でいいので付き添わせて下さい」


 ミルキーはパーティプレイの誘いを申し出す。


「いやなんでだよ。別れの挨拶はどうした」


「感動の別れの挨拶はわたくしが言いたかっただけです。一人なのにこのひ弱な守備だと心細いので、どうか守って下さいナノデス」


「相変わらずだな。……それもそうか。あまりレベルの無い俺でよければいいぞ」


 プレイヤーの心情は多種多様。コウリンのようにメリットやデメリットを顧みずやりたいように過ごしたい者もいれば、誰かと行動を共にしなければそれだけで不安になる者もいる。


 そう同情して、ミルキーとパーティを組んだ。



▲▼▲



「うっへぇ……体が鈍ってるみたいだこれ……。思った通りに動いてくれなくなるって気分が良いもんじゃないな」


 森でモンスターと遭遇したコウリンは、スキルで殴り飛ばしながら苦言を呈する。

 ステータスポイントはレベルダウン時にそれ相応の量を失ったため、レベルアップ時にSTRへつぎ込んでいたコウリンは、体にかかる重力の変化に戸惑っていた。


「コウリン氏はストリートファイトがお上手ナノデス! 拍手ナノデス!」


 それでもミルキーは裏表のないピュアな微笑みを表し、手放しで称賛の意をおくる。


「まさにムードメーカーだな。まあ無理に剣を振りたくないってんなら見物してるだけでもいい。けど別にお前に合わせて俺は避けられるから思っきり振り回してもいいんだぞ」


 コウリンは気を遣わせないよう言葉を投げかける。

 劣化したとはいえ、タイミングに合わせた回避はコウリンにとってお手の物である。

 特訓場では、既にミルキーの攻撃手段と攻撃速度の低さを見抜いたため、自信をもって躱せると誓えたのだ。


 だが、ミルキーは首を振る。


「いいえ、それはできませんノデス。強い剣があるからとあれこれ斬る、そんなのただの快楽殺人者がやることナノデス」


 彼女と同じ立場なら誰もが試してみたくなるであろう気持ちを抑制し、否定の意を示していた。


「お前、ちゃんと責任もって扱ってるんだな。いいことだ」


 そんな禍々しい装備品に反して人格者なミルキーに、コウリンは深々と感心する。


「はい! わたくし、やべーやつに堕ちるのは良くないと思うノデス! 謙虚誠実ナノデス!」


「もうやべーやつに片足踏み出してる気がするが……だがもう悩まなくて良いぞ、たかがそんくらいで悪人になったりしないからな」


「ほへ?」


 キョトンと首を傾けるミルキー。

 強大で呪われた剣にあれだけ苛まれていたが、その苦悩を解消できる訳をコウリンが告げる。


「いいか、ここは現実みはあるがゲームだ。確かに殺しは誰かの恨みを買うが、一応無罪みたいだし、この世界じゃれっきとした合法な手段なんだ」


「な、なるほどデス! ゲームとリアルは分別つけろということナノデスね! すぐにメモします!」


「そこまでせんでも……」


 どこからか取り出したノートのような用紙に万年筆で書き出すと、コウリンはやれやれと言いたくなる味わい深い表情で苦笑する。


 自分にも後輩がいるとこんな感じなのだろうか。

 そう妄想に耽っている最中、突如右腕に謎の衝撃が走る。


「まずっ、今どっかから攻撃されたな」


「コウリン氏!? 腕にもらってますよ!」


 ミルキーが駆け、コウリンに刺さっている細長い氷塊を引っこ抜く。

 異物のこれ以上の侵入を凌げたが、HPは減っているため、間違いなく何者かからの襲撃であった。


「耐えたのか! 耐えられたならもう逃げとくべきか……いやオレは強い、二対一でも渡り合えるッ!」


 遠目に見えるは、樹氷で造られたような杖を持った男が一人。失敗を払拭しようと己を鼓舞しているが、その目論みはコウリンから二人まとめて狩るつもりらしい。


「あわわ……コウリン氏、三十六計逃げるにしかずナノデス……」


「いや違うな、俺的にはPK返しのチャンスと見た。お前もやる気があるなら参戦してくれ」


 剣を振るうトラウマから身体が震えだすミルキーを横目に、コウリンは襲撃したプレイヤーへ疾風の如く走り出した。


 一方、動きが止まっているミルキーの視界では、コウリンが標的を追いかける姿のみを捉え映していた。


「コウリン氏ぃ……」


 ミルキーは、一迅の風により草木が揺れる音を感じながら呟く。


「バフ魔法を最大に! 氷魔法の吹雪を巻き起こす!」


「吹雪ってさっむいな……ここは回し受けの出番か」


 見た限りでは数メートルの距離から吹雪を浴びさせられ、【回し受け】で防ぎながら接近するも、殴りかかった瞬間には必ず跳んで躱されている。

 そしてある程度距離が引き剥がされれば、また吹雪が蝕み続ける。


 男の発言通り力の差が歴然であったが、それでもミルキーは、たまに襲いくる流れ弾から避ける以外に立ちすくんだまま動けなかった。


「オレは強い! 強くて強い! おまけに強い! シビれるぜぇ」


「俺と似たスピードタイプだなこれ。こっちのHPは半分、無くなる前に打開策を見つけられるか?」


 コウリンは脚を忙しなく動かしつつも思案する。


 彼の戦闘スタイルからすると魔道士、言動に反してチクチクした戦い方だが、MPの消費を顧みない銀の風を展開されるとなれば、それだけで突破口を探るのは厳しくなる。


 【回し受け】が全方位ランダムに軌道を逸らすおかげで稀に相手へ吹雪が返り、こちらのダメージは大雑把に計算すると6分の1になっているが、それでもコウリン側が削られてゆく量が多い。


「ひぃぃ。このままではコウリン氏がデスエンドしてしまうノデス!」


 その押し返せていない様子に、ミルキーは身の底から危機感を覚えていた。

 実際ミルキーの視点からは劣勢としか捉えられていない。

 それにコウリンが敗れれば、次に狙われるは自分になるだろう。


「わたくしもコウリン氏のように勇気とパンチ力があれば……いいえ、パンチ力は祈っても手に入りません。わたくしにあるのは……ソウ! 剣力!」


 早くも前向きとなり、キランと目を光らせたミルキーの起こした決意。それは強大な力を自覚して斬るのではなく、恩師を守るために呪いの剣を振るうことであった。


「ショウタイムナノデス! 行くですよー!」


 そうと決まれば、脚は羽が生えたように簡単に動く。

 抜剣しない限りはAGIは落ちないためコウリンが倒されるまでには間に合う。

 戦いそのものの抵抗は拭いきれてないが、生粋の前向きさが相まって、一度行動さえ起こせば後は衝動に任せられるような気がしてならなかった。


 そして木々をかいくぐった先に、コウリンが猫背でしゃがんでいる姿が視界に映る。


「ヘイコウリン氏! あなたのために、剣から課せられた縛りを克服するナノデス! チェストオオオオオオオオ」


「え、もう勝ったぞ。なんかこいつ勝手にガス欠起こしたから後はワンサイドゲームだった」


「……へ?」

覚醒イベントブレイカーコウリン

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