表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/52

拳闘士と仮想世界

「すっげぇ。どこもかしこも現実そっくりじゃん。毎日居ても飽きなさそうだぞ」


 眩い光が一瞬にして消え、どこか西洋を感じさせる異国情緒溢れた町であるスタータウンへと転送されたコウリンは、非現実ながらも現実に近い光景に目移りしていた。


 はじまりの街と比喩されるこの街は何もかも新鮮で、手さぐりでのルールの把握が楽しめそうなチュートリアル的な場所だ。

 NPCが物珍しげに見つめていても気に留めず、むしろ軽く挨拶をしてどんな返事が来るかを体感している調子ですらある。


「良いところだなここ。初対面の俺相手でもまともに受け答えしてくれるってのが特に良い……と言っても俺自身、自分の事なにも知らなかったな」


 しばらくして落ち着いてきたため内部の情報を確認するしようとコマンドをいじっていると、偶然にもステータス画面の項目が見つかり、現在のプロフィール情報がでかでかと表示された。


━━━━━━━━━━━


 名前:コウリン

 職業:拳闘士


 所持金:1000モン


 HP 100/100

 MP 100/100


 STR:10

 DEF:10

 AGI:10

 INT:10

 LUK:10


 装備

 右手:なし

 左手:なし

 頭:なし

 体:なし

 脚:なし

 靴:なし

 装飾品1:なし

 装飾品2:なし


━━━━━━━━━━━


 美しくも間違ったように統一された10の数字、防具の類はなしと表示されているが、要約すると現実世界からここに来た時の服装のままの意味である。

 しかし、これでまともな戦闘を行えるかをはっきり言えば否、それに初期装備の武器すら選ばなかったとうっかり漏れてしまえば掲示板の笑い者だろう。


「こっから色々見れるってのは覚えたぞ。まずやるべき事は……まあ後で考えればいっか、今なら何しても取り返しつくだろ」


 そうコウリン持ち前のポジティブ精神で細かい考え事を放り投げ、この町の各地を巡り歩き始める。


「楽しすぎて当分飽きなさそうだ。ここに永住できれば言うことなしなんだけどなぁ」


  他のプレイヤーやNPCがたまに振り向く中、裏路地辺りまでふらふらし、試しに寝転がってみたりと存分に自由を満喫し、石造りの地面の感触を全身で味わう。

 現実では白い目で見られそうな行為も、ある程度は許容されるのもVRMMOが誇る魅力であるだろう。


 すると、どこからともなく一人の女性がトコトコやって来ていた。


「いたいた。お兄さん新規の人だよね~?」


「ん? そうだな。まだまだ新人だ」


 活発な声へ振り向きながら応答する。


「やっぱりだ! 私の名前はネイロ、でもそのまんまじゃ同じプレイヤーなのに他人行儀って感じだし、かわいいかわいいねいろんちゃんって呼んでいいよ~」


 聞かれてもないのに唐突に自己紹介を行ったツインテールの女の子は、今時流行りのアイドルのようなヒラヒラで露出度の高い派手な装備に身を包んでいた。


「いや誰だよお前。あと俺は男じゃないからナンパはよそでやれ」


「うっそキミおねえさんだったの!? 変わったアバターだね。ほらほら、私の超絶キュートなスマイルに免じてお喋りしようよ~」


 ネイロは自己愛に包まれた独特のコミュニケーションと、指を頬に当てニッとした笑顔でバッチリ決めた。

 出会って間もないこの段階でも、よっぽど自分の魅力に満々の自信があると手に取るように分かってしまう人である。


「……まあお前の笑顔はともかくして、俺になんか用でもあるのか」


 ネイロが自分のアピールを止めないために、胡散臭さを感じながらも早速押し負けてしまったコウリン。


 周囲のプレイヤーからは「あいつまた初心者に絡んでやがるよ」「あの男かわいそすぎだろ」の言葉と共に憐れみの目が向けられていたが、事実、彼女はKLO(キルラオンライン)の初心者にイロハを教授してはチヤホヤされて自己顕示欲を満たそうとしているハタ迷惑なプレイヤーであるのだ。


 同時にβテスト版をプレイ済でありレベルは20とサービス二日目にしては高い部類であるベテランプレイヤーの顔も併せ持つが、コウリンには高レベルの基準が分からなかったために、ただ眉間に皺を寄せているばかりであった。


「ありがとー! いやあ顔がかわいいってお得だねっ! でさ、いきなり本題なんだけどさ、私とパーティ組んではじまりの草原のモンスターとバトらない?」


「なんだそのお誘いか、それなら……」


「あそこなら初心者の練習場だからやられる心配無いし、この超絶ビューティーなねいろんちゃんが、いろんなコトや本番に使えるコツとか教えてあげちゃうよっ」


「話させろよ」


 ネイロは陽気さを装いつつ、口を挟む暇を与えないパーティー勧誘で、コウリンをゴリ押しで承諾させようとする。

 押しに弱い者は断れずに主導権を明け渡してしまう。ネイロお得意の手口であった。


「……気持ちは嬉しいが、今のとこは一人でやっていきたいから遠慮しておく」


 コウリンは一蹴する。

 見知らぬ人間と行動するのはまだ気が引けるようだ。


「え~。そんな冷たくしないで〜。別に見返りとかの要求はしないから大じょ……」


「ネイロだ! あそこにネイロがいたぞ! てめぇら集まれ!」


 その時、男性の怒声が響き、急激に足音が大きくなってゆく。


「ヴエッ!? なんで見つけてきちゃうの!? 忙しくなっちゃったから続きはまた後で。フレンド申請送っといたから、バイバーイ!」


 ネイロは驚きながらコウリンに言った後、すたこらと裏路地の彼方まで逃げて行った。


「そんじゃあな、なんなのか知らないが頑張れよ。仮想世界のわりにカツアゲされてるような臨場感あったなぁ」


 コウリンは安堵のため息を溢した。


 まもなくして、怒声を発した男性と、仲間と思われるプレイヤーやNPCの衛兵達が横切ったが、彼らはとある恨みからネイロを協力してPKしようとするプレイヤー群である。


 九死に一生な程のピンチではないが、幸運にもネイロから逃れられたようだ。


「おっと、のんびりしてるとまた変なのに絡まれるな。草原とやらで戦ってこよ」


 一言呟くと、目的地となった草原地帯へとマップを頼りに向かうのであった。

サービス初日だと人でごった返しそうだったのでつい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ