拳闘士と友人と
誤字報告を見て自分がどれだけ見返す時間もなく執筆していたかよく分かる
翌日、引き換えの決心がついたコウリンだったが、ポイントは無期限で残せるという仕様があったため、無計画に全て使うのはあまり得策ではないと考え、とりあえずはネイロに勧められた称号だけを手に入れる。
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称号≪HPアップ≫を獲得しました
効果:HP+100
条件:イベントポイント引き換え限定
称号≪MPアップ≫を獲得しました
効果:MP+100
条件:イベントポイント引き換え限定
称号≪STRアップ≫を獲得しました
効果:STR+10
条件:イベントポイント引き換え限定
称号≪DEFアップ≫を獲得しました
効果:DEF+10
条件:イベントポイント引き換え限定
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あらゆるプレイヤーからパッシブと呼称されるこの四つの称号は、参加賞の500ポイントを余り無く使用するが、満遍なくステータスの底上げが出来るため、あって損はない。
「いい感じだ。特にMPなんかスキルをバンバン使ってるとすぐ枯渇してるからなぁ」
そう呟き、ステータスの変化を確認している最中、どこからかガチャガチャと小煩い足音が聞こえてくる。
コウリンは、そんなどうでもよさそうな出来事は見向きもしない性格だったが、足音が段々大きくなり、更に自分へと向かっているとなれば話は別。
「あ!! やっっっっと見つけたやで光凛! 卒業式から二年か三年ぶりやがワイのこと覚えておるよな?」
「いやどちらさまだ? 二位にもなると、どうやら俺の名前も知れてくるみたいだな」
急に知人面してくる武者鎧の男が、名を呼びながら短距離まで近づいていたため、極力あしらっておこうと思考をまとめる。
コウリンには見に覚えのない人物であったためだ。しかし、相手の一言により本当に知人であると判明する。
「今のはワイが悪かったわ。ここじゃリアルとかけ離れたアバター使っとるかんな。ワイは夏冬や、これで思い出せたか」
「なるほど夏冬だったか。いくら俺でも友人の名前までは忘れてないぞ」
「おおお! 名前も忘れる薄情な奴やと勝手に思い違いしとってすまん! それならフレンド申請は何故に送ってくれへんのや? 手紙にはフレコ添えてたはずなんやが……」
「あ、ほんとにすまん。手紙は完全に忘れてた」
「がくっ、そこは昔と同じかい。変に心配して損したわぁ……」
懐かしい友人との再開に気持ちが大盛り上がりの夏冬と、関心があるのかないのか普段と変わらない口調のコウリン。
性格どころか性別まで逆な二人なのに、どうしてここまで気の合った仲にまでなったのかは本人達ですらまるで把握しておらず、かつての同級生からは『虎と鮫のペア』だの『似て非なる者同士』だのと評されている。
だが、その奇妙ともいえるチグハグさが功を奏し、独特な間柄を作り上げたのであろう。
「これでフレンドだな。しっかし、暑がりの夏冬がこんな暑苦しそうな装備つけてるとかどんな風の吹きまわしだ?」
しれっとフレンド登録を済ませたコウリンが疑問を口にしたが、それより前に夏冬が手で制する。
「おっと、ここじゃワイの名前は『ツキカゲ』とプレイヤーネームで呼ぶのが常識や。覚えといた方がええで」
「そうなのか、じゃあ夏冬」
「そんなとこも変わっとらんのう。まあええが」
げんなりとしながらも友人の調子が変わりない様子で、どこか嬉しそうな夏冬改めツキカゲ。
彼が第一に懸念していたことは、社会人になって性格や人格が女性らしく変わってしまったのではとの点に尽きていたからだ。
そして、自分がサムライの職業であり、守りを軸にしているために重装備なのだとコウリンの疑問に答える直前、彼は突如として冷え込むように顔が強張っていった。
「……は? どうしてあのグル野郎がここにおんねん……」
「お前、急にどうした?」
「警戒しろコウリン。おめぇさんこれから殺されるかもしれないで」
そう針があるような強みを効かせた声で忠告し、前方にいる人物を見据え、武器である刀の柄に手をつけ臨戦態勢を整える。
「街にいるだけで殺されるって、さてはネイロみたいにやらかしまくるプレイしてんのか」
見知った友人の言葉なので、コウリンは耳をほじっているだけで話半分だったが、その危惧した人物が白昼堂々と大通りを歩いてやって来ていた。
「君がバトルロイヤルで二位の好成績を納めたコウリンさんだね。知らない人が珍しいと思うけど自己紹介するよ。僕はグリードリヒ、今日は君と話をしたくてここに来たんだ」
一般的な目線からは手放しでハンサムと称されるだろう顔立ち、目線を下に向ければレイピアのような細剣を携えた、容姿端麗な男性であった。
公認プレイヤーであるこの男の炎上具合は、ツキカゲも認識している。
だからこそ、雲隠れせずわざわざこの場に足を運んだのが驚きであり、何か企んでいるのではと危惧したのだ。
「ええかグリードリヒ、コウリンは運よく二位に上がれただけでペーペーの初心者や。なんかの僻みで潰しにかかるようなら、あんさんがここにいるっての王都中に響く大声でバラすで」
ツキカゲは言葉を刃にして脅すように言う。
未だ公式と繋がりのある疑惑が晴れてない以上は、彼を敵視するプレイヤーは非常に多い。
したがって、順風満帆なコウリンが目撃者がいない状況でみすみす暗殺されないよう、公認プレイヤー相手に勇気を振り絞って言い出せたのだ。
「ふふ、そんな喧嘩腰にしないで欲しいな。ただ二位に入賞したコウリンさんへ挨拶しに来ただけで他意は無い。すまないが、コウリンさんの通訳者でないなら君は席を外してくれないかな」
ところがグリードリヒは、声優でも活動出来そうな透き通った声でやんわりと返す。
そのすました態度に、ツキカゲは憤りを表情に表しつつあったが、コウリンは腰を上げる。
「すまん夏冬、この人と一対一で話すから喋らないでくれ」
「おめぇさんがそう言うなら気ぃつけてくれや。だがアホ発言すりゃホンマに死んでまうで……」
コウリンのコミュニケーション能力に気が気でなかったが、この場の流れは潔く預けることにした。
「コウリンさん、ますは二位入賞おめでとう。生放送の後に君をまとめた動画を見ていたけど、裏技を裏技でやり返す決着のつけ方は惚れ惚れしたよ」
「そいつはどうもだ。俺はバイトで忙しいかったから見る暇無いんだが、まあこの後ハム酢豚と一緒に見てくるわ」
「ハム……すぶた? なんだいそれは、食べ物のことかい?」
「俺の飼ってるハムスターの名前。動画でもいいからお前も小動物とか見てみればどうだ? 毎日のストレスが帳消しになるくらい癒やされるぞ」
コウリンは知らぬ間に相手の話を断ち切り、何故かペットの紹介へと移行していた。
「いいでコウリン……あいつの下らん会話に乗らんでええ……何も考えずマイペースにいくんや……」
ボソリと呟くツキカゲ。彼にとって去年送ったハムスターと仲良く過ごせているより、コウリンを言葉巧みに懐柔するような展開だけに気を払っていたのだ。
ところが、グリードリヒの紳士的な様子が急変する。
「はぁ? ペットだって? どうしてKLOと関係ないリアルの話を持ち出すのかい君は。今のは失言に値すると分からなかったかな」
コウリンは心なしか、彼の中で何かが揺れ動いたように捉えていたが、構わず言い返す。
「いやいや、いくらゲームばっかやってても、風呂入ったり飯食わなけりゃ何も始まらないだろ。切っても切れない関係なんだからそんなガミガミすんなよ」
「確かに君の意見にも一理ある。だけど他人からリアルをとやかく言われる筋合いは無い。訂正する気があるなら聞き流したことにするけど、どうだい?」
グリードリヒは丁寧な言葉遣いこそ保ったものの、ツキカゲの恐れていた一触即発な空気と化していた。
「コウリン……はよ謝るんやぁ……」
このままでは自分も巻き込んだ一方的な戦闘は勃発。
口を挟むなと忠言されてながら、はっきり口に出したくて苦心していたその時、全く別の方向からも危機が迫っていた。
「よぉ、運営の手先グリードリヒよ。会いたかったぜえ」
「さすがのグリードリヒくんも、この人数相手には骨が折れるだろうよ」
「社会的にもPKしてやんよ、ヒヒ」
ぱっと見た限り十数人のプレイヤーが、グリードリヒへの恨みつらみを口ずさみながら、敵意を露わにしてこちらを取り囲んでいたのだ。
悪名轟く輩へ、名目をつけて制裁したくなるのは有りうる心理だろう。
「げえええ! ワイとグリードリヒは赤の他人や! 頼むからワイはやめとくれ〜!」
「丁度いいね。コウリンさんと君はそこでじっと眺めていて欲しい。下らない言いがかりを突きつける人の末路がどうなるかをね」
だがグリードリヒは臆するどころか、むしろ出向くまでもなく実験台が現れたため楽しんでいそうな様子で剣を抜く。
そこから先は、紛うことなく一方的な虐殺であった。
緩急をはっきりさせた剣線、首を確実に切断する精密さと切れ味。十二人も襲いかかっていた敵プレイヤーは死体と化し、真っ黒な断面から彼岸花のような形で血を噴射し出す。
「僕が一位になれたのは、職や寝る間さえも捨て去ってリアルをゲームに注ぎ込んだだけさ、誰よりもね。だから生活も賭けずに愚弄してくる者は許さない」
グリードリヒのプレイヤースキルは、まるで極寒の地に身を置いて鍛えたかのような、正真正銘戦闘のプロであった。
傘についた水滴を払うように剣を振った後、二人の形相を拝むために振り向く。
これで研鑽の差が否が応でも理解できたはずであった。
「あ……コウリ……」
予想通りツキカゲは言葉を失い呆然としていた。
「おっとすまんすまん。どさくさに紛れて勢いでついトリプルパンチしてたわ」
だがコウリンは対照に、敵の一人を拳で打ち倒していたのだ。
「へぇ……一人仕留めていたとは、やるね。でもすまないが生放送に呼ばれているから今日はここまで。縁があったらまた会おう」
そう言い、敵か味方かグリードリヒは去って行った。
運営から招集されているのは本当である。しかし、二人から離れたグリードリヒは顔を俯かせる。
「コウリン、まさか僕の目を欺いて非服従の意を示すとは。きっと早かれ遅かれ僕と比肩するレベルにまで大成する。全て解ったよ」
蹂躙する前に己が指示した「じっと眺めていて欲しい」の言葉と、背くように行動していたコウリン。
人は重圧に屈せば意識せずともその通りに行動してしまうものだが、今のでコウリンの自分に対する姿勢が見てとれたのだ。
「さっきのグリグリドリドリって奴、パフォーマンスでもしたかったのか?」
「グリードリヒや……本人の前で間違えたらワイはフォロー入れられんで……」
当のコウリンには知る由もない。
現実世界で何かと縁のあった友人との再会ならば、いくらコウリンでも手放しに喜ぶわな
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