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拳闘士と噂

猛者達よ

コウリンだけが生き残ってしまった

「コウリン二位を祝してかんぱーい!」


 人目を避けるためにあえて寂れたバーに入店した後、ネイロの陽気な掛け声により、三人はグラスをぶつける勢いで合わせる。


「そうか、俺って二位になってたのか。ゲームとはいえ不良の喧嘩みたいに色んな奴殴りまくったし、しばらくはPVPはこりごりだな」


「おつおつ〜! まさか私達三人の中で最後まで残るのがコウリンだってのは驚きだよ〜。このねいろんちゃんが直々にプロデュースしただけのことはあるね!」


「お前アイドルからプロデューサーに転職したのかよ! 調子の良い奴だ。やれやれ」


 淡白なテンションなコウリンは、下戸であるためお冷を飲み干していた。

 バトルロイヤルで行った最後の倒立にはなんの意図も無く、楽しめれば負けても良いと考えただけの行為であったので、それが決め手となったのが未だにしっくりきていないのだ。


 なお夜の部の全容は公式が動画サイトに公開し、それを視聴した掲示板の住民達の話題は、主にコウリンで持ち切りであるとは知らないため尚更である。


「ウフフフフ、コウリンちゃんはよく頑張ったわね。戦い方は女のコっぽくはなかったけど、ワタシ達の思いを背負って戦っていたと考えただけでクラクラしちゃいそう……」


 リリーは一口飲むと、コウリンをそっと抱き寄せる。


「クラクラするってことはもう酔っぱらってるだろ、さてはよ。おいこら無駄にベタベタ引っ付くな」


「今日は頑張ってコウリンちゃんの苦手を克服したいから、もう少しこのままでいさせて?」


「こんな横からコアラみたいにしめられても暑苦しいだけだっての……お? 意外にもリリーの肌ってひんやりしてるんだな。これは今夜みたいな暑い日に快適かもな、ハハ」


 同性から間隔なく密着された状態だったが、思わぬメリットを見出したため悪い気がしていないのであった。


「コウリンとリリーちゃんやっと仲良くなれたみたいで何よりだよ。いや〜、いつの時代も女の子同士のいちゃいちゃは目の保養だね〜。ほほえまほほえま」


「……あら?」


「でもでも、ねいろんちゃんだって同じ女の子も魅力しちゃう綺麗でスタイル抜群の最高な女の子だけどね!」


 蚊帳の外にされたのが気に留めたのか、いつも通り可愛さの自覚した言葉で張り合う。

 その言葉に対し、電流が放たれたように過剰な反応を示したのがリリーであった。


「ねえねいろちゃん、そんなに女のコ同士の触れ合いに興味があるなら、次の抱擁はねいろちゃんの番にしてあげるわよ。それとも、ラブのついたホテルで同じベッドで寝てみたい? もう元に戻れないほど、刺激的でクセになっちゃうワ?」


「ウェ!? えんりょ致します。私はごくフツーの女子なので」


 妖しげな誘いに反射的にノウを示すネイロ。


「いやネイロ、さっきのは流石に擁護出来ないワードがふくまれていたぞ。さっさと認めちまえばいいんじゃないか?」


「認めるって何がさ!? ねいろんちゃんにはそんな一部の業界から大人気になりそうな趣味はナイからね!?」


 ネイロはコウリンの一言により、リリーとの良からぬ妄想が加速してしまったため、茹でダコのように真っ赤になりながら平静の無い声色となる。


 彼女の実態としては、ネットを漁ってるだけあってそのような方面の知識はあれど、経験はおろか恋人が居た時期でさえ一度として無い。そのため、リリーの述べた刺激的な体験には疎いので赤らめても仕方ないだろう。


「ほ、本当にナイから誤解しないでね……? オホン! これ以上話続いたら私の精神が持たないからここまで! これからするのはイベントポイントの話。これが交換できるもの一覧だよ」


 そう言い、チラシのような紙をテーブルへと置く。

 そこには限定品のスキルや称号の名や効果が載ってあり、所々に荒い筆跡で赤く丸がつけられていた。


「わぁ、この丸みを帯びている文字は全部ねいろちゃんが書いたのね」


 リリーが紙に顔を近づかせ、何故か鼻をチラチラ動かして嗅ぐ。


「お前そんな理由で分かるのかい。ともかくだ、これみよがしについてるマルのやつと引き換えろってことか」


「話が早くて助かるよコウリン。そ、私とリリーちゃんの500ポイントで一番引き換えで無難のものだけ○をつけたんだ〜。コウリンはポイントいっぱいあるけど、まずは私と同じのを引き換えた方が良いよ」


 ネイロは得意気に説明する。

 これらの多くは引き換えずとも正規の手段でも獲得可能なのだが、ステータスの割り振り方やプレイ次第で有用なスキルが諦めざるを得なくなる場合が多々ある。


 なので、あまり多く選べないプレイヤーはいるが、救済措置とばかりにこうしたラインナップとなっているのだ。


「ありがと、ねいろちゃん。ワタシこういうの詳しくないから助かったわ」


「それでオッケー。奇をてらったアイテムと交換しても、かえって損するだけだからね〜」


 ネイロとリリーの考えはすぐに一致し、酒場での会談が終わり次第交換するの考えに至った。


 ただ、その一方でコウリンには以前から気にしてる点があったのだ。


「そうだったな。あんだけイベント楽しみにしてたお前ですら、惜しいとこで敗退しちまっ……いや、聞かなかったことにしてくれ。こんなつまらん過去は忘れて楽しく飲もう」


 漠然とだが、コウリンはネイロの心中を曲がりなりにも察し、やるせなくなっていた。

 彼女は公認プレイヤーを目指した結果、一回の失敗で貧乏人に堕ちたかのような有り様が見ていられなくなっていたのだ。


 しかし、ネイロは見透かしていたかのように口を開く。


「コウリン知らないの? 公認プレイヤーなんて元から無かった説が見つかったのがさ。チャンピオンになったグリードリヒが運営とグルだった可能性大だって絶賛炎上中なんだよ」


 散々な自分のイベント結果はお構いなしな雰囲気で、信じ難い衝撃の真実を告げていた。


「おいちょっと待て、んな出来レースみたいなのがあるのかよ」


 コウリンは力任せにグラスをテーブルに置く。


「ううん。まだ白寄りのグレーだから確定まではいってないよ。だけどあまりにも非難轟々なせいで公式は火が消えるまでノーコメントにするつもりっぽいよ〜」


「ノーコメントってイエスともノウとも言わないのかよ」


「ねいろちゃんは公認プレイヤーというエサにパクっと釣られちゃってわけなの。どれだけ頑張っても始まる前から結果は決まってしまっていたのよ。誰も一位にはなれないってコトが」


「まだ決めつけ感はするが、普通に酷いな……」


 コウリンは滅多に動かさない眉間にしわを寄せた。

 思い返してみれば、一位の報酬として提示されている公認プレイヤーとは具体的に何なのかが公開されていない時点で邪推されて然りである。


 ただグリードリヒの勝因はレベルに物を言わせてひたすら倒すのみとごく自然であるため、彼へあることないこと書き込むほど加害者へ加担するだけになってしまう。


 よって情報通であるネイロは、噂が黒である前提だが、怒りを通り越して静かな呆れの感情で思考が統一されていたのだ。


「ま、このご時世、射幸心煽ってイベント盛り上げるのはよくある話だよ。それのせいで負けた悔しさがもう吹っ飛んじゃったから、私にはある意味都合良い噂だよね」


 そう皮肉を込めて語ると、コウリンのグラスを取りグイッと飲む。


 コウリンが二位となった話題の割に、この酒場まで不自然なほど人が押し寄せて来ないのは、現在進行形でそちらの話題に持っていかれてしまったからである。


「証拠がない限り何とでも揉み消せるってことか。ってネイロその飲み物俺のだっての……」


「えへへ〜メンゴメンゴ。私が奢ってあげるから好きなだけおかわり頼んでいいよ〜」


「ウフフ、そうなの……じゃあ代わりにワタシはねいろちゃんのグラスに口をつけて飲もうかしら。おいしぃ……」


「うわぁ。リリーちゃん安定してるね〜」


 リリーが恍惚な表情を浮かべた様子を皮切りに、三人はもう公認プレイヤーのような後ろ向きな話題は出さなかった。

 ただ、運営への批判や中傷は他のプレイヤーに委ね、三人は歓談が飽きるまで楽しく飲み交わしているだけにした。


 それにコウリンの二位は見方を変えれば実質的なトップ。ネイロはコウリンの成長に満足気であったのだ。

『期待!』『続け!』と思いましたらポイントでの評価で催促可能です

お陰様で日間ランキングに安定して入れて有り難い限りだぁ…

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