拳闘士とイベント戦その3
ブックマーク100に届きました
VRMMOのジャンルに手をのばして良かったなと思う限りです
大富豪が放棄したような屋敷の頂上、つまり屋根では地の利を駆使し着々とポイントを稼ぐプレイヤーがいた。
「ダハハ! あのネイロンを一発キルとかやるじゃねえか相棒!」
「あたぼうよ! 見よ、オレの順位がなんとなぁんと三位だ! 賞金30万モンはこのオレのために約束されたも同然ってわけだァーッ! ブァーッハッハッハ!!」
そう言い、仲良さげに大口開けて笑い散らす二人の男性プレイヤー。残り時間は短く、彼らの逃げ切り勝利は現実の範疇となっている。
愉しげに呟いている者は弓使いの職業であり、残り時間僅かとなってから暫定三位に上り詰めたダークホースである。
彼は一方的な攻撃が可能なこの場所から、通りかかるプレイヤー達を正確無比な命中精度とSTRで次々と射抜いていたのだ。
反面、最大火力を出すには矢を大きく引かねばならないのが欠点だが、屋根の上に陣取られては先に標的のHPが持たないだろう。
「おっといかんな、確かネイロンの横にもう一人変なのがいたはずだ。アイボーよ、そいつは今どこにいるんだ」
もう一人の標的であるコウリンの位置を訊く。
彼らが最優先で倒さねばならない対象は難敵のネイロであるため、それ以外のプレイヤーは懸念材料が取り除かれた後で順次始末する方針であった。
「覗くんでちょっと失礼。ふむふむ、どうやらいないようだ。恐らく屋敷に転がり込んだんだと思うぞ」
一瞥して眺めたフィールドの様子から、コウリンがどこにいるかを推測した。
「そうかそうか! じゃあそいつはアイボーのキルポイントになっちまうなァ! アイボーが屋敷内に仕掛けたトゲ罠地獄の餌食になってヨォ!」
「それだけじゃないぜ、身動きがとり辛くなるよう強力なトリモチトラップも撒いてある。そうすりゃ跳んで進むことはおろか、針の上から逃げる体力まで奪われたまんま力尽きるってわけさ」
「さっすが我らがアイボー! 罠を張る能力にかけちゃ一億光年に一人の逸材だぜェェ!!」
「ダハハ、そりゃどうも。光年って年数じゃなくて距離だけど」
コンビ相手を過剰なまでに褒めちぎる。
このアイボー呼ばわりされている男は、罠使いの職業に就いているサポート役のプレイヤーだ。
この廃屋を拠点にすると決めた時、万が一相方が仕留め損なって侵入を許した際の保険として屋内に無数の剣山を仕掛けたため、突入した相手は逃げて射抜かれるか刺され死ぬかの苦渋の二択が迫られる寸法なのだ。
「ブアッハ! オレとアイボーの相性はカレーと福神漬け以上に抜群! もう誰にも矢と罠の試練を突破することは誰にも、アできン!!」
「結局乗り越えてくる奴はいなかったし、オレが改造した鉄壁の要塞に攻略法は無い。外壁には罠を仕掛けられなかったが、まさかよじ登ってくるようなクライマーめいた奴などこの世にいねぇだろうよ。アッハッハッハ」
「アッハッハッハ亀裂走りまくりの壁とか簡単に登れたぞ」
「簡単に登るなぞ……ってウウウエェェェ!! だれかいるだとーッ!?」
目ん玉が飛び出そうなほどかっ開いて仰天する。
自慢の相棒の隣で、怪奇現象のように佇んでいるコウリンがいれば無理もない。
それに何より、自分自身もこの場所への到達すら至難の業であるのに、正攻法を無視して忍び寄った者がいたのは青天の霹靂だろう。
「アッ、アイボー! 早くこいつから距離をとれーッ! この位置ではオレの矢が誤射してしまうーーッ!」
必死の形相で叫ぶ。
この場所は相方への誤爆を防ぐために罠は張られていなかった。罠のない罠使いがまともに渡り合う術はないのだ。
「まだだぜ。近づかれた時の最終手段、闇市で買ったこの戦闘用ニッパーでコテンパンに……速い!?」
「速いぞ、AGIにめっちゃ振ったおかげだ。うららららららららららら!」
鈍器を振るう前にコウリンの俊敏な連打が放たれ、すんでのところで金槌を用いてガードする。
「アイボーッ! 今すぐそいつの息の根を止めるッ! だから離れろと言っとるのが分からんのかーッ!」
「落ち着くんだ、ぐうっ。こういう時だからこそ勝ち急ぐんじゃないぞ相棒。あの拾った武器とスキルを組み合わせて確実に仕留めるんだ。しまっ!」
ついに押し負けてしまい、身を守るための金槌が大地へと吹っ飛ばされる。
こうなってしまえばコウリンの独壇場。
「うらっしゃあ! 一人目完了」
「アイボオオオオォォォォォォォォォッ!!」
反撃の隙を生じさせない高速のパンチにより、一瞬でHPを0まで削りきったのだ。
「うーん。あんまりキルポイント増えてないってことは、そっちの近所迷惑な奴が中トロだな」
「ザシュトロだこのスカタンがアアアア!!」
「落ち着けって相棒……オレの言った通り、確実に勝利を手にするんだ……」
消滅しゆくアイボーは、激昂するザシュトロへ冷静になるよう促す。
「……承知したッ! 今こそこいつをネイロンと同じ墓地へと葬る時ッ!」
完全消滅する前に通じたようで、何かとオーバなザシュトロは相棒の指示通り矢を別の物へと換装し、すかさずスキルを使用して放つ。
「こんなふわふわしてる矢なんて躱すまでもないぞ」
ただ、どういうわけか矢はスピードが極限まで落ちていたため、コウリンに見切られグーで握り掴まれる。
「ってなんだこれ? 矢じゃなくて枝?」
ところが、コウリンが掴んでいたのは矢ではなく、ただの棒きれ。
それだけなら問題無いように思える、しかし重大な問題点はこの時点で起こり出していたのだ。
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右手装備が無し→ひのきの片手棒へと換装されました
アイテム名:ひのきの片手棒
部位:右手
レアリティ:☆
効果:STR+1(装備不【接着状態】
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正真正銘ただの棒であったが、中途半端に付け足されたような四文字が、コウリンに起きた異常事態を物語っていた。
「……愚か者め、掴ませるのを誘うためにわざとスロウな速度で放ったことに気ィーづかんとは! 貴様の力は、運営も知り得ない超強力な裏技で封じさせてもらったーーッ!」
「離せねえっ! それに身体が重い気が、まさかこの棒きれを装備させられているってことか、ありなのかこれ」
コウリンは瞬間接着剤を塗られたように手が開かなくなり、装備不可の武器を強制的に掴まされている。
よって右手は素手ではなくなり、主力である称号の半数やスキルは発動不可。既に事切れたアイボーの機転に引っかかってしまい、著しく弱体化してしまっていたのだ。
「文句を垂れても遅いッ! 残りあと十秒! 本イベントは貴様を悲鳴を以て終了すると予告しようッ!」
ザシュトロは矢を取り、イベント終了時刻が迫る中、最後の全力を込めて引きしぼる。
コウリンを倒せばアイボーのキルポイントを取り返せ、よしんば倒せなくとも悲願の入賞は果たせるであろう。
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右手装備がひのきの片手棒→無しと換装されました
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「躱すのが困難になった貴様を一息に貫いてくれるーッ! ブァーッハッハッハッ、はっ?」
「知らんけど、こういうのもいわゆる裏技っていうんだろ」
ザシュトロは目の前で起こっている面妖な光景に目を疑った。
コウリンが目と鼻の先まで肉薄していたのは、破れかぶれの突撃だと当てはめれば納得つく。
だが、コウリンの頭部が何故か無くなっているかのように捉えたからだ。
「連続トリプルキック。見てるかネイロ、お前には不戦敗だがポイントなら勝ったぞ」
そして頭が無くなったのは捉え違いで、ただ単に倒立していただけだと解った頃には、もう彼のHPは1ミリも残っていなかった。
「アギャ! アギャアアアア! ドォーしてスキルが使えるんダーッ!!!」
「手を足に、足を素手にしたからだ」
「理屈が、理屈が分からンンンンンンンンンンンン!!」
理解不能のまま全てのキルポイントを失うザシュトロ。
コウリンが裏技だと言った行為は、武器をそのまま握りつつ逆立、すると両足は両手の部位(但し素手となる)へととシステムが同様に扱うと、運営どころか八百万の神でも分かったもんじゃない偶然の産物だったのだ。
だがこれは決して不公平な裏技ではない。
弓使いであるザシュトロも逆立ちした後、弓を装備し直し足で矢が引ければ理論上は可能なのである。
仮に可能だとしても使い時は皆無であろうが。
『お疲れ様でした。バトルロイヤルイベントは終了となります。これより上位三名のプレイヤーには授与式を行います』
こうして、波乱に次ぐ波乱を巻き起こした戦場とはこれにてお別れとなる。
☆★☆
観客席から大勢のプレイヤーに見守られながら、それぞれ三人のプレイヤーが壇上に着き、インタビュアーからそれぞれコメントをするよう促される。
「ありがとうございます。今後は公認プレイヤーとして恥じない活躍を行っていこうと思います」
一位は8064キルポイントのグリードリヒ。
彼は一線を画すレベルの高さにより元々優勝候補なので、終始独走状態であった。
「ちくしょう! よりにもよってグリードリヒを攻めあぐねている間に!」
惜しくも三位に転落してしまった5056キルポイントのデストロイヤル。
彼は要所の判断力はかなりのものだったが、実力が一位の者と拮抗していたのが不運であった。
「ふぁあ〜。ねむい」
そして大半のプレイヤーの予想を裏切り唐突にニ位へ浮上し、本人の何一つ知らぬところで今イベント最大クラスの脚光を浴びている5130キルポイントのコウリンは、どれほどの名誉か分かってないのか無神経にも大あくびを繰り出していた。
仮にコウリンから射殺しとけば地の利を活かしてネイロと互角な撃ち合いが出来た。しかしもしネイロが即座に逃げる選択をすれば待ち伏せ戦法中のザシュトロは追跡できず順位外で終わってしまう。だからネイロから射殺せざるを得なかった。
どのみちあやつらは詰んでいたわけですな。




