拳闘士の初ログイン
短編部ですが大幅修正
「へぇー、一面真っ白で目がチカチカしそうだ。おっ、誰だこの人」
「ようこそ『KILURAキルラオンライン』へ。ワタクシがプレイヤーの皆様を案内する案内型AIイアンと申します」
ソフトを起動した光凛が最初に目にした人物は、黒を基調とした執事服に身を包んだNPCの青年であった。
これより彼からアドバイスを受けながらキャラクター作成を行うのだが、光凛は早速率直な意見を呈する。
「何で案内役のキャラが執事なんだ? 俺的にはメイドさんが良かったんだが変えられないのか?」
重要でない疑問をまるで核心をつくような口振りで言った。
「申し訳ございません。メイドの方も居るには居るのですが、プレイヤーの性別に合わせてアドバイザーが決定致しますので……変更は不可能ですが、短い間ですので何卒ご了承下さい」
「そうなんだ、流石に機械相手じゃ俺が女だってのお見通しなんだな。わかった」
その肯定的な性格故に、不満を覚えずあっさりと首を縦に振る光凛。
「では早速、こちらにキャラクターエディットとプレイヤーネームを設定して下さい」
ぱあっと淡い光を帯びて顕現したネームプレートと、お世辞にも整えられているとは言い難い自分の姿。
ただでさえ服装は高校時代の赤いジャージ、顔に至ってはまるで五秒で描いたのではと言わざるを得ない程にデフォルメされた造形、その上身長は成人男性基準ならば平均である170なのと相まって、第一印象では女性と捉えてくれる者などおるまい。
とはいえ、本人はコンプレックス等は抱いておらず、実際めんどくさがって否定しない事が多々ある。
「見た目はそのままでいいぞ。そんで名前決めか、そんじゃ適当にコーリン……やっぱりコウリンでいいや」
光凛にとって本名を曝け出すのに抵抗は無かったため、パソコン操作の要領でネームプレートへスラスラ打ち込んでいた。
ここまでとんとんとしたテンポで進行しているが、次こそがキャラ作成の中で最も肝の要素である。
「コウリン様ですね。それではコウリン様、次は初期装備を選択して下さい。選んだ武器から職業が決定されますのでご慎重に……」
その次に現れたものは、ズラリと細かく並ばれた武器の項目だった。
これこそ、KILURAオンラインの目玉である武器の種類の多さなのだ。
「うおっ、ビックリしたぁ。剣や槍やらむっちゃあるんだな。だが武器っていってもこんなに選べる幅が多くってもなぁ、こういうの子供心にウケそうではあるが……」
コウリンはあまりの多さに度肝を抜かれながら何かに悩んでいたが、その目線は右下の端だけを向けては唸っていた。
「なぁんだ。武器選ぶっての強制じゃないんだ」
そこには『なし(素手)』の文字、誰がどう視界に入れようがスルーするであろう項目。
隅にポツンと置かれている時点で扱いについてはもうお察しであろう。
一応、武器は無用と言い切って選択も出来るが、わざわざ男気溢れるようなマネをする者はVRMMOなどやってはいまい。
「素手はつまりステゴロで戦うんだよな。よっしゃ、武器は素手でやろう。俺って令和生まれだから銃火器みたいな武器なんて使ったこと無いからな」
だがコウリンは、謎すぎる理由で丸見えの大型地雷を踏んでしまった。
歴代のMMORPGで素手が強力だった作品は果たしてあっただろうか、活躍するとしても精々素手縛りの撃破ミッションが関の山だろう。
「素手でございますか、それならコウリンさまの職業は『拳闘士』に決定致しますが宜しいですか?」
「いいぞ。なんかカッコいい名前の職業だし俺にもやれそうで良さげじゃん」
名前からの印象で思いのほかまともそうな職業になれそうなので、これまで感情を感じられなかった表情が緩んでいた。
ところが、このゲームでの拳闘士の実態を大まかにまとめると、平地や接近戦であれば攻撃速度にある程度の補正がかかるものの、それを生かせる武器どころか武器自体が何一つ装備できず、あろうことか刃物系の武器からのダメージが大きくなってしまうと、扱いが悪いを通り越して鬼畜仕様な職業であったのだ。
勿論、説明書をざっと読み進めただけのコウリンには知る由も無い。
「あっそうだ、イハンだっけ? さっき悩んでたんだけどさ、この中から武器を選べって言ってる割りには選ばないみたいなのもアリじゃんかよ。矛盾してね?」
更に長々悩んでいた内容を打ち明けたがこれである。
しかもコウリンの生来の忘れ癖により、もう相手の名前を純粋に間違えてしまっている。
「イアンです。ですがまさか素手とは驚きました。素手とは文字通り丸腰、しかしそれ故に無形、まさに己の体一つで戦い抜く職業『格闘家』にとって最も合致した武器でございます」
「へー、やっぱり見方を変えればれっきとした武器扱いなんだな。なんかテンション上がってきたぞ」
光凛が長考して選んだ素手を、物は言いようとばかりにイアンは極力否定せず、不快な気持ちにさせないよう丁寧に解説をする。
まるでペテン師の手際だが、彼は運営に作られし一介のAIなのだから悪気は無くて当然であった。
「次で最後でございます。これよりステータスポイントを50進呈致します。この五つのステータス項目へと自由に振り分けて下さい」
そう言うと、STR、DEF、AGI、INT、LUKの文字が出現する。
割り振れないステータスではHPとMPがあるが、レベルアップに比例して一定数ずつ上昇する仕組みである。
どの振り方が最適とは断言できないが、レベルアップと共に5ずつ獲得出来るため、深く考えず割り振っても良いはずなのだが、
「まあいいや、ここはバランスよく10ずつ振っとこう。バランスってのはだいたい安定するし基本だよな、うんうん」
コウリンは短絡的思考により、オンラインゲームで悪手ともいえる振り分け方をしてしまっていた。
そもそも、コウリンはゲームの腕や経験は数年前にオケモンをかじった程度と初心者のそれであり、文面から考察して意味を置き換えたり、不明な点を攻略サイトで確認などといった習慣がない人間だったのだ。
ちなみに、魔法職でない拳闘士にとってINTに割り振るのはほぼポイントの無駄であるものの、本人は気づいていないだけいっそ幸せであろう。
なお『どの職業も何かしら強みがある』が運営のコンセプトなので、修整の望みも薄い。
「お疲れ様でした、これにてキャラクター作成は終了です。よろしければOKのマークを、そうでなければこの星印をタップして……」
「OKを押せばいいんだな、それじゃポチッと」
即決。
過ちに気づき選択し直せる最後のチャンスを意に介さず、誘うようにふわふわ浮いてあるオンライン世界への片道切符の使用を証明してしまっていた。
「かしこまりました。ではワタクシとはここでお別れででございます。それではコウリン様、このKILURAオンラインの世界をお楽しみ下さい……」
「おう。ありがとなイヤン、お前の名前覚えといてやるよ」
手を振るイアンの姿が薄れてゆき、真っ白だった空間では全方面から目映い光が迸る。
これからスタート地点であるスタータウンへと転送されるのだ。
コウリンは目を瞑りながらVRの高揚感を楽しんでおり、自分がイバラの道に突っ込んでしまったとは全く思っていないだろう。
そして、本人が気づかない間にトップクラスのプレイヤーにまで成り上がってゆくとは、誰もかれも運営さえも予想出来るはずもなかった。
今までワイが読んだVRMMO小説は弱い職業が実は最強という題材が多かったが、どれも素手に関しては流石に論外だのと言われてた。
つまりワイは捻くれすぎ