表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/52

拳闘士と事前練習

でぇじょうぶだ

ストックはまだある

 空となったカップをインベントリに放り込み、コウリンなりに真剣な面持ちとなり耳を傾ける。


「大事な用件っていうのはバトルロイヤルイベントの話。コウリンももう知ってるかもだけど、このPVPはキルライ史上初イベントだから、きっと全国の暇人達がねいろんちゃんの活躍を見届けることになるんだよ!」


 ネイロは歓楽に包まれた笑みを浮かべる。情報検索や効率の良いレベリング等、あらゆる手段で培った実力を見せる場が刻一刻と到来しているからだ。


「ピープーペー? お前いかにも怪しげな儲け話からは身を退いた方がいいぞ」


「ヒーブイピーだよ!! ちゃんと公式サイトで予告されていた情報です! ねいろんちゃん言うほどチョロくないもん」


 ネイロは簡単に騙されるように捉えられたのが心外なようで、頬を膨らませる。


 コウリンはまるで知らなかったが、三日離れていた間にアップデートが施されており、様々な追加要素の他、プレイヤー同士が専用のフィールドで入り乱れて対戦する大規模なイベントが明日開催されるのだと、ネイロが自分のことのように胸を張って話した。

 通称バトルロイヤル、MMOのジャンルに博識な者からはPVPと呼称される一大イベントである。


「――殺伐としてるが面白そうだな。それで、俺はネイロと勝負すればいいってわけか?」


「ノンノン! 逆だよ逆、一面敵だらけになるイベントだからこそ、私達三人がもちつもたれつ結束しながら進めるって作戦でいこうと思うんだ。私ガチで優勝狙ってるから手段は選んでられないんだよね〜」


 ネイロが今回の主旨を伝えた。

 ルール上、徒党を組んだところで失格や通報はされないので、ネイロの提案した作戦は互いの生存のためなら一理あるだろう。

 ちなみに現在の総プレイヤー数は五万、全員が参加するとは限らないものの、こんな大勢のプレイヤーが居れば優勝どころかそもそも全員生存するだけでも至難の業だと予想される。


「まあ俺は優勝よりもそれなりに楽しめればいいし賛成だ。だが協力するんならリリーとかいう奴だけじゃなくてもっと色んな奴をまとめて連れてくるのは無理だったのか?」


 コウリンは訊く。ネイロだって可能ならそうしてたとはつゆ知らず。


「……私のフレンドがコウリンとリリーちゃんしかいないから無理。掲示板で悪評広まった日にみんな一斉に切っちゃったみたいから」


 ネイロは眼がいつになく死んでいるような状態となって事実を伝えた。

 いくら熟練のプレイヤーが味方にいたとしても、自己愛の塊のような人間にはついて行けないと判断してしまったのであろう。


「へえへえ、つまりお前友達いないんだな。すまんこと言っちまったな、元気出せよ」


「なんでコウリンは無神経に傷口抉ってくるのさ! 私だってリリーちゃんとは親睦を深めた一生のお友達です〜! 私がいなきゃボッチなコウリンにはそこのとこ勝ってるからね!!」


 ネイロは落ちぶれた現状に対し、開き直っては子供っぽく言い返し勝ち誇る。

 数の勝負に持ち込みながら0と1の差で勝ちを掴んでは哀れ極まりないが、そう気にも留めない内にネイロの両頬に忍び寄る魔の手があった。


「そんな!? ネイロちゃんがワタシを友達としか思ってなかっただなんて……恋幕に耽る表情を見つめ合った大切な人同士だと思ってたのに……!」


 誰も目撃しない内に起き上がっていたリリーがネイロへぎりぎりまで顔を近づかせ、有無を言わさず運命の選択を強いらせる。

 前髪の間にちらりと見えた瞳は、嫉妬と憎しみによって狂い歪んでいたようだった。


「あーもう! なんで私の周りってこういう扱いに困る変人しかいないの!? このねいろんちゃんはかわいくて聡明でみんなからの憧れの的なのにさ!」


「お前も大概だけどな」


「う」


 冷静にごもっともな意見を言い放つコウリン。

 痛い点を突かれたネイロは言い返す気力もなくなったため、音も発さずスタスタ歩きながら、二人ともついてこいとでも言いたげな無言のメッセージを送っていた。


 ただ、歩きはじめて間もない時点でネイロのボロボロのメンタルは本調子にまで回復しており、有り余るほど早い立ち直りにコウリンはただただ苦笑するだけであった。



□□□



 二人が後に続いてやってきた場所は、王都から東に歩いてすぐにある『東の森』と呼称される所であった。

 少々安直な名前だが、出現するモンスターは場違いにも弱いため計らずとも合致していたりする。


 実際目の前で涎を垂らして唸っているワイルドボアは、二人の現在の実力を測るため、ネイロがわざとこちらまで呼び寄せた弱小モンスターだ。


「はい注目! 明日までに少しでも優勝に近づけるよう、この辺のモンスターでお二人の最終調整するよ! まずはリリーちゃんから、コウリンは一旦私と一緒に離れてね〜」


「あいよ。俺もリリーがどんなホラーじみた戦い方するのか楽しみだし」


 ネイロとコウリンは、リリーの邪魔をしない位置まで距離をとっており、咄嗟の手助けは不可能になるがこれで敵の攻撃対象に選ばれなくなる。


「ウフフフフ……いいコね……遍く全ての女のコ達がワタシに振り向いてくれるまで、手始めにあなたの命で遊んであげるわ!」


 声を歓びに震わせながら啖呵を切り、突如切り裂かれた空間から身の丈もの大きさがある鎌を引きずり出した。


 彼女の職業こそ、アンデッド系モンスターの使役を専門とするネクロマンサーであり、使用する武器は死神が扱うような大鎌である。


「お、お前なあ! 武器を持つだけでこんな凝った演出する奴があるか! それに鎌が巨大とか見るからに殺意マシマシだな……」


 鎌は農具の見解があるコウリンにはさぞかし未知の世界であったようだ。


「さあ、これから存分に死に合いましょ……いたっ」


 しかし、初っ端からリリーは鎌を振り下ろす前に、怒り狂った相手の突進攻撃を受けてしまう。

 原因を挙げるならば、ただ行動が遅すぎたのだ。


「リリーちゃん、私言ったじゃん。アンデッドモンスター頼りのネクロマンサーはSTRだけじゃなくてDEFやAGIに割り振った方が良いよってさ〜」


「仕方ないのよ……まだガイコツちゃんが脆くて頼りないから、ワタシが代わりに刈ってあげないといけないの。許して……」


 ネイロに指摘され、大鎌を落とし意気消沈して塞ぎこむ。


 彼女もコウリンと似たように、その場その場の考えでステータスを割り振るタイプであったのだ。

 そのおかげでレベル15にして攻撃力は折り紙付きだが、他のステータスは軒並み悲惨な数値だというのに防御に至ってはちり紙で、述べた通り眷属のアンデッドモンスターも戦力にならない始末である。


「でもさ、よく考えたらむしろオッケーだよ。だって物凄く尖ったステータスだってやり方次第じゃ化けるって隣にいる人が証明してるしいっそ自分の道を極めた方がいいよ〜。じゃあ全力でやってみせて、コウリン」


「おうわかった。連続トリプルパンチ」


 ネイロの指示で戦闘を交代、同時に突進しつつあるワイルドボアに躊躇なく踏み込み、骨王の戦靴(DEF&AGI+25)により更に速度が上昇した走りと、スキルの力で相乗させたインファイトを放ってみせた。

 放ったパンチはざっと15回と、スキルを使用したとはいえ半端な剣士が一回攻撃するまでにかかる時間でこの回数であり、コウリンの素質が垣間見えているだろう。


「いいねコウリン、惚れ惚れしちゃうよ! ま、コウリンみたいにAGIに偏らせても一人でボスに勝てちゃうみたいだからね、だからリリーちゃんもそろそろ長所が開花するはずだよ〜」


「ネイロちゃん……優しいコ……♡」


 ネイロは慰めとなる言葉を投げかけたおかげで、リリーの起伏が激しいメンタルが回復できたようだ。


 その一方でコウリンは、二人に見向きする前に、今の戦闘で獲得していた興味深いスキルを確認していた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 スキル【二刀流?】を獲得しました

 効果:拳闘士限定。左手無装備、全ての攻撃時に追撃が発生される(常時発動)

 獲得条件:左手無装備状態で攻撃を総計1000回当てる


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「二刀流……って宮本武蔵とかが剣を両手に持つアレだったはず。なんか二刀流の定義が壊れそうな称号だなこれ」


 訳が分からずそっとぼやくが、これは運営側も自覚があるようで、まるで遊び心のように文尾にクエスチョンマークが添えられている。


 ところが、こんなスキル名でもPVPどころか戦闘全般ですら拳闘士のどんな戦略にも組み込められる、誇張抜きで便利かつ重要なスキルであるのだ。


 それは明日のPVPイベントで証明してくれるだろう。

是非ともポイント評価宜しくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ